第15話
「うわぁぁぁぁ」
思わす叫んでしまった。海人の目の前には、髭だらけのランスゥの顔があったからだ。この老人は心臓に悪い。
そのランスゥ本人は、全てを知ってそれでも年の功なのか、どこか余裕めいたものがあった。
「ワシの顔を見るや悲鳴を上げるとは失礼なやつじゃのう」
それはこちらのセリフだと言いたいのを我慢した。
「ランスゥさん……」
ランスゥが海人の言葉を遮り言った。
「海人よ、ランスゥで良いぞ」
「わかった。ランスゥ、渡された手鏡の2人は、無事に元の俺の世界に帰して来たよ」
ランスゥは頷き「よろしい。要領が良いようじゃな。そして、良くここに戻って来てくれた」
桜を助けなくてはならない。海人の思いは、ただそれだけだった。
「ランスゥ、俺はある人、大切な人を取り戻すために戻って来たんだ」
ランスゥはことの全てを知っているようだ。そして、話し始めた。
「海人よ。お前さんが探す、大切な人とやらは、この次元の間を支配しようとする輩に関係がある。ある女の子じゃろう、お前さんの探す人とやらは?」
本当にランスゥは全てを知っているようだ。
海人は桜が鏡の中から現れた男らしき腕にさらわれ、吸い込まれた経緯を話した。海人の世界では、この鏡は時空の鏡と名付けられたことも。
そして、ランスゥは何か納得したように、少し物憂げな声でことの全てを話して聞かせた。
「海人よ。桜という女の子は、ワシがある場所に、鏡に封印していた男によりさらわれたのだと思う。その男こそが、この次元の間の支配を狙う輩なのじゃ。邪で野望の塊のような男じゃ」
ランスゥの話しは続いた。
「どうやら、その男は自らの持つ邪悪で強力な力を復活させることに成功したようじゃ。そして、念願の野望であるこの次元の間の支配を企てておるようじゃ」
桜とその男との接点が見つからないので、海人はランスゥに聞くことにした。
「女の子…桜ちゃんとその男に何の関係があるんだよ。それに、なぜ桜ちゃんがその男にさらわれなければならないんだ」
ランスゥは、一つ息を吸い込んで「海人、桜という女の子は、鏡…時空の鏡と呼ばれておるものじゃ。どうやら、時空の鏡を活性化させるチカラを持っておるようじゃ。故に、桜はそやつにさらわれてしまったものと思われる」
予想外の言葉に、海人は言葉を失った。ランスゥの言う通りなら、桜が時空の鏡に関する力を持っている。信じられない思いだった。
ランスゥの話しは続いた。
「ここで提案、いや、頼みがある。全ての世界を守るためじゃ。あの邪悪な男にこの次元の間を渡すことは出来ぬ。それと、ワシはここの管理人である故に、ここを動くことが出来ぬ。海人よ、あの男の封印を頼まれて欲しい」
俺が?そんなことが出来るのか?海人はランスゥの言葉の真意が理解できなかった。その思いをぶつけた。
「ランスゥ、その…桜ちゃんをさらった男は、強力な力を持っているみたいだけど、俺にそんな力はない。それと、俺の目的は、桜ちゃんを助け出すことだけだ」
海人の心を読んでいたかのように、ランスゥは今度は顔を険しくして話し始めた。
「海人よ、この次元の間があの男に渡れば、お前さんの世界にも影響が出て来るのじゃぞ。しかも、あの男は邪悪な心の持ち主じゃ。それに対抗するには、清く強い心の持ち主が必要じゃ。海人、お前さんはそれに最も適しておる。この無限にある世界の中でじゃ」
俺が?…海人は自分で自分がわからない気持ちだった。
「桜ちゃんはどうなるんだ」
ランスゥは落ち着いている。まるで全てを悟っているかのようだ。
「桜という女の子は、チカラを持つが故、あの男の近くにいると判断しておる」
桜を助けられるのだろうか。俺が?
二人して大学の講義に出ていた思い出がよみがえる。
「俺にはその男に対抗するチカラがない。どうしたらいいんだ?」
ランスゥは納得したように言った。
「海人よ、ワシがお前さんにあの男に対抗するチカラを与えよう。それでどうじゃ?」
海人に選ぶ道はない。
「わかった。俺は俺に出来ることを、桜ちゃんを救うためなら何でもやるよ。そして、その男の野望も砕いてみせる」
ランスゥはニンマリとしてこう付け加えた。
「忘れておった。あの男の名は『バルディ』と言うのじゃ」




