第20話
悔しさでいっぱいで、悔やんでも悔み切れない思いだった。バルディどころか、配下のオーベルまで逃してしまった。桜を……桜を助けることは出来なかった。
海人は次元の間に戻ると、ランスゥに事の経緯を話した。
「バルディを逃してしまった。バルディには配下がいるのか?敵はバルディだけではないのか?」
ランスゥは、その長い顎髭を触り、少し考えているようで、厳しい現実を語った。
「海人よ、バルディは己の力を取り戻しただけではなく、己の配下のものまで復活させたようじゃ。ワシが知っておる限り、奴の配下は13人じゃ。その中には、人のカタチをなすもの、人のカタチをなさぬものもおる」
やはり、敵はバルディ一人だけではなかったのか。
「俺はどうしたらいいんだ?」
答えは直ぐに返って来た。海人の疑問は予想されていたのだろう。
「バルディが鏡を使い別の世界へ移動すると、ここの鏡が曇るのでな。奴の居場所を探すのは容易い。じゃが、移動した先にバルディがおるとは限らん。今回のように、奴の配下の者がおる可能性があるからじゃ」
ナナカミが声をかけてくれた。
「心配するな。ワシがおれば、バルディやその配下の者なぞ恐れるに足らん。ワシとお前が組めば百人力というものだ。自分を信じてワシを頼れば良い。心配無用ぞ」
今はナナカミの言葉が心強かった。
バルディだけではなく、バルディの配下は、ランスゥの言葉が正しければ13人もいるということだ。それが多いのか少ないのかはわからない。ただ、簡単ではないことはわかっている。
桜を早く助けなければならない。ただただ気持ちは焦る一方だ。
「海人よ、落ち着くのじゃ」
ランスゥとナナカミが同時に声を掛けてくれた。そして、ランスゥが話し始めた。
「バルディの次の移動先は既にわかっておる。じゃが、先に述べた通り、バルディ本人か、奴の配下なのか区別がつかん」
そう言うと、一枚の鏡が宙を飛び、俺の前へと移動して来た。その鏡は、ランスゥの言う通り、曇り、鏡の枠には様々な動物が描かれていた。驚くべきは、微かに鏡に映っている人達、人と言っていいのだろうか?。鏡の中で動くそれらは、体は人間のようだが、頭が全て動物…ライオンや犬の姿をしていたからだ。
動揺を隠せず、ランスゥに聞いてみる。
「この鏡にいるのは人間なのか?、それとも、動物なのか?」
穏やかなランスゥの答えが返って来る。
「この世界の住人は、頭はお前さんの世界の動物じゃが、お前さんと同じ人間じゃ。獣人というやつじゃな。心配は必要ないぞ。しかも、この世界の住人は、平和を愛し求め、争いというものを好まぬ。本当に平和な世界じゃ。それ故にバルディに狙われることのなってしまったがの」
少しの安心と緊張が海人を支配する。
ランスゥは、はっきりと宣言した。
「ナナカミと一緒に、この世界に移動するのじゃ」
不安が過ぎるが、海人に選ぶ道はない。選択肢は無かった。
「わかった。行ってバルディを倒し、桜ちゃんを助けて来るよ。じゃあ、行って来る」
鏡に意識を集中させた。
海人の両目には、赤い羽が浮かぶ。鏡は海人の姿を映し出した。
海人はナナカミと一緒に鏡へと入った。




