1.
痛いほど照りつける真っ赤な太陽の元、俺は店頭に突っ立っていた。
このあたりでは結構人の多い商店街に入っている小さな八百屋。
本来俺はこんな暑い中仕事をするんじゃなくて、涼しいオフィスで悠々とパソコンに向かっているはずだった。本音を言えば、この仕事は楽しくない。
楽しそうに道を歩いて行く人たちを疲弊した顔で眺めていると、その中の一人、ちょっとだけ伸びた髪をくくって、背中には大きく丈夫そうなリュックサック、そしてそばかすが良い感じの男性を見つけた。
「あ。」
いかにも世界中を旅して良そうな格好だなと思ったのは俺がその男を知っているからなのか。彼もまた俺に気が付くと同じように口を開けた。
「もしかしてオスカーか?」
「えっと……」
俺が返事に困っていると彼はずんずんとこちらに近づいてきて、顔を覗きこみ、俺がオスカーで正しい事が分かると目を輝かせた。
「うんオスカーだ久しぶり元気にしてたかー!?」
「お、おう、久しぶりだな、ディーノ。」
彼を見るのはおそらく二年ぶり。一年半前の年末に二人で飲み明かした時、彼から「世界を見てくるよ」と言われ、そこからは連絡も取っていなかった。
元気にしてたかという問いに対して嘘でも元気だと言えばいいのに、どうも彼の前では嘘をつく気にすらなれない。幼馴染として小さい頃から彼の事は知っているが、思えばコイツは昔から純粋で元気で真っ直ぐな奴だった。
「結局八百屋継いだんだな。親父さん喜んだだろう?」
「親父が倒れたんだ。継いだと言っても嫌々だ。」
返事に困る事を言ってしまったかと内心焦ったが、彼は「ふーん」と言っただけでそれ以上の事は何も言わず、店の中を歩き始めた。なんだか自分の適当な働きぶりを見られているようでどうにも恥ずかしかったが、幼馴染の前に客でもある彼を追い出すことは出来ない。
「ディーノは今何してるんだ?」
「俺か? 俺はウクレレ片手に世界中を旅してまわってるさ。」
ちょっと日に焼けてこんがりした以外、話し方も、堂々とした態度も、子供のような笑顔も、何も、変わっていない。俺は懐かしさを通り越して、これがいつも通りの気さえしていた。
「そういえば、俺良いモノ持ってんだー。」
「良いモノ?」
ディーノはアッと思い出したようにリュックを下ろすと、何やらごそごそ探し始めた。
後ろからリュックをそーっと覗くと、服や財布や何が入っているのかもわからないポーチなどが乱雑に入れられているのが見えた。するとその中のお土産だろうか、どこの民族のかもわからない骸骨の人形と目が合って、思わず一歩引き下がる。
「うわあ……お前バッグの中身掃除した方が良いぞ。」
「うーんそうかー?」
俺の話にはさほど興味が無いのか。彼は適当に返事をしたかと思ったら、何やら鉄の棒のようなものを取り出して天井に掲げた。
「あったぞ! ちょっと無茶して買ったバーベキューコンロ!」
「それがコンロか?」
「そうそう、これを広げたらいい感じになるんだ。」
何やらこの鉄の棒、このままで使うのではなく、これから組み立てるらしい。
バーベキューのようなアウトドアな趣味が無い俺にとっては未知の話。
「……ってちょっと待て。」
「なんだー?」
今まであまり気にしていなかったが、ちょっと変なことに気が付いた。
「バーベキューって何、ここでする気か?」
ここは広く商品が取り扱われている商店街で、観光客や休暇を楽しむ人、普通に夕食の買い物をしに来る人などでにぎわっている。店の外も庭などは無くただのアスファルトの道。こんなところでバーベキューするとどうなるのか、自明だった。
「勿論だ! ここには良い野菜がいっぱいある、最高な場所だろ?」
彼はトマトに負けない、皮肉なほど良い笑顔を俺に向けた。