case.0 ~日向 夏樹~ [04]
「ちょっとアンタ!!」
俺は体の奥からからふつふつと沸き上がってくる怒りを込めて、思いっきり叫んだ。
「うわぁ!」「なんだ君かぁ~大声出してすっかり元気そうじゃん。」男は悪びれる様子もなく、会った時と変わないへらへらとした顔をしている。
その顔を見てさらにムカッ腹が立った俺は
「なんだじゃないよ、この泥棒!」「俺の千円返せよ!」「困ってる人間を助けるふりして、金を巻き上げるなんて最低だ!恥を知れ!」と矢継ぎ早に男をまくし立てた。
すると「君はさ~、なんで自分が困ってたら、他人が助けてくれると思うの?」「君を助けたところで俺になんかメリットある~?」「世の中、弱肉強食。弱いものは簡単に食い物にされるんだよ~。」男は先ほどまでと変わらずへらへらした態度で、しかし、きっぱりとこう言いきった。
俺は突然こんなに言い返されるとは思わず、面食らってしまった。この男ならば「ごめん、ごめん、そんな怒んないでよぉ~。」といった調子でばつが悪そうに微笑むもんだと、そう思っていたからだ。
黙りこんだ俺を尻目に男が続ける。「だいたいさ、俺の千円返せ!なんて言うけど、君の食べたそば代は俺が払うの前提なわけ?」「別に奢ってもいいけど、奢られて当然!みたいな態度は頂けないな~。」「それとも君は自分の事を、自殺を考えるほど傷付いた人間なんだから優しくされて当然だし、自分には優しくされるに値する価値があるんだ、とでも考えているの?」
なんと嫌な奴だ。俺の今の心情ど真ん中を言い当てやがって。しかも、お前には人に優しくされる価値など微塵もないよという事まで暗に言われているようで本当に腹が立つ。
「図星すぎて何も言い返せないか~?」「まぁ、いいや。とりあえず俺についてきてよ。暇でしょ?」
何も言えず黙っていると、男は目の前にある雑居ビルの階段を登り始め、後をついてくるように指示した。
俺は言われるままに男の後をついて行く。
もう、どうにでもなれ。