第25話<力の発現>
鏡に入る前に、ナナカミが声を掛けてくれたのを忘れてはいけなかった。
「鏡の出入りが一番危険じゃ。この前のようにならぬようにな」
この前はオーベルの罠にはまり、鏡を出たところを不意打ちにされた。その経験もあり、今回は集中を解かず、鏡の中へ入ったのだった。
しかし、ランスゥの隠していたことが気になる。もう一つの秘密のこととは何を意味しているのか。
鏡を出たが、この前のように不意打ちをされることはなかった。何故なら、鏡を出たところには誰もいなかったからである。
ここは?長椅子が多くあり、壁面の窓にはステンドグラスがある。祭壇らしきものもあった。そうだ。海人の世界でいう、教会らしき建物の中であった。他の世界にも信仰があるのだろうかと思ったが、今の海人にそれはどうでもいいことだった。
ここでじっとしているわけにもいかない。ナナカミに一声かけて、教会らしき建物を出ることにした。出入りの扉は両開きである。開けると眩しい光が入って来た。どうやら、昼に近い時間らしい。
扉を開け出て、手前の数段階段を降りると、その先は道路のようであった。
しかし、海人の世界のそれとは事情が違った。道路に自動車は無く、その代わりに馬車が道路の主役だったからである。
前方の道を挟むように店らしきものがいくつかあるが、実際は店かどうかもわからなかった。馬車に混じり、人が歩いている。獣人の世界とは違い、人間の世界のようで、賑わいがあり、どうやら栄えているらしい。だが、どうしたらいいものかと正直迷った。
ナナカミが「人と馬車が多く進む方へワシらも行こう。多分じゃが、それがこの国?の中心となるだろう」
実年齢はわからないが、年の功である。ナナカミの声に従うことにした。
道路を見て、流れの多い方向を探ってみる。教会を出た道の左手の方に流れが多くあるようだ。
「左手の方向に進んでみるよ」ナナカミに一声掛けて左手の道路へと進んだ。
道を擦れ違う見る人々が色んな表情を見せる。警戒する者、好奇心で目を輝かせる者。怯えのような表情を浮かべる者。
一体何なんだ!
その時である。木材を多く載せた荷馬車のロープが切れた。大きな音を立てて落ちる木材の落下点には、人らしき一人の少女がいた。20本くらいの木材は、今まさに少女の上に落下しようとしている。そして、不思議なことが起こった。落下した木材は、空中で止まり、母親であろう女性が少女を助け出し、海人にこう言った。
「ありがとうございます。どうやら、他の国の方ですね。しかも、大きな力をお持ちです」
何のことかわからなかった。
ナナカミに聞いてみる「ナナカミ、今、力を使ったかい?」
ナナカミの答えは簡単だった。
「ワシがか?そんな余裕はなかったぞ。しかも、あの一瞬で大量の木材を止めるのはワシだけでは無理じゃ。そもそもワシは、使い手がおってこそ力を発揮するものjだからの。ワシだけでは何ともならぬ」
木材は既に地面に落ちている。
少女を助けた母親らしき人物が海人に話しかけて来た。大きな事故なので周りはざわざわと騒々しかった。
「この度は本当にありがとうございました。この国は初めてですか?それでしたら、お城で職業登録をなさって下さい。お城はこの道を真っ直ぐに行ったところにあります。白い建物なので、一目でわかると思いますよ。あなた様なら、きっと、大魔法使い間違いありません」
海人の服装が周りと違うので、国が違うと思ったのだろう。城の方角を指差した女性はそう言うと、何度も頭を下げ、娘を連れて立ち去った。
何だ?職業登録?この国で働かなければならないのか?
状況を理解するのに頭が追いつかなかった。バルディのことを聞けなかった。
「海人よ、城とやらに行くしかなさそうだな」
「そのようだね」
どうやら、城に行って事の真相を聞くしかなさそうだ。
少しの不安と疑問が残ったが、海人は教えられた通り、城を目指すことにした。




