第43話
ダラスはどうやら、スライセンターから出て来たみたいである。海人の頭には、ある疑問が浮かんだ。
ダラスは海人の疑問を察したように話し始めた。
「海人さん、スライセンターには緊急用の脱出口が下水道につながっています。私はそこから、スライセンターに侵入しました。しかし、そこは誰もが出入りが出来るものではありません。この国の首相だけに許されています。出入りは、私の目の網膜を認識する装置でドアのロックが解除されます。そして、私はスライセンターに入り、海人さんの戦いを見ていました。見たと言っても、私の目では見えませんでしたがね。この世界を守る、監視衛星を通してでもです」
ダラスはこの国の首相だったんだ。だから色々とレジスタンスの情報にも詳しく、まとめるのが上手かった。
海人は自分の国の首相を思い浮かべた。海人の国、日本では政治家が私腹を肥やし、金儲けのために政治をその手段にして、選挙のためだけに政治をして、国民の為にとういう政治家は居ないと言ってもいい。それが海人には情けなく思っていた。
そして、その首相のリーダーシップがなく、政府としての機能を維持し続けられず、国民の支持率も最低なのを思い出す。
しかし、ダラスは違う。この国、この世界のことを真剣に思い、自らが先頭に立って行動している。
「これで、我々の国、いや、世界は元通り平和と秩序が訪れるでしょう。我々は、海人さんに何かお礼をしなければなりません。海人さん、お望みのものがあれば、どんな要求にもお応え出来ますよ。ご遠慮なくどうぞ」
望みか。海人の望みは、バルディを倒し、桜を助け出すことだ。
この情報が欲しい。
「ダラスさん、バルディの行き先と『桜』という女性を見ませんでしたか?その女性は俺にとって、かけがえのない大切な人なのです。もし、知っているなら教えて下さい」
ダラスの表情が曇る。
「申しわけありません。突然のことでした。バルディの軍団がこの世界に現れたのは。そのため、我々はバルディに関するデータを何一つ知りません。わかっているのは、強大で邪悪な存在だということです」
海人にはダラスの気持ちが何となくわかる気がした。
もう、この世界に留まる理由もない。
「ナナカミ、次元の間に戻ろう。この世界は救われた。バルディを追い、次の世界に行かなければならない」
ダラスがこの会話を聞いていた。
「行かれるのですか?せめてものお礼と思い宴の準備をしようとしていたのですが」
「お心遣いありがとうございます。しかし、俺達には時間がありません。急いでバルディを見つけ、倒さないといけません。お気持ちだけ、いただいておきます」
「残念です」
ダラスはそう言い、海人に小さなカプセルのようなものを渡した。カプセルは金属なのか硝子なのか、それとも未知のものなのかはわからなかった。
「これは我々の世界の技術の結晶となるものです。きっと、海人さんの旅に役立つと思います」
「ありがとうございます」
ダラスに礼を述べ、海人は鏡のある図書館へ向かうことにした。
「海人、カプセルの使い方を聞かなくて良かったのか?」
ナナカミが声を掛けてくれたのだが、当然のことと思われる。
「ダラスさんがあえて説明をしなかったのだから、必要な時に力を発揮してくれると思うよ」
「そうか。では、行くぞ」
この世界の入口である図書館の鏡の前へと戻った。
しかし、海人はバルディに関しては、ある疑問があり、それを解決しないといけないと思っていた。
「ナナカミ、バルディを追って時空の鏡に入り、世界を移動しているけど、バルディがいてもバルディには簡単に逃げられてしまう。次元の間でランスゥに相談する必要がありそうだね」
「そうじゃな。ワシもそう思っておった」
「じゃあ、行くよ」
そう言い、鏡に意識を集中させた。
海人の両目には赤い羽が浮かぶ。
鏡は波紋を浮かべた。
そして、海人は鏡の中へと入った。
次こそ、バルディを倒すことを心に決めて。




