秘匿兵器『給水車』
WW1、ソンムの戦い直前、英国側陣地の一幕です。
「よう、ジャックじゃねぇか!」
「お、ロバートか! 久しぶりだな!」
「お互い生きて再会できるとは、夢にも思わなかったぜ!」
「ああ! 前に会ったのは、エジプトだったか?」
「だな! あの後、ジャックの部隊は、トルコのガリポリ半島行きだっけか?」
「そうそう。で、ロバートは北フランスのソンム行きと」
「ガリポリは負け戦で苦労したみたいだな」
「ああ、まったくだ。負け戦はかなわんよな~」
「塹壕で、半分泥に浸かっているよりかはマシかもしれんがな!」
「まったくその通りだぜ!」
「エジプトの時とは真逆だな」
「カラッカラに渇いていたからな~、エジプトは」
「おうよ。食い物ないのは多少我慢できるけどさ。水なしってのは絶対ダメだな」
「同感だ。水源が敵に抑えられてからは悲惨だったよな~」
「それな! 遠くからロバやら車で運ばにゃならんし、着いたらすっかり温くなって古くなっているしで、散々だったな」
「だがな、これからは水の心配はなくなるぜ!」
「なんかいい話でもあるのか?」
「聞いた話だけどもよ、最新の『給水車』が配備されるって話だぜ!」
「本当か!? なら水の心配をしなくてもいいってことか!」
「ああ! これで心置きなく紅茶が飲めるな!」
「おお、それは嬉しいな!」
「なんでも、チャーチル閣下が強く推されたとかで、予算付けて委員会まで立ち上げたとかで」
「おお、さすがチャーチル閣下だぜ! 現場の事をよく分かってんな!」
「アホみたいなことばっかりやってる他のお偉方とは、一味違うよな!」
「まだ四十そこそこだってのに、すげぇよあの人!」
「でも、あの人さ、確か大臣クビになって、今じゃ前線で戦ってんだろ? 惜しいよな~」
「だな! まあ、その内、中央に返り咲くだろうよ」
「時にロバートよ、聞きたい事があるのだが?」
「なんだ、ジャック?」
「先程から俺達の横を通り過ぎて行っている、排ガス吹き出してる“鋼鉄の芋虫”共の行列は何だ?」
「さあ? 俺もソンムに来てから結構経つが、あんな“鋼鉄の芋虫”なんぞ見たことないぞ」
「農耕用のキャタピラ巻き付けて、随分とノロマな野郎だな」
「一応、機関銃と、口径は小さいが大砲も付いてるな。何に使うのか、さっぱりわからんが」
「訳の分からん物を押し付けるなっての! 上の連中は何考えてんだか分からん!」
「だな。チャーチル閣下がいてくれたら、あんな芋虫なんぞ、許さんだろうしな」
「あ~、早く来ないかな~、閣下肝入りの『給水車』!」
~ 終 ~
戦車の開発には徹底した情報封鎖が成され、関係者以外はほとんど知られていなかったそうです。
また、敵スパイの注意を引かないように、かつ大きさ的に矛盾のないサイズの新兵器に擬態するため、『給水車』と呼ばれていました。
今でも戦車の事を『タンク』と呼称するのは、この時の名残だとか。
当初は『陸上戦艦』などと呼ばれていたそうですが、これでは目立ち過ぎるということで、タンクになったんだそうです。
ちなみに、チャーチルは開戦当初、“海軍”大臣を務めていましたが、上記の陸上戦艦計画を知ると、その有用性にいち早く気付き、陸軍が開発を断念した後も計画を海軍で引き継がせ、戦車の誕生に大きく寄与しました。
現代でもなお陸戦の主力を担う戦車を、海軍大臣の音頭取りで開発したというのが興味深いです。
なお、チャーチル自身はガリポリの戦いの敗戦の責任をとって大臣職を辞職し、一隊長として最前線で戦うという、これまた凄い経歴。ノブレスオブリージュの体現する存在と言えるでしょう。
なお、無断出撃36犯という、とんでもない問題隊長だったそうですが(汗)
てなわけで、タンクと聞いて、給水車と勘違いしたソンムの兵士達の一幕をお送りしました。
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