何度目かの再生利用
現実世界で不運な人間が異世界に行けば幸運になる、なんていう話は現実的ではないわけだけど、現実的ではないものを求めるからこそ異世界ものが流行るわけで。
天は二物も三物も与えるという観点は勝者総取りのルールから見ても妥当じゃないだろうか。
ということは中途半端な人物が異世界に行っても中途半端な結果になることは当然っちゃ当然なのだが、それじゃ面白くないという人が多いのは疑う余地がない。
そんなわけだから自分に都合の良い世界を望み、自分のところに来てくれるよう人々は願うわけだ。
さて、前置きはこのくらいで良いだろう。
こういう思考の持ち主が望むような理想の異世界だったり都合の良い展開といったものがどういうものになるかといえば、それはやはりテンポの悪くてしょっぱい山なし谷なしの平坦でつまらない上り坂になるものだ。
人の理想というものはある程度その人の人生を反映しているものだと思えばそれで良い。
そうだ、俺はそう思う。
そう思うからこそこの異世界で、自分に最も都合の良い人生が欲しいと思ったわけだ。
いわゆる序盤の面倒臭いテンプレじみた展開を端折ってまとめてしまえば、ファンタジー世界に召喚された行き詰まり日本人中年男性が第二の人生を歩もうという主観になる。
異世界の流行りといえば転生なのだろうが、結局はそこが個人の理想であり好みの違いという部分になるだろう。
話が長くてくどい、つまり面倒臭い男の典型のような人間である俺はとどのつまり都合の良い世界でしか生きていけないのだ。
だからまあ、こうして召喚主にすらちょっと距離を置かれているわけなんだが。
「あまり卑屈な男はモテないよ?」
「モテたかったらちょっと過剰なくらいの自信家の振る舞いをするのが良いと言われているな」
それも卑屈な人間が無理に見せるのではなく、ちゃんと自信のある人間がごく自然な様子で。
「あなた自身についての話をしてるつもりなんだけどなあ……」
「そのはずなのに他人事みたいな話し方で微妙にズレた受け答えをされては困るし、それが分かっていて直さないのはタチが悪いよねって話だろ」
「ほんとタチが悪いよね」
さすがは異世界ということで我が召喚主は若い女の子という都合の良さだ。
貴族の末端というところも理想通りだし、世界の特徴としても程々に魔法が普及しているのがあまりに自分に合った環境だといえるだろう。
だからこれは泡沫の夢、非現実的でご都合主義の愚かしい願望の体現だと、そう感じてやまない。俺はそういう人間だからな。