馬車と騎士
龍と人の戦いは太古より続いた、それは必然であった_。
王都に向かう馬車の中、王国の賢人ハウザーさんから 詳しい内情を聞いた
しがない村人には刺激的過ぎる国家の機密情報のオンパレードだった。
『えっと…それで亡くなったのはジュダ…えーっとジュダリン様で良かったんでしたっけ?』
ハウザーさんや、他の御付きの人があっけに取られている。
辺境の村の情報源の無さを侮らないで欲しい
王都で起こった事が、下手をすれば1年遅れで噂として入って来るのだ。
行商人だって、ボクの村まではわざわざ来ない
宿屋だって無いんだから
そういえば、村に唯一いた同世代の幼馴染の女の子とは別れを言う暇も無かったな
別に、村に何の愛着も財産もなかったので、馬車に乗れるというだけで
ウキウキして乗ってしまった
王になんてなりたくないが、王都や城は見てみたかった。
ボクという若者を失い、あの村の平均年齢はいっきに上がってしまった
もう長くはないだろう、あぁ我が故郷よ、サヨウナラ
『ジュダリス様です…あなた様の腹違いの兄、という事になりますな。』
王家の血を継いでいると言われて、悪い気をする人はあまりいないだろうが
あの凶王の弟だと言われると、何とも微妙な気持ちになるな…
「もう死んじゃったから言えますが、酷い人だったようですね
情報弱者のボクの村でも、さすがに有名でしたよ まぁ尾ひれはいっぱい付いてたでしょうが
何の失態もしてない部下を、その時の気分で矢の的にしてたとか、さすがに嘘だろと思ってましたが~」
「その話に、尾ひれはあまり付いていませんな…正確にはその部下の家族、一族、近所に住む者を矢の的にし、飽きれば魔物に喰わせていました、子供もおりましたな…惨いことです…」
「うわぁ…」
ボクはドン引きした、馬車の中にいる者 全員が下を向きを気分を悪そうにしている
「やはり、死んで良かったですね ははは…」
ボクは沈黙に耐え切れず、不謹慎な空笑いをした
『あまり軽率に口を開くと、お命を縮めますよ』
馬車の外から声がする、美しい馬に乗った、綺麗な女性騎士が声をかけてくれた
『どこに耳があり、どこに毒が潜むかわかりませんから…』
『あなたの専属護衛隊長に任命したカレンです、急遽の任命ですが あなたの為に命を賭す騎士となります。』
ハウザーさんが紹介してくれる
村人に急に、護衛騎士だなんて しかも王都護衛騎士団の上級騎士だ
人生、変わる時は変わるもんだな~、と思った。
村はずれに住む、ボケの進んだトマス爺さんが
自分の若かった頃の話から、最後にボクにいずれ大物になれ!と結ぶ話を何百回と聞いてきたが
あの爺さんも、王になれとは さすがに言わなかった
見てるかい…爺さん…
そういうば、最近 様子を見に行くのサボってたな
死んでなきゃいいけど
『護衛責任者のカレン・F・リーシアです、何なりと御命令下さい。』
「あ、はぁ…よ、よろしくお願いします…」
情けない返事しか出来なかった
村人として、幼少期も思春期も過ごしてそれが染みついてるボクに
天上人だと思って見上げてた人達がかしずくのか…
気分が良い事のような気がするが、気持ちは落ち着かなかった
「ボクも王様になったら、自分の騎士を好きな時に弓の的に出来るって事ですかね? あはは」
ハウザーさんも、カレンさんも、みんな真顔で見つめて来た
「冗談ですよ…」
テンションがおかしくなってる時に、ジョークはあまり言うべきではないな…
王様か、改めてボクはなるべきじゃないな と、思った。