第32話
これがバルディの居城なのであろうか。海人の降りた中庭には、中心に水を噴出している噴水があり、その周りには緑…木々や美しい花々がある。甘い花の香りまで感じることが出来た。驚くことに蝶まで舞っているではないか。想像していたバルディの居城とはかけ離れていた。
「海人、どうやらここには誰もいないようじゃ。それと、人の気配は無いが、この城自体が生きているかのような力を感じる」
ナナカミに言われるまでもなく、それは海人にもわかった。誰の気配を感じることが出来ない。
それと、城が生命を持っているような不思議な感覚。これがバルディの魔力によるものなのだろうか。300年の時を経ても衰えぬ力。これがバルディの魔法のなせる技なのだろうかはわからない。それが未だに機能しているのだろうか。
思案に沈んでも仕方ないので、城の奥へと進んでみる。やはり、そうだ。この城は主がいない間もその姿を変えることはなかった。途中の通路や壁に飾られた絵画や装飾品には、埃を被った様子が微塵も見られない。塵一つ無かった。勿論、地面である通路にもだ。
「ナナカミ、バルディはここから何かを持ち出したらしいと聞いたけど、一体何だろう?」
「ワシにはわからん。この城がワシの感覚を狂わせているようじゃ。しかし、わざわざバルディが持ち出したのだから、奴にとっては相当なものじゃろう」
海人にも分からないが、ナナカミにも分からないようだ。
通路を更に進み、大きな広間へと出た。どうやら、ここが主の間でバルディの玉座らしい。部屋の奥に大きめの立派な椅子が光り輝くように見えたからだ。
その時である。
玉座の前に半透明な画像が浮かび上がった。
そして、驚くべきものを見ることとなった。
画像は海人の世界にあるテレビのようで、ある人物と…!
ついに見つけた。
「どうやら、お前が我の宿敵となるようじゃな。ランスゥの代理ということで、薄々、感じておったぞ」
声の主はバルディだった。
「海人君!」
そして、桜だ。今は淡いブルーのドレスを着ている。
「桜ちゃん!」
「無駄足じゃったな。そこにはもう何もあるまい。桜姫は我がもらった。お前が我に会うことは叶うまい。何故なら、その前に我の配下の者たちによって、その命を絶たれることになるからな」
「海人君、私は大丈夫!私、海人君を信じて待っているから…」
「もうよかろう。さらばじゃ」バルディがそう言うと画像は消えた。
桜は無事だった。
やはり、バルディに連れ攫われ、囚われているようだ。
しかし、桜姫とは?姫と呼ばれた桜が気になったし、気持ちは焦る。
だが、ここで立ち止まってはダメだ。
一先ず、サイラとディードに事情を話した方が良さそうだ。
「ナナカミ、ここではバルディに関することは何もわからないと思う。一先ず、引き返そう」
「そうじゃな。それが賢明のようじゃ。海人、焦るでないぞ」
ナナカミは逸る海人の心を静めてくれているようだ。
飛び立つべく、急いで城の中庭へと戻った。
初めてとは違い、勝手もわかる。意識を集中させた。体が宙に浮く。遠く城がだんだん小さくなる。
海人はジャガの国を目指した。
光のような速さで。




