case.1 大久保 真由美[02]
そこでふと違和感を覚える。あれ?なんで俺が事務所に入った時、ドアが開いていたんだ?鍵を開けっ放しにして終業するわけないし、だとすると、今朝ここの鍵を開けたのは誰なんだ?
「あのう…また時間を改めて来たほうがいいですか?」と声をかけられはっと我に返る。
鍵の事より、来客対応をしなくては。俺はまだ仕事について何も分かっていないから、とりあえず他の社員が来るまで彼女には待っていてもらおう。
「大久保様、失礼致しました。只今、上司が席を外しているようですので、戻り次第対応させて頂きます。」「しばらくの間、お掛けになってお待ち下さい。」
事務所に入って左手奥には移動式のパーテーションで仕切られたスペースがあり、社員用のデスクとは別に丸テーブルとイスが置かれている。依頼人とはここで打ち合わせをするのだろう。そこに彼女を案内した。
「あら、じゃあ待たせてもらうわね。」「入社早々、ご迷惑をかけてごめんなさいね。」
「いえ、とんでもないです!」などとやり取りをしていると、バーン!と音を立ててドアが勢いよく開いた。
「あれ?もう人がいるー!」「わーお客さんだ!今、お茶淹れますね!」バタバタと慌ただしく部屋に入ってきた若い女は、入り口すぐの左の壁側、隣の部屋へと通じるドアを開け、持っていた大量の荷物を放り込んだ。
「あなた、日向さん?ちょっと手伝って。」そいつはおもむろにそう言うと、俺の返事を待たず、今とは反対方向の壁側へと早足に移動する。
ドアがついていない壁を切り取っただけの出入口。そこに掛かる目隠しの暖簾をくぐると、その先は給湯室になっていた。
「まず、コーヒーメーカーの水容器をセットして、ここの三角部分に紙フィルターとコーヒーの粉をセットしてスイッチオン!コーヒーができたらお客さんに出して。」
「その間に、電気ポットに浄水器の水を入れて。あと、流しの桶にハイターで浸けてある布巾があるから、水で何回かすすいで干しておいてね!」
「私は事務所周りの掃除してくるから。よろしく!」
そいつはマシンガンのように早口で説明を終えると、黒髪のポニーテールを揺らしながら駆け足で事務所から出ていってしまった。