第9話
父の後をついていくと分かるのだが、特殊開発ルームは、相当に広かった。50メートルくらいは進んだであろうか。その突き当りを右に曲がった先に目的地があるようだった。部屋の前には、『SDルーム』というプレートが貼られていた。しかも、この部屋だけは特別な部屋だろうと誰の目にも一目でわかるようになっていた。部屋の前に何かの装置があり、海人の父がそれを操作しようとしていた。セキュリティ関係だと思われるが何の装置なのか?
「海人に桜ちゃん、ちょっと待ってくれ。今からロックを解除するからな」
海人の父は、そう言うと装置に対面した。装置にはモニターと何かの覗き穴みたいなものがあった。
「顔認証と網膜認証だ。今解除するからな」
そう言うとモニターに映った父の顔に『第1段階クリア』と表示され、海人の父は覗き穴を覗き込んだ。そうすると、画面に何かを打ち込んでいるが、暗証番号のようだった。
「暗証番号はだな、このタブレット端末に送らて来るようになっていて、1回だけ有効な暗証番号が表示されるものだ。タブレット自体にも顔認証があるので、4重のセキュリティになっている」
言い終えると画面には『オールクリア』と表示され、ドアが微かな作動音と同時に横にスライドして開いた。
「うむ、ロック解除だ。二人に言っておくが、私がこの部屋に入ると、自動で再ロックされるので、二人は先に入ってくれ」
海人と桜は、お互いの顔を見て、海人が「了解、桜ちゃん、入ろうか」
「うん、緊張するね」桜が続けて言い、二人は海人を先頭に『SDルーム』の中へと入った。
そして、海人の父が部屋に入ると、その後ろのドアがロックされたのが分かった。
海人が部屋の中を見渡すと、山積みにされた資料の乗ったデスクや壁には棚があり、色んなファイルケースや何かの機器があるのが分かった。多分、父が使うものだろうと思われた。部屋の中央には、応接用のソファもあり、海人の父が二人に座るように促し、それから自分は反対側のソファに座った。
そして、父はとんでもない話しを二人に説明しようとした。
「二人とも、この話しは他言無用で頼むよ。絶対に誰にも言わないでくれ」
そう言った父の表情は、やや強張って見えた。
海人と桜は、視線を交わし、海人は「良く分かんないけど、分かったよ。誰にも言わない」と言うと、桜は「分かりました。誰にも言いません」と続けた。
海人の父は頷くと、少し逡巡を見せたが、意を決して話し始めた。
「実は、実験中にちょっとしたトラブルがあってだな。それで、念の為に警察や自衛隊が動いているのだ。その実験は、簡単に言うと『次元スクリーン』と言うものだ。物体の空間瞬間移動装置みたいなものだと理解してくれ。その実験をしていたのだ」
父の話しは更に続いた。
「トラブルというのは、実験の最中に、所員の一人が入力データの数値を誤って入力してしまってだな。通常の1万倍という電力負荷を掛けてしまったのだ」
父は視線を少し斜め上に向けてから、それから視線を海人に戻し、続けて言った。。
「海人、それに桜ちゃん、以前に大きな停電があったのを覚えていないか?あれは実験の影響によるものなのだ」
海人は1週間くらい前に、大きな停電があったのを思い出した。あれが実験の影響によるものなのだろうか。海人は疑問を父にぶつけた。
「じゃあ、最近のテレビでのニュース放送は何なんだ?この事は、外部に知られるとまずいんじゃないのか」
父は何のためらいもなく話した。
「ああ、あれか。あれは実験を隠すためのダミー放送だ」
桜は目を瞬いて驚いた表情をしていた。その桜を見て、海人は続けた。これが一番大切な気がして気になっていた。大きな疑問でもあった。
「父さん、こんな重要なことを俺達に話しても大丈夫なのか?」
父は目を一回閉じて、ゆっくりと開き、海人と桜に話した。
「もういいのだ。この実験は中止にして、実験の資料は破棄し、データは全て消去することにしたからな。この技術は、人類が手にするにはまだ早過ぎる」
父は更に話しを続けたが、それは海人が予想していなかったことでもあった。
「今、このフロアには私達しかいない。実験装置は全て停止させてある。最後にこれから実験を見せるから、ついて来なさい」
大丈夫なのだろうかと海人は思ったが、父は海人の考えを読んだかのように言った。
「危険なことは一切ないので、安心しなさい」
海人と桜は視線を交わし、海人が父に「わかった」と答えた。
「では、ついて来なさい」
海人の父はそう言うと、ソファから立ち上がり、入って来たドアへと歩き出した。海人と桜は、父の後をついて行った。父がドアの前に立つと、ドアは入った時と同じように、微かな作動音だけを発し、音もなく横にスライドして開いた。部屋を出るのには、セキュリティは厳しくなさそうだった。
「先に出なさいと」言われ、海人と桜は部屋を出た。
部屋を出ると、海人の父は海人達が辿ったものとは逆方向へと進み、ある部屋の前へと辿り着いた。『SDルーム』とは正反対に位置しているらしい。
「では、同じように入るぞ」父は、そう言い『SDルーム』と同様のセキュリティロックを解除した。そして、ロックが解除されると、ドアは音もなく横にスライドして開いた。海人は、何の部屋だろうかと部屋の名称を探したのだが、何も表示は無かった。
父が先に入るように言ったので、海人と桜は先に入り、最後に父が入ると、ドアはゆっくりとスライドして閉まった。
その部屋は、海人が想像していたより遥かに広く、大学の体育館くらいの広さがあって、海人は驚きを隠せないでいた。地下5階にこんな広い空間があるとは想像できなかったからだ。
中には様々な計器や装置、海人には何か分からない操作パネルや複数のモニター、ケーブルや配管が空間にびっしりと配置されていた。
そして、海人と桜は、部屋の中心の装置らしき物の上に、何かの物体らしき物が浮かんでいるのを見ることとなった。
「海人に桜ちゃん、中心に浮いている物体を見てみなさい」
海人の父は、話し始めた。




