第53話
「海人…く…ん…海人…」
遠くから名前を呼ぶ声が頭の中に響く。
「俺は?ここはどこで俺は何をしているんだ?」
周りを見渡したが、世界は白だけで構成されているようで、目の前だけでなく、頭上も足元も白だけの、白一色の世界だった。
この白の世界で色があるものは、自分の存在だけで、遠くを見渡して見ても、ただ白色が見えるだけで、他は何も無かった。
「海人…君…」
呼ぶのは誰だ?この白の世界で呼ぶ声。女性の声で、それが誰かはわからなかった。
「俺は誰だ?」自然と口から出たが、自分で自分自身の事が、存在が何かもわからくなっていた。
「海人…君…」頭の中に呼ぶ声が響く。
「君は誰だ?」疑問が口から出た。
「海人…君…」
頭の中に響く声は、名前を呼ぶだけで、疑問には答えてはくれなかった。
「海人よ…」次は年老いた老人らしき声が聞こえ出した。
「海人…自分を…」
「誰だ?」頭の中の声に問いかけてみるが、誰も疑問には答えてくれない。
「身を委ねろ…怒りのままにチカラを振るえ」新たに男の声が頭に響く。
「誰だ?俺は誰だ?俺はどうすればいいんだ?」
「殺せ…目の前の男を殺せ」
次の瞬間、白だけの世界に何かが姿を現した。それは、仮面を付け、燕尾服を身に纏い、頭にはシルクハット被った男の姿だった。
目の前の男は言った。
「そうだ。俺を殺せ。怒りに身を委ねて俺を殺せ」
「俺は…俺は…違う」
「殺せ」
「違う」
「殺せ」
「違う」
「俺を殺せ」
燕尾服の男は海人を問い詰めた。
「怒りの力を闇の力に身を委ねて俺を殺せ!」
「俺は違う!殺さない!」
「そうよ、海人君!」
「そうじゃ、海人!」
その声を聞いた次の瞬間に世界は一変した。白一色だった世界は、どこか海を連想させる青の世界となっていた。仮面に燕尾服の男の姿は見えない。
相棒のナナカミの姿を確認しようと思ったが、それは姿は確認できなかった。
「海人君!」そう言った女性が姿を現すと、それは海人の知る女性の姿だった。
「桜ちゃん!」
今の桜は淡いブルーのドレスを身に纏っていた。
「海人君、待ってるから。私も戦って待ってるから」
「桜ちゃん、どこにいるんだ?」
「海人君、私は今…に…」桜は全てを言い終える前に、その姿を青の世界から消した。
「桜ちゃん!」
戻らないといけない。ここは本来、今の海人のいる世界ではない。現実の世界に戻らなければならない。しかし、海人にはどうすればいいのかわからない。
そう思った時に、一瞬空間が歪んだと思ったら『それ』は現れた。
それの大きさは、海人の手の平に乗りそうなくらいで、その姿は梟を連想させ、梟に見えたが、ただの梟でもなく、青色の羽のそれは、ぽっちゃりと太った梟のような生物らしく、更に驚くことにそれは人の言葉を話した。
「やア、ボクはルウィンだヨ。ランスゥに頼まれテ、キミを助けに来たヨ」
それはまるで、時空の鏡から飛び出したみたいな登場の仕方だった。




