設定部分のような
さてこの主観の時間軸について整理すると、これは召喚直後というわけではない。
従ってある程度この異世界のことを把握している。
まず、魔法が存在するとはいえそれを誰でも扱えるような世界ではない。
職業魔法使いというものが存在しているわけでもなくて、もはや種族という区分が正しい。
すなはち、魔法を扱える上位種としての人間と扱えない下位種としての人間。
現社会では上位種を貴族、下位種を平民と呼ぶのが一般的だ。
そしてこれは血によって、つまり遺伝によってすべてが決まる。平民が魔力を持つことはない。
訓練や修業によって目覚めることもない。つまり種族が異なる。
しかし交わることはできる。1世代限りではない子孫が残せるために、生物学的には同種族なのではあろう。
だが、当然ながら"薄まる"
平民と交わった貴族の子は魔力を落とし、代を重ねれば失ってしまう。
だから貴族は貴族同士で婚姻を重ね、魔法という根源的な力の差で平民を"領有する"
そうしていれば年月とともに貴族が社会の絶対多数になりそうな気もするが、果たしてそうはならなかった。
人口比は約10倍。圧倒多数が平民であった。
それが何故かまでは、まだ把握していない。
ただとにかくそういう結果になっているのだ。
社会の全ては貴族で回る。
そのはずである。
ならば、平民は淘汰されて絶滅していてもおかしくない。
しかしながら増えるのは平民であった。
今のところ解けない謎ではある。
婚姻範囲は貴族の方が広い。
平民は在地の、わかりやすくいうと村の中でしか原則として子孫を残さない。
そもそも移動をしないからだ。
それは街であっても同じで、同じ街区の狭いコミュニティの中でだけ婚姻を繰り返す。
ならば、遺伝子異常などの問題が出るのは貴族よりも平民であろう。
では貧富によって差が出る、つまり貧しい人々の方がよく子供を産むからということかというとそうでもない。
貧しければ多産多死であり、豊かであれば少産少死というのは安定した社会において当たり前の傾向であり、一時代のように特異な多産少死時代があるわけでもない。
そして、基本的には江戸時代を参照するなどして鑑みれば相対的に豊かな階層の方が人口再生産が大きく、それは平成日本などでも同じ傾向を示している。
あるいはさらに昔はこの世界の貴族人口はもっと少なく、平民は徐々に割合を減らしている最中なのだろうか。
これが不明点として残っている。
次に、亜人の存在である。
異世界らしく獣人のような種族をはじめとして幾つかの亜人諸族がいる。
これが主流派の人間と生活において交わることは基本的になく、いわば害獣のような扱いである。
当然に言語の違いも歴然としていて、会話が成立することはない。
言語について言えば、いわばラテン語のような立ち位置にあるのが教会語とされている。
各国語は存在しているが、それらの中でさえ言語統一は半端である。
そのため、社会階層が高い場合は教会語だけで会話をするのがスタンダードとなる。
そして被召喚者は原則として召喚者の言語をインストールされることになるが、それは魔法の術式によるものであるため、やはり上位階層の召喚では教会語が充てられることとなるようだ。
当然、亜人を"召喚"すれば彼らも教会語を扱えるようになるだろう。
その際の言語能力は被召喚者の言語能力にそのまま比例するようであり、大変便利でご都合主義である。
その他、文明の程度は近世ぐらいであろうかという見立てであったり、さりながら社会制度は封建的であったり、必ずしも発展モデルと一致するわけではない。それは地球諸地域でも同じことといえるが。