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おままごとが終るとき

作者: 松本ねね

カレと知り合ったのはバイト先で福島出身の1コ年下の彼でした。


付き合い出して間もなく、

寮生活の彼が荷物を持って私の部屋に転がり込んできた。


当時、ファミレスで働いていた彼が、本格的に料理を覚えたいというので

私の友達の伝手で、有楽町ガード下にあるフレンチレストランで働きだし

私は、K化粧品会社に就職した。


同棲生活が続いた夏休みに、二人で彼の実家に遊びに行き

彼が腕を振るい、二人で夕食を作り、夜は 別々の部屋で寝かされて

3日間 彼の実家で過ごした。


東京に帰る電車の中で彼がボソッと

『お前には東京の人は合わない』って兄ちゃんに言われたよ…と


それから数ヶ月


カレが丸めて脱いだ靴下を広げて、洗濯機に入れようとしたら

靴下の中から電話番号が書かれた小さなメモが出てきた。

丸みのある数字が、若い女性であることを認識させた。


私は、カレを問い詰めるでもなく、その小さいメモをカレのお気に入りの

ブルゾンのポケットにそっとしまった。


数日して、食事の支度をしながら、カレに背中を向けたまま

「職場で中々モテるようね」と言うと、メモを見られたことに気づいた彼が

「好みじゃないよ」と笑いながら言い、有楽町の灯りに誘われコック仲間と、

時々飲んで帰る彼の背中が恣意的に見えた。


私は私で、ちょっと濃いめのメイクと会社の制服が目立つのか、

度々声を掛けられることが心地よく、モデル風のS社の美容部員と遊び歩くことが多くなった。


そんな二人の将来が見えなくなって、別れを切り出した私に、彼は何も言わず黙って頷いた。



その数年後 ばったり彼と会った


当時の私は、吉祥寺ロンロン(現アトレ)の中のお店が担当で、そのお店の前を

偶然 彼が通り過ぎた。


仕事が終わったあと、 30分ほど二人でコーヒーを飲んでいる時、彼が独り言のように、


『俺が東京に合わなかった』と。


彼は、3つ年上のシングルマザーと同棲していて、子供が「パパ」って呼ぶんだよと苦笑いをして「彼女とは別れようと思ってる」と言いながらコーヒーを飲み干し、ため息をついた。

少しの沈黙のあと彼が「返すのを忘れてた」と言って、私の部屋の鍵をポケットから出した。


(ずっと持っていたんだ)


その時の私には、付き合っている人はいなかったけど、戻ってくれば!? とも言わずに黙って鍵をバッグに入れた。


彼は有楽町のお店を辞めて、今は 吉祥寺で働いていると、お店の名前を教えてくれたけど私は、そのお店にはいかなかった。


その時の私はもう、無邪気に同棲が出来るほど若くはなかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ほろ苦い思い出が ひしひしと伝わってきて つい自分の若い時を思い出させるような 文章力に驚かされました。
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