第35話
海人はナナカミと共に次元の間に戻って来た。
ことの経緯をランスゥに話さなければ。それも大切で急がれる。
そう思っていたのだが……ランスゥがいない?
無限に広がる次元の間を探してみるのだが、やはり、ランスゥがいない。
「海人、ここじゃ。どうやら無事だったようじゃな」
驚いたことに、ランスゥは海人の頭上から降りて来た。
「うわっ!?ランスゥ、驚かさないでくれよ」
「すまん、すまん。鏡が面倒なところにあったのでな」
そう言うと、1枚の鏡を海人に見せた。
その鏡は枠は金や銀、宝石などで飾られているが、今までの鏡との違いが一目でわかった。
そう、その鏡には大きな罅が入っていたからである。
「わかったようじゃな。この世界は滅びの一歩手前にある。バルディの奴が本格的に動き出したようじゃ」
バルディが鏡の世界を…桜を助けなければならない。
「直ちにこの世界に行くのじゃ。迷う暇はないぞ」
ランスゥが海人を急かすように焦らせる。
そうだ。海人はランスゥに言わなければならないことがあった。
「ランスゥ、俺はどうやら魔法が使える、白の魔法使いらしい。バルディが俺の対となる黒の魔法使いというのは初めて知ったよ」
あらかた予想していたのか、ランスゥは落ち着いている。
「ではその魔法を使ってみよ」
「わかった。今、宙に浮いてみるから」
体が軽い…羽のように軽い…俺は…?
どういうことだ?
魔法の魔力が働かない。体が軽く、宙に浮くイメージをしても全くダメだ。
「どうした?」
海人にもわからなかった。
つい先程には、光のような速さで空を飛べたのに…。今はそのカケラもない。
「ランスゥ、バルディの誕生した世界では、俺は空を自由に飛べた。しかし、ここではその力が発揮出来ない。どういうことなんだ?」
「海人、これがワシがお前さんに内緒にしておいたことじゃ。バルディは、その世界の全ての人間が魔法を使える世界で誕生した。お前さんは違う。しかし、焦るではないぞ。その力は、今は眠っているだけじゃと思う。本当に必要になる時には覚醒することになるというのがワシの推測じゃ。しかし、これには根拠がない」
「ワシがおる。魔法に頼らずとも大丈夫じゃ」
ナナカミだ。そうだ。海人には相棒のナナカミがいる。恐れることはない。
「俺は行くよ。バルディを倒し、桜ちゃんを助け出さないといけないからね」
「そうじゃ、迷うな、海人。迷いが隙を作る」
ランスゥとナナカミが同時に声を掛けてくれた。
「二人ともありがとう。じゃあ、行くよ」
鏡に意識を集中させた。海人の両目には赤い羽が浮かび、罅の入った鏡は、表面に不規則な波紋を見せる。
「行って来る」
そう言って、鏡の中へ入った。
ランスゥの声が遠くから聞こえて来た。
「海人、頼んだぞ。滅びが近い。お前さんが頼りじゃ…」
そう聞こえたのを忘れてはいけないと思った。




