case.0 ~日向 夏樹~ [02]
「ご馳走さま~。」
男は上機嫌で店を出る。
「んじゃ、買い物行きますかぁ~。」
男に促され二人並んで歩き出す。
「やっぱ卵ってさご馳走感があるよね~。」「しかも、とろろまでつけちゃうと精までついちゃうよね~ウハハハハ。」などと、男が一人でぺらぺら喋るもんだから、相づちをどこで打てばいいのかわからず、曖昧に微笑んで話を聞いていた。
「あっここ!このドラッグストアーが安くていいのよ~。」そうしているうちに、目的の場所に着いたようだ。
「ちょっくら、チューハイ買ってくるからさぁ。」
昼間から酒か。平日の昼間にフラフラしているなんて定職には就いていないのだろう。まぁ、今の俺もそんなこと言えた義理じゃないのだが。
しばらくの間、入り口付近の品物をチラチラとみながら待っていたが、男は一向に戻ってこない。どうしたのかと、店内を一回りしてみても男はいない。
「店員さん、さっきまでここにいた、くせ毛でたれ目の男知りません?」と訊ねてみると。
「あぁ、その人ならさっきお会計して出てったよ。」「今日はちょっと儲かったから祝杯をあげるんだー。とかって言って上機嫌で帰って行きましたよ。」とあっさり言われた。
しまった!やられたー!!
あの男はそばを奢るつもりなんかさらさらなくて、さっきの千円のおつりでチューハイまで買って帰りやがったんだ!
寒さに凍える俺の腹を満たしてくれ、何も聞かないでいてくれた男の優しさに感動していた自分が馬鹿みたいだ。
先ほどまで幸福感に満たされていた俺の体は、一瞬にして悔しさと虚しさに占拠されてしまった。