case.1 大久保 真由美[06]
「そこまで決まっているようでしたら、今回は、この相談のみで終了ということでよろしいでしょうか?」白石さんは満面の笑みを浮かべ、大久保様を真っ直ぐに見つめる。
「はい、そうですね。」「話を聞いて頂けただけで充分ですから、これ以上、皆さんに何かお願いすることはないと思います。」大久保様も笑顔で答える。今日、この事務所に来てから一番いい表情をしている。なにか憑き物が取れたようなすっきりとした顔だ。
窓からはちょうど太陽光が射し込み始め、彼女を背中から照らす。時刻はもうすぐ10時を向かえようとしていた。
突然、視界の端から人が現れる。
「失礼します。コーヒー、良かったら飲んで下さい。」
今朝、俺に雑用を頼んできた女がカチャカチャと音をたてながら、コーヒーカップを大久保様、白石さん、俺の順番でテーブルに置いていく。
最後に外国製のパッケージのちょっと洒落たクッキーや飴の入った小さなカゴを真ん中に置き「お菓子もありますので、食べて下さいね。」と一言残しその場を離れた。
事務所の入り口に背を向け座っていたため気づかなかったが、いつの間にか掃除から戻っていたようだ。
「せっかくだから頂きますね。」「こんな感じのお菓子、コーヒーショップによく置いてありますよね。娘も好きなんです。あそこのお店、コーヒー豆だけじゃなく、海外の輸入食材とか調味料とか置いてあってついつい長居しちゃいますよね。」
大久保様の話を受けて、白石さんがいたずらっぽく笑いながら会話をふくらませる。
「わかります~。私も特に用がなくても、コーヒーの試飲目当てにふらっと立ち寄っちゃいます。」
「コーヒーに合うお菓子もそうですけど、お酒に合うおつまみも色々あるので素通りできなくて、もう、ずっと見ていられるほど楽しいですよね!」
「えー!白石さんってお酒お好きなんですか~?私も大好きなんですけど、家族の手前、最近はめっきり飲まなくなってしまって。」
「えぇ~勿体ない!今度プライベートで飲みに行きましょうよ!」
女性二人、どんどん話が弾む。先ほどまでの重苦しい空気はどこへやら、嬉々としてはしゃいでいる様子はさながら昔からの友達のようだ。




