第17話
ランスゥが厳かに話し始めた。しかし、それに圧力は感じさせない、優しさに満ちた話し方だった。海人への気遣いだろう。
「よいか、この次元の間は、お前さんが見た通り鏡を媒体として、ワシがその秩序を管理しておる。鏡を通して、あらゆる世界のバランスを保っておるのじゃ。故に、この次元の間を支配することは、全ての世界を支配することに通じる。それを狙っておるのが、バルディじゃ」
次元の間か。今でも宇宙空間に放り出されたような感覚に慣れない。
バルディ…どんな奴かは知らないが、先ほどランスゥが言った、桜をさらった奴だ。
ランスゥがどこから取り出したのか、小さなペンダント…ロケットを手にしている。
「海人よ、このロケットを開けてみるといい」そう言われ、海人はランスゥからロケットを受け取った。
そして、ロケットを開けてみた。
これは?ロケットを開くと鏡らしきものはあるが、それは何も映さない。そうだ。時空の鏡に似てる。
「このロケットにバルディを閉じ込めて欲しい。このロケットは次元回廊と呼ばれておってな。一度閉じ込めることが出来れば、バルディは二度とそこから逃げ出すことは出来まい」
そんなことが出来るのかと思った。バルディを倒し、ロケットに閉じ込める。しかし、その先に、桜の救出もありそうで、海人には選ぶ道は無かった。全ては桜を助け出すためで、世界がどうなろうと海人には関係もない。ただ、自分に降りかかった災難は払いのけなければならない。
ランスゥが海人の迷いを逡巡を断ち切ろうと優しく話しかけてきた。
「バルディを倒すといっても、殺すことにはならぬ。奴は死なぬからな。それに、ナナカミは命を奪うことは出来ぬ。ナナカミで奴を倒せば、ある程度、そう、そのロケットに閉じ込める時間を稼ぐことが出来る。さすれば、お前さんの大切な人も取り戻すことが出来ようぞ」
まだ頭の整理がつかないが、ロケットを首からかけた。
「何を考えておるのじゃ。迷うことはないぞ」
ナナカミの声だ。剣と会話をしている自分が未だに信じられない。
「ナナカミ、俺は桜ちゃんを助け出したい。チカラを貸して欲しい」
剣…ナナカミから声が聞こえる。優しい声だった。
「始めからそのつもりじゃ。バルディを野放しには出来ぬからな。お前さんの大切な人も待っているじゃろう。これは、ワシを操れる気を持つお前さん、海人にしか出来ぬ」
桜を助けなければいけない。今の自分に迷う暇はない。
「ナナカミ、チカラを貸して欲しい」
「おう!」
直ぐに、ナナカミから返事が飛んで来た。
そこに、ランスゥが割り込む。
「二人とも、話しは済んだようじゃな。海人よ、恐れ迷うことはない。相棒となるナナカミ、そして、自分のチカラを信じるのじゃ」
そうだ。バルディを倒し、を助けないといけない。それが全てだ。
「ランスゥ、ナナカミ。バルディは俺が倒し、ロケットに閉じ込め、桜ちゃんも助け出してみせる」
心が決まった。言葉が自然と口から出て来た。
ランスゥが「よろしい」と頷くと古びた鏡を指した。
「ナナカミと一緒にこの鏡に入るのじゃ。バルディと桜と言う女の子はそこにいるであろう」
ナナカミも声をかけてくれた。そして、海人はナナカミを背中に背負った。
「ワシに任せておけ。お前とワシ組めば、バルディなど赤子の手を捻るより軽かろう」
ランスゥがここぞとばかりに言葉を発した。
「ではよいな。海人よ、この古びた鏡に意識を集中するのじゃ。要領は同じなので、簡単に出来ようぞ」
その古びた鏡に意識を集中させた。
両目に赤い羽が浮かぶ。
鏡は今や海人の姿を映し、表面に一瞬波紋が出来た。
そして、迷わず鏡の中へと入った。
相棒となった、背中のナナカミと一緒に。




