第45話<桜の大好物>
食堂と思われる一室に賑やかな会話が聞こえて来る。
「カメ男カメ男、これは何?」
「こちらは、海くらげのスープでございます」
「じゃあ、これは?」
「海くらげのナーゲ和えでございます」
「もう、こんなもの食べれるわけないでしょう?」
女性が抗議の声をあげている。
カメ男と呼ばれた亀みたいな男が反論する。
「姫様、これは最高級料理でございますぞ。それに私めは『カメ男』ではございません。『ガスキュール』とお呼び下さい」
「カメ男のくせに生意気ね!それに姫って何よ!」
その時である。
何かが落下したかのような地響きが聞こえた。
「バルディ様のお帰りです。姫様、どうかお召し上がりを」
ガスキュールは今にも泣き出しそうである。
「もう、その手には乗らないわよ。いくら私でも、こんなわけのわからないものは食べれないわ」
「ガスキュール、帰ったぞ」
その声と同時にドアが開き、2m近い大男が入って来た。
部屋は天井が高く、大男が50人入っても余裕がありそうな広さだ。
その中心にテーブルがあり、女性が座ってガスキュールが食事の用意をしていたところだ。
「バ、バルディ様、お帰りなさいませ。姫様は、只今、お食事めにございます」
「ん?それにしては、食事に手をつけておらぬようじゃな」
バルディはそう言い、女性の食事を覗き込んだ。
「ガスキュール、どうらや姫の口には合わぬようじゃ。どれ」
そう言い、皿を取り上げると一口、二口…全ての料理を平らげてしまった。
「美味いではないか。ガスキュール、我の食事より、良いのではないか?」
「滅相もございません。私はバルディ様のお言葉通り、姫様にお食事を用意致しました」
ガスキュールは完全に狼狽えている。
バルディは困った顔をして、
「姫、いや、桜姫。食事を摂らぬと体がもたぬ。どれ、姫の世界の食事をワシが取り寄せてやろうではないか。何が食べたい?何でもかまわぬぞ」
桜はどうしたらいいのか迷っているようだ。確かにバルディの言う通り、食べなくては体がもたない。
「ハンバーガーでいいわ。でも、モズバーガー以外はダメ。それと、アイスコーヒーも欲しいわ」
「よかろう」
バルディがそう言い、指をパチリと鳴らすとテーブルいっぱいのハンバーガーとアイスコーヒーが現れた。
「これでどうじゃ。食べてくれぬと我も困るぞ」
余程であろうか、お腹が空いていたのか、桜は食べ始めた。
「私一人だと寂しいわ。あなたたちも食べてよ」
「ガスキュール、同席を許すぞ。我もこの食べ物に興味がある」
バルディの言葉を聞いたガスキュールが、涙を目に浮かべ、飛び上がるが如くに喜んでいる。
「ありがとうございます。バルディ様」
「どれ、我も食べるとするか」
そう言い、バルディは席に着きハンバーガーを食べ、アイスコーヒーを飲み始めた。
「バルディ様、姫様、美味しゅうございます。ガスキュールは幸せにございます」
ガスキュールはそう言いながら、バクバクと食べている。
「ほう、姫の世界の食べ物は美味いのう。今後は姫の世界の食事を取り寄せることにするか」
「……………」
桜は考えていた。バルディのこのチカラの源は何なのかと。
桜は考えた。どうしたら、元の世界に戻れるのかと。




