一章
鬱勃
目が覚めると僕は暗い部屋の中にいた、身体の芯には微かに夢の残像の様な微かな温もりが感じられたが、四肢にはふわりとした冷たい空気に晒されていた。
ここは何処なんだろう?そう思うと同時にこの場所が自分の前から知っている場所であり、いつもいる場所のような気もする。「戻らなきゃ」そんな声が聞こえた気がする、でも実際に僕の鼓膜を通して僕の中に入ってきたと言うよりも、それは僕の内側から発せられた気がしたのだ。
回転木馬が僕の前をぐるぐると陽気な音楽を奏でながら回転している。周りをぐるりと見渡すと、ローラーコースターや、迷路、風船を持ったピエロ、お土産を販売しているお店、綿菓子を販売しているお店の甘いかおりが此処まで届いてくる、もう僕は暗い部屋の中にはいなかった。
おかしいな、此処は遊園地のような場所なのに人っ子一人見当たらない。でも、僕はここに誰かと来ていた筈だ。何故なら入場のペアチケットが二枚僕の手に握られていたからである。
一歩踏み出した途端、ジリジリと言う機械音が僕の頭を叩いた、それは僕を薄暗い部屋に連れ戻すのには十分だったようだ。