case.0 ~日向 夏樹~ [03]
ドラッグストアーを離れ寂れた街並みの中ををフラフラと歩く。
今までの人生もそうだった、誰かに気にかけてもらえた事などない。むしろ嫌われてきた人生だったではないか。
ダンスのペアになった女子に拒まれたこと。
学生時代、たびたび掃除当番を押し付けられたこと。
いじめられてる奴をかばって、友達に見限られたこと。
片思いをしていた清楚で控えめな女子に告白したら、陰でボロクソ言われてたこと。
同期のミスを自分のせいにされたこと。
俺が断れないと思って、どんどん仕事を回されて、挙げ句上司から遅いと怒られたこと。
失恋で落ち込んでいる同僚を励ましつつ、笑顔を向けていたら、気持ち悪いセクハラだと言われたこと。
仕事もできないし、セクハラ等の問題も起こすし、もう仕事を辞めろと上司に言われたこと。
俺に投げ掛けられたたくさんの罵倒の言葉と、その時のエピソードが頭の中でチャプター再生される。
あぁ、そうだ、俺は嫌われていた。
嫌われていたんだ。
なのに常識人ぶって善い人を演じて、必死に自分は悪くない、自分は嫌われてなんかいないと思い続けてきたんだ。
行き場のない感情がどっと押し寄せてくる。
情けない!くだらない!みっともない!自分で自分が嫌になる。ただ、ただ、惨めだ…
視界が滲む。寒々とした外の空気とは対照的に頬を伝う涙は思いの他熱い。
「大丈夫かい?」
目の前には心配そうに俺を見つめる老婆が立っていた。泣いている俺を不審に思ったのだろう。その視線になんとも居たたまれなくなり、何も言わずに、ふいっと顔を背け歩き出す。
少し先の電柱脇に自販機が見える。何か飲み物でも飲んで落ち着こう。悲観的な思考を少しでもどうにかするために歩を早めた。
あと5mほどまで近づいた時、電柱脇で煙草を吸う人物に目が釘付けになった。それはなんと、あのくせ毛男ではないか!