第19話
海人は焦りを隠せなかった。オーベルがその姿を消したからである。
眼前にいた、オーベルが…消えた。海人の目の前のオーベルがどういうとこだろう。
「海人、落ち着け。心を冷静に集中してみろ」
ナナカミの声だ。
海人は剣…ナナカミでの戦いに慣れていない。慣れていないどころか、初めてだった、剣での戦いに。
心を意識を集中した。
その効果は確実に発揮することとなり、見えた。オーベルの姿が。
オーベルはあの巨体に似合わず、高速で移動しながら、鞭のようなもので今まさに海人に攻撃の一撃を加えようとしていた。危ないところだった。
間一髪でオーベルの攻撃をかわせた。あれが当たれば、大変なことになったことは、容易に想像できる一撃でもあった。
「ほう、若いのにやるではないか。俺の鞭をかわすとはな。小僧、褒めてやろうぞ」
オーベルには海人を侮っている。だが、海人にはそこにオーベルを倒すチャンスがあるのを感じ取ることが出来ていた。
口は災いの元というが…オーベルの油断である。
「ナカカミ、行くぞ」
「任せておけ。奴ごとき小物恐れるに足らん」
海人はオーベルめがけて、剣を振るった。ナナカミが力を貸してくれているのが感じられた。
振り下ろした剣が当たる…いや、かすっただけだった。
オーベルのその長髪に剣がかすめただけだ。
オーベルは怒声を発した。
「小僧、俺様の自慢の髪に手をかけるとは許さんぞ。手加減は必要ないようだな。次でその命を奪ってくれよう」
剣と鞭での戦いが始まった。俺と相棒のナナカミ。オーベルを倒せるのだろか。
リーチの差で、剣の方が不利に思えた。
「海人、ぼやぼやするな。考えることは無い。お前さんの気をワシに込め、奴めがけて放て。叩き切るのじゃ」
意識を集中し、ナナカミに気を注ぎ込んだ。
ナナカミが淡く光を放ち始める。
海人はオーベルめがけて、剣を振るった。危ないところで間に合った。オーベルの鞭が眼前に迫っていて、剣…ナナカミであるが、オーベルの鞭を断ち切り、そのまま、オーベルを切り倒すことに成功した。
「う、ううっ」
オーベルからは、苦痛の声が聞こえた。表情は苦痛で歪んでいる。
「貴様ことき小僧に俺様の鞭を断たれるとはな。小僧、名を名乗れ。その名、覚えてくれようぞ」
「海人、夏目海人だ」
オーベルは傷を負いながらも笑みを浮かべている。
「海人か、覚えてくれようぞ。しかし、バルディ様がお前ごとき小僧の相手をすることはない。ここでその命をもらっておく」
遠くから雷鳴が激しく響き始めた。
オーベルが宣言したその時に、そして、オーベルの目の前一人の大男が姿を現した。そう、空中に突如現れたのだ。
大男といっても、オーベルよりもその背丈は低く、2mを少し超すくらいか。
禍々しい気が発せられ、海人はナナカミに意識を集中させるのを続けていた。それが今は海人自身を守るものだと思われたからだ。
そして、現れた男は言葉を発した。
「貴様がランスゥの代理だな。オーベルよ、ここは一先ず退け」
オーベルが不満の声をあげる。
「バルディ様、こんな小僧、私めがここでその命奪ってご覧致します」
バルディが怒声をあげる。
「愚か者!こ奴は、あのランスゥの代理だ。今回は甘く見たお前の負けだ」
そう言って、バルディがパチリと指を鳴らすと二人は姿を消した。
「待て、バルディ!」
海人の声は、バルディには届かなかった。
「海人君……」
空耳だろうか。桜の声を聞いたような気がした。
ナナカミが声をかけてくる。
「仕方ないの、一先ず、次元の間に戻ろう。ここにはもう何者の気配もない」
バルディだけではなく、バルディの配下も逃してしまった。
桜のことを聞けなかった。悔しいが、ここはナナカミの言う通りにするしかなさそうだ。
海人は入って来た鏡の前に立ち、意識を集中させた。
両目には赤い羽が浮かび、鏡が海人の姿を映し始めた。
「桜ちゃん、必ず助け出してみせる」
そう宣言し、鏡の中へと入った。




