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[上]



今ではいくつもの国家が存在するこの世界も、元をたどれば一つの大きな国だった────とされている。


それは昔話として残され、人々の間で語られている。



・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・





 ずっとずっと遠い昔────────この世界は一つの国で、一人の王が治めていた。


王には九人の王子がいた。


彼等は其々にすくすくと育ち……やがて成人し、次代の王を決める時がきた。





 ある時、王が王子たちに言った。


「我が愛する息子たちよ。私は、そなたたち兄弟が皆で仲良く助け合ってほしいと考えている。そうすれば、これからも国民たちは安心して生活できるし国も繁栄していくだろうと思う。まあ、要するに────────おまえたちの中で誰か一人を選び、その者を皆で支えて国を治めていってほしいのだ。だからこそ、次代の王は皆が納得する人物を選ばなければならない」


王子たちをぐるりと見まわして、王は続ける。


「私が決めるのでも良いだろうが、これからともに支え合ってゆく九人の兄弟で話し合って決めたら良いと思うのだが……どうであろう」







 すると、一番上の王子がしっかりした口調で「父上、この中で一番初めに生まれ一番年長で経験豊富なのはこの私です。話し合いなど必要ないではありませんか。あとはこの私にお任せください。弟たちも、きっと私の助けとなってくれるでしょう」と切り出した。




しかし二番目の王子が、悪戯っぽく口を出した。


「兄上は確かに一番年上でしっかり者ですが、ちょっと色々と慎重すぎるように思います。私でしたら、何でもスピーディーに手っ取り早く進めていく自信があります。私にも王になる資格はあるのではないですか」


「いえいえ、九人の中で一番知識のある私もおりますよ。たとえ早く行動できたとしても、間違えたことをしたり違った道を行ってしまったら大変です。私の知識は、とても役に立つはずです」


そこに三番目の王子も、黙ってはいられないとばかりに割り込んでくる。




四番目は、腰に()いていた剣を取り出し、自分の前に掲げて低い声で言った。


「役に立つというなら武力です。私は皆のために剣をとり、国や民を守ることが出来ます。武術でならば、この中の誰にも負けることはない」




そこに、いやいやそれだけじゃ駄目だよと異論をはさむ者がいた。五番目の王子だ。


「平和が守られ、安心して暮らせることは大事なことだね。しかし、それだけでは民は満たされないんじゃないかな。私は、人の心を感動させるような文化が必要になると考えているんだ。この国を素晴らしい芸術で溢れさせるべきだよ」


彼は瞳をキラキラと輝かせながら、うっとりと提案する。




更に、六番目がニコニコ笑顔で嫌味っぽく意見を述べる。


「文化も武力も、先に立つお金がなければ実現しませんよ。財力があれば物や人をどんどん動かすことが出来ます。私ならば、一番現実的で賢い(スマートな)方法で国を治めてみせますよ」





「人が活かされなくては、お金がどんなにあっても意味がない。宝の持ち腐れさ。お金は人が流通させているのだからね。私は様々な人々との繋がりを大切に育てている。人があっての国だからね。私なら、人脈を生かした国づくりを目指すね」


と七番目が言うと、八番目が続いて口を開く。


「その人間が健やかでなければ話にならないだろう。医療と福祉は国の礎。私ならば、国民を健康で活力のある毎日を過ごせるように導くことが出来るはずだ」





そして、残った最後の一人…………末の王子はいったい何を語るだろうかと、一同が九番目の王子に注目した。



末の王子は穏やかな表情で、ちょっと困ったように遠慮がちに話し出した。


「兄さま方は、それぞれに秀でた力を発揮していらっしゃるので、私はいつも皆さまを尊敬しております。……それに比べて、私は人に自慢できるような能力も技も特に持ち合わせてはいないようです。しかし、私もこの国の繁栄と民の幸せを願っている一人として、少しでもお役に立ちたいと思っています。そして、兄さま方一人ひとりの力は、すべて必要で大切なことだと思うので……兄弟一同が力を合わせて国を治められるように、どなたが王になっても心を込めてお手伝いさせていただきたく思います」


ゆっくりとした口調だったが、兄王子一人ひとりを見詰めながら話を結んだのだった。










末の王子が話を終えたが、その後少しの間、誰も言葉を発せずにいた。


皆が彼の話に戸惑っているようだった。




(おもむろ)に、一番目の王子が末の王子に問いかけた。


「他の皆が、自分こそ国を治める王になりたいと望んでいるのに、お前にはその意志や気概はないのかい」


末王子は問いに答える。


「自分の意思は────えっと……よくわかりません。ただ現実的に考えると、自分よりも兄さまたちの方が上手に国を治めるのではないかと思っております」


長兄王子が続ける。


「そうか。ではもう一つ尋ねるが、お前は、兄のうちの誰が一番王に相応しいと考える」


「ごめんなさい……判断が難しいです。私には誰か一人を申し上げることはできません。しかし、兄さま方にはずっと仲良くしていてほしいのです。どなたが王になっても、兄弟の足並みが揃っているならばきっと良い国になるはずです。……私は、兄さま方とこの国が大好きなのです」







一番目の王子は、末の弟が自分を指名しなかったことに腹を立てた。


「お前は父上と同じことを言う。兄弟仲良く助け合え、良く国を治め家族や民を愛せ────思い返せば何時もいつも、お前は父上の言う通りばかりじゃないか。そんなに父上のご機嫌取りが楽しいか」


長兄王子の言葉に、弟王子は表情を曇らせる。


「私は…………父上を尊敬しているだけです。それだけなんです」


「ふん、知ったことか。とにかくお前には王となる意志も力もないということだな。それなら、他の者と決めればよいことだ。これより、末の王子は候補から外すこととする」




国王の目の前で長男王子が末王子を除け者にしたが、父親の彼はただ黙って成り行きを見ているようだ。


王子たちも、父親が何も言わないのでそのまま話し合いを続けることになった。







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