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三分


「私はあくまで積極的に争いを好まず、ただ人間とは共存出来ない魔物だけを庇護したい。でも、戦うことをやめられない者たちがいる限り、人間との戦争は避けられない。だから、勢力を割ることを提案する」


「何……!?」

 広間がざわめきに包まれる。これまで魔王がこんなことを言うことはなかったのだ。確かにあの魔王にはついていけないという者、魔王の弱腰を非難する者、ひっそりと生きていきたいからその方がいいという者、別に魔王がいようがいまいが戦えればいいという者、広間には様々な声が満ち溢れた。


「陛下はどうするのか」

 そのうちの一人がこちらに問う。こいつも七人衆の一人、バルゴルという名前だった気がする。ぱっと見人間と同じ外見だが牙や爪が生えているライカンスロープの類らしい。戦場では動物の本能をむき出しにして敵を殺すという。

「私は争いを好まない側の魔王になろうと思っている」

「では誰がもう一つの勢力の王に」

 傍観者面している苺をちらっと見たら無言で首を横に振った。ちなみにシアは別に王座には興味はないようだった。

「それはそちらで決めるべきことじゃない?」


「そうだな。俺たちで勝手にさせてもらうぜ。臆病風に吹かれた魔王なんていない方が清々する! 人間と戦いたい者は俺についてこい!」

 主戦派魔物だけあってその決断は早かった。

「うおおおおおおおお!」

 主戦派魔物たちは広間を揺るがすほどの歓声を上げてバルゴルの後に続く。四天王のゴルドという魔物も後に続いた。四天王なのに七人衆の下についていいのか。その辺よく分からないけど。

 悩んでいた魔物たちも、出ていくバルゴルらが特に攻撃されたりする訳ではないことに気づいて続々と後に続いていく。結局、六割以上の魔物たちがバルゴルについていった。もちろん、この場にいない魔物たちの中にも彼らに追随する者は後を絶たないだろう。


 大分広くなった広間の中でシアが遠慮がちにこちらを見た。

「行きたいなら行っていいよ」

「でも、幸乃さんは大丈夫ですか?」

「大丈夫、残ってる中にはあんまり狂暴なやつはいないだろうし、苺もしばらくは守ってくれるだろうし、他にも知り合いはいるし」

「それは安心……ですが何か複雑です」

「?」

 珍しくシアの言うことがよく分からなかった。

「うん、こっちは任せて!」

 苺が私の腕を大げさに抱きしめてくるが、シアの表情はますます複雑になっていく。本当に何だろう。が、やがて元に戻る。


「でも、幸乃さんはこれで良かったんですか? 元の世界に帰らないといけないんじゃ……」

「いいよ、こっちの世界でやることの方がよほど大事だから。それにシアも今までごめんね? ドルヴァルゴア神官になったのに全然荒事をさせてあげられなくて」

 私が謝るとシアは滅相もない、と恐縮する。

「そんな! 私は幸乃さんには感謝すれども不満に思ったことなど一度もありませんよ。でも、そうですか……そういうことなら私もあちらに行っていいでしょうか」

「うん。今までありがとう。多分シアと出会わなかったらこういう決断にはならなかったと思う」

「どうなんですかね。素直に彼らを倒す方が幸乃さんの理想に近い世界になるような気もしますが」

 シアの言わんとすることは何となく分かる。シアに出会わなければ、魔王領の旅をしなければ私はその選択肢を選んでいたかもしれない。それでも。


「もしかしたら今の決断をいっぱい後悔するかもしれないけど、そしたらシアのこと思い出すよ。そしたら多分納得出来ると思う」

「幸乃さん……ではお元気で」

 こうしてシアも広間を出て、そして広間を出る者はいなくなった。残った魔物たちはどこかほっとしたような表情でこちらを見ている。人間軍と戦わなくてすむことにほっとしたのか、狂暴な魔物が去ったことにほっとしたのか。誰からともなく拍手が起こり、いつの間にか広間全体に広がる。万雷の、というほどではなかったがそれでも温かみのある拍手だった。


 こうして、私はとりあえず穏健派魔物たちの魔王になることは受け入れられたようである。

天下三分の計

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