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大人の作文

作者: 瀧山ミサト

2012年 4月 ①


二度目の桜が散り始めている。

コロナ禍で迎えた2回目の春。

通り過ぎていく時間。


『面会制限』

病棟からご家族の面会が消えて2年目に突入した。受付窓口まで来れるが、会えない家族。異常である。医師から面会が許される時は最期に近くなった時だ。リモート面会なるものもあるが、タブレット越しの会話はイマイチ盛り上がらない。そもそも療養病院に入院した高齢者はタブレットに慣れていないのだ。


 せめてものサービスで、窓口にくる家族に

『写真をお撮りしますよ』と声をかけた。今時は大抵の人がスマホを持っている。

せめて今の状態を写真でお見せしたい。

そして、結構喜んでいただいている。

(ただし、キーパーソンに限るが)


 デジカメを持参してきたご主人がいた。

面会できていた頃は毎日来ていたご主人だ。

なので張り切って5コマ撮った。良い笑顔を撮ったつもりである。カメラをお返しするとご主人は画像を確認し、言った。

『ダメだなあ、こんなもんなのかなぁ、俺が撮らなきゃだめだなぁ』

喜んでもらえると思っていたのに、この反応である。こちら側こそガッカリである。

その後も度々撮影依頼はあり、こちら側も人を変えて撮るのだが満足していただけない。

 頭の中にあるイメージと実際の映像にギャップがあるのだろうか。私も、普段鏡で見ている自分と写真の自分があまりに違い、脳内にフィルターがあるのかと思うのだから。


 若いスタッフがシビレをきらしたのか、ある日ご主人に言った。

『スマホで撮りますよ、色々修正できるじゃないですか』

ご主人は言った。

『このカメラの中にな、前からの写真が色々入っているんだ。だから、このカメラで撮りたいんだよ』

ご主人にとって、そのカメラ自体が大事な宝箱だったのだ。

未だに満足していただける写真は撮れないけれど、頼まれたら今も撮っている。


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