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末の王子を外した八人で長い話合いが続いたが、いつまで経っても誰も譲ることもなく──何日も何か月も決着がつかないままで月日が流れた。


そんな訳で、兄弟の間では気まずい思いばかりが大きくなっていった。






ある日、二番目の王子が思いついたように言った。


「このまま何時までも揉めているわけにはいきません。いっそのこと、国を分けて治めてはどうでしょうか」


三番目が続いて「なるほど────それなら皆が自分の思った通りの国をつくり、皆が王となるわけですね。…………ちょっと待ってください……ああ、そうか…………私に考えがあります。皆で聞いてくれますか」




「どんな案だね……」四番目が尋ねると、三番目が地図を広げて話し出した。


「大きな陸地が二つに、川や山脈に湖……地形を考えて、ちょうど八つの土地に分けることが出来ます。これを皆に振り分ければ良いと思うのですが…………」


こうして赤線で区切られた地図を囲んで、領地について話が進むことになったのだった。





一番目が地図の王都の印に自分の手をついた。


「長子の私が、王都である由緒正しいこの地を治めよう」


「私は都会が良いので、こちらの商業区を…………」


「私は、海からの賊の侵略に気を配りたいので海側の地に決めよう。海の民とは、まだ和平の約束を結べていないから…………」


「それならば、私は自然豊かな所で芸術と文化を育てましょう」


「商売には港や運河が必要ですね。では、私はこちらの海側を立派に発展させましょう」


「私は王都の近くが都合が良いようです。一番兄さんの隣の、この土地に人が沢山集まる都を作りましょう」


「私も人の集まる所が良いですね。交通の要所になっているこちらの土地に、学問を志す者たちの学舎や研究施設をつくらなくては」


「健康には良い環境が必要だろう。緑が豊かで空気の澄んでいるここに医療の設備を整えたいな」


こんなふうに────それぞれ自分の治める場所を(しめ)し、(しる)していった。





最後に三番目の王子がぽつりと言った。


「自分で八つに分けておいてなのですが…………末の王子はどうしますか」


二番目の王子が面倒くさそうに答えた。


「あいつは王になる気はないのだから、放置しておけばよい。もう、この案で決定だ。さっさと父上に報告しようではないか」





兄弟は地図を持ち、父王に報告する。


すると、父王は悲し気に顔を(しか)めた。


「そうか──」


力のない声で呟いたきり黙ってしまった父王に、一番目の王子が大袈裟な素振りで呼びかける。


「父上、皆で何日も話し合って決めたのです。認めていただけますでしょうか」


「────────」





長い沈黙の末、父王は静かに言った。


「息子たちよ……私は、そなたたち皆でと言ったはずだ。この地図は、兄弟全員が支え合う形だろうか。否────抜けている者がいる」


「しかし父上、九番目は自分で王になる意志も力も持たないと言ったではありませんか」


一番目の王子が腹立たし気な様子で大きな声を出した。


「本当に、そう考えているのかね」


溜め息とともに国王が言った。





三番目の王子が「山や川などの地形を考えて、国土を八つに分けることは出来るのですが……九つにするとなると、難しいですね。誰かの所を半分にするとか────」と難しい顔になって腕を組んだ。


「……土地がないのなら、海とか」


二番目が呟く。


「いや、遠洋は海の民によって支配されている領域だ。所有権など主張したら戦になってしまう」


四番目が慌てて抗議する。


「じゃあ~……空。……とか」


投げやり気味に、二番目の王子が続ける。


「空──って。人は翼をもちません。飛べないし、無茶でしょう」


三番目が頭を抱える。





真剣な話をしているのに変な冗談はやめるべきだと、二番目と三番目が言い争いを始めそうになったとき。


「なるほど。面白いかもしれません────私が空の担当ということで。それで解決ですし」


キラキラした表情で、いきなり末の王子が言いだした。


「面白いって……こんな話を真に受けるなんて、どうかしてますよ。仲間外れにされたからって、君まで投げやりになってどうするんです。他の方法を考えるべきですよ。────しかし、どうしたら良いのやら……」


三番目が、おろおろと取り乱す。







兄弟でワイワイ騒いでいると、父王が大きな声を張り上げた。


「そこまでだ」


九人の兄弟たちは驚いて、父親の真剣な顔に注目する。


「──時代の王は、九番目の王子とする」


いきなりだが、厳かに現国王が宣言した。





「は……へっ──」


九番目が、目と口を全開にして掠れた変な声を出した。


顔から血の気が引いて、みるみるうちに白っぽくなっていく。


ものすごく驚いているようだ。




「お待ちください父上」


一番目が、目を吊り上げ唾を飛ばしながら叫んだ。


一気に頭に血が上ったらしく、顔を真っ赤にしている。


かなり怒っているようだ。




「理由をお聞かせください。末っ子には王になる(こころざし)も力もないのに、無謀です。おかしいです。しかも、九番目は私よりもずっと経験のない若輩者。皆が納得するように説明してください」


長兄王子は、そう言いながら父王に詰め寄らんばかりだ。


「ほう、理由がわからないのかね。ここには私の考えていることが理解できるものはおらんのか」


父王が兄弟全員に問いかけたが、誰も返答を返す者はいなかった。





「仕方がない────では……まず九番目よ、いつまでも驚いていないで、そなたがこれからどのように国を治めるつもりか、皆に話してみよ」


「……ひっ」


父王の言葉に、九番目は引きつった声を返してから、困った表情で聞き返した。


「父上、……えっと、すべて私の思った通り……あの、好きなようにさせて頂いて、よろしいのですか」


「もちろん。次代の国は、そなたの手中にある」


父王は至極真面目な瞳で、末王子を見詰めて答えた。




「ふぅーーっ、ひぃーーっ、ふぅーーっっ」


末っ子王子は、父親と目を合わせてちょっとだけ微笑んだ。


それから思いっきり深く息を吐き出し、吸い込み、また吐き出した。


──────そして、静かに地図を示したのだった。




「えっと……わ、私は兄さまたちが考えたこの案を採用します。これならば独立した形でそれぞれの力をより活かし伸ばすことが出来ると思いますし。……もちろんよろしいですよね、父上」


「ほう。それで、次代国王のそなたはどうするのだ」


「そうですね────私は誰が国王になっても、心を込めて手伝いたいと申しました。たとえ自分が王になっても、私のやるべきことは変わりません」


静まり返った場に、末王子の緊張した声が響く。


「──兄さまたちが仲良く協力して、それぞれの国を治めるのを応援したいのです。そして、兄さまたちにも私のことを気にかけて助けていただきたいと思っています」


はじめよりも少しだけ、はっきりとした話し方になり続けていく。


「具体的に言うと……──────次代の国王ということで、国全体は私の領地ということにはなるでしょう。地図の通りに、それを八つに分けて兄さまたちにお任せするという形にしたいと思います。兄さまたちの負担にならない程度の地代を納めていただいて、私の役目は全体の管理と補助ということでどうでしょう」




末王子の話を、皆が黙って聞いていた。


結局は、自分たちで決められずに父王が指名する形となったが、次代の王となるだろう者の言葉。


誰も馬鹿にしたり揶揄ったりはしなかった。





「なるほど……しかし九番目よ、それならお前はどこに住むつもりか。まさか王都で私と一緒にいるつもりじゃないだろうな」


一番目の王子が、それは困るといったように末っ子王子に詰め寄った。


「いやぁ……そこまでは考えてもみませんでした。どうしましょうか」


末王子も、困った表情で答える。


考えながらの口調で「うーーん…………私は彼方此方(あちこち)を旅して歩いてみたいのですが。べつに、ひとところに留まっていなくても良さそうですし。旅の商人みたいに見聞を広めるのも楽しそうです」そう言いながら、ちょっと悪戯っぽく穏やかに笑う。


兄たちも彼につられてか、ちょっと苦笑いになる。


末の弟は小心者なのか大物の器なのかよくわからないと、彼らはいつも話すのだ。







「──ッはははは。──はっはっはーーははは」


父王が、(こら)えかねたように笑い出した。


「皆、九番目の話を聞いて……私の考えが理解できただろうか。理解でき異論がないなら、末王子の方針を認めることとする。異論があるならば、この場でこれ以上の良案を提案せよ」


国王は兄弟全体を見詰めながら言ったが、誰も異論を唱えたり良案を提案したりはしなかった。


「では、九番目の王子を次代国王と決定する」


現国王により、改めて次の王が宣言されたのだった。








「しかし末王子よ、諸国漫遊はちと考え直せ。一国の主たる者が、気軽に歩き回るのは感心しない。我が国の二つの大陸の間に、私個人が若いころに海の民より譲り受けた島がある。いわばこの国の起源となる場所じゃな。無人島となって昔の城は廃墟と化してしまっているが、そなたにその場所を与えよう。だから、そこに落ち着くが

良い」


呆れたようなため息とともに父王が息子に言うと、息子は小首を傾げて聞き返す。


「はい。ありがとうございます。でも……そんな特別な場所を頂いてもよろしいのですか。父上にとって大切な場所なのではないですか」


「ふむ。確かにあそこは特別と言えるだろうが、そろそろ誰かに管理してもらわねばと考えていたのだ。まあ、そなたならば何とかできるであろう。ちょうど良い」


「……そうですか。そのようにおっしゃっていただいたなら、私なりに頑張ってみます。ありがとうございます」


そんなやり取りがあって、島の所有権も父から子へと渡されることとなった。











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