第18話
鏡に入った感覚は不思議なもので、光の粒子に体を突き抜かれるようだった。だが、何かがあるとかでもなく、体にも精神にも異常はなく、寧ろ、清々しい気持でもあった。
ここは鏡の中の世界。海人とナナカミがバルディのいるだろう鏡の中の世界だ。
辺りを見ようとしたが、夜なのだろう。暗く光もなく、どうしたものかと考えていると、
「おい、明るくしてやろうか?」
背中に背負った、ナナカミである。
「そんなことが出来るのか?」
「構えてみるがよい」
「わかった」と返事をして、背中のナナカミを前に構えた。
「よろしい。それ」
ナナカミが言い終えると、周りが明るくなった。どうやら、ナナカミ自身が発光しているようだ。
「ナナカミ?…灯にもなるとは便利だね」
「おい、茶化すものでもないぞ」
「そんなつもりじゃないよ。悪かった」
言い方が悪かったので、海人は素直に謝った。
ナナカミによる灯と暗闇に少し目が慣れて来たのか、海人は自分達の現状が何となくわかった。
足元の床は大理石で、壁は何の石かわからないが、石組みによって出来ている。
しかし、ナナカミの灯は限定的で、歩き回るには難儀しそうである。慎重に先に進まなければならない。
「海人よ、気を抜く出ないぞ。ここにはバルディがおる。近くではないが、奴の気は感じることが出来るからな。それに、数はわからんが、バルディ一人だけではない。きっと、奴の配下がおるだろう」
「わかった。十分に気をつけるよ」
バルディ……。桜をさらった憎い奴だ。動き行動をしなければならなかった。
ナナカミの灯にも慣れて来たのか、自分のいる場所と周りの状況が良くわかった。
高い天井。壁にかかった豪華な絵画。鎧や剣が壁際にあり、更に注視して見ると、暖炉らしきものもあった。そう、まるで城を連想させられる。
その暖炉の火は消えているが、白い煙が立ち上り、薪の焼けた匂いがする。誰かがいたのだろうか。もしかして、バルディ本人なのだろうか。
先に進むと玉座のある間があった。
そして、ここを城と言うなら、その城に似合わない物を見つけた。
ガラスの様に透き通ったもので出来たカプセル。海人は映画で見た宇宙での冬眠装置を思い浮かべた。そのカプセルの蓋は開いていた。
誰か入っていたのだろうか。恐る恐る、カプセルの底のシートに触れてみた。少し温かい。誰かが入っていたのだろうか。しかも、つい先ほどと近いくらいと思われる。
その時である。
「海人、気をつけろ。何者かの気配を感じる」
ナナカミが小さく警告した。緊張が走った。
「後ろだ」
ナナカミの言った後方、そう、暖炉を振り返って見た。
バルディ…なのか?一人の大男、身長は大きく、3m近くはあろうか。いつの間にか暖炉の前に姿を現した。野獣を連蔵させる大男だった。
そして、大男は悪意に満ちた声で言い放った。
「何だ、こやつは。子どもではないか。これがあの老いぼれの遣いか?」
大男は嘲笑している。
だが、海人は臆しなかった。
「お前がバルディか!」大男に問い質した。
「無礼な!お前ごとき子どもがバルディ様の名前を口にするとは。俺の名はオーベルだ。覚えておくがいい。しかし、その必要はないか。お前は俺の手により、この場で命を失うことになるからな」
海人とオーベルの間に戦慄が走る。
バルディの居場所は、オーベルに聞くしかなさそうだ。
ナナカミに声をかけた。
「チカラを貸して欲しい。どうやら、オーベルからバルディの居場所を聞き出すしかなさそうだ」
「任せておけ。オーベルごときは赤子の手を捻るよりた易いぞ」
ナナカミからは自信に満ちた声が返ってきた。
緊張が走る。
海人とオーベルは戦闘態勢に入った。




