真実
「久しぶりクオリア。それでそのお客さんは?」
謎の日本人は言った。
「当代の魔術師だけど。ていうかあなたは冷静に考えるとあなたは先代? 先々代?」
この状況でも冷静なクオリアがすごい。
「珍しいね、クオリアがそんなこと聞くなんて。それは当代さんの入れ知恵? まあいいか、それなら教えてあげようかな」
最初は驚いたようだった謎の人物も話しているうちに落ちついてきたのか楽し気な様子になる。そしておもむろにこちらを向く。まあ、顔はフードの下に隠れているのだが。
「ねえ、当代さんは何から知りたい?」
何からって言われても何から教えてもらえるんだろう。全部知りたいけど。しかし私にとって一番知りたいことは決まっていた。
「あなたはその力を持ったまま現代に帰って何をするつもり?」
「え、そんな分かり切ったこと聞く?」
彼女(声は女だった)はかなり落胆したような声になる。
「そんなの決まってるじゃない。復讐のためよ」
「復讐?」
「ええ、そうよ。元の世界では私は虐げられていたから」
別に彼女の過去をほじくり返すつもりはなかったが、世界と世界を跨いだ計画の理由はかなり個人的なものだった。
「最初は私一人で転移して復讐をするつもりだったんだけど、クオリアの話を聞いて気が変わった。世界と世界の距離が近くなるなら、私と私の軍勢全部そのまま転移させられるんじゃないかってね」
「軍勢?」
失踪していたはずの先代だか先々代にそんなものを作っている余裕があったとは思えない。私の中で嫌な予感がどんどん膨らんでいく。
「ええ。私の軍勢はこの一帯だったら最強なんじゃないかな。最近下らない同士討ちでちょっと傷ついたけど」
そこで彼女は少しだけ言葉を切る。
「衰えたりと言えど魔王軍に勝てる軍勢なんてこの世界にいないんじゃない?」
「何で!」
私は思わず声を挙げていた。元々彼女は人間側として召喚されたのではなかったのか。それが何で、ぶらぶらしている私に言う権利はないけれども、それが何で魔王に味方しているというのか。
一方私の後ろに控えていたシアは呆然としている。いくら強敵と言えどさすがに魔王相手だといつもの闘志はわいてこないようだった。というか、彼女の場合敵なのか味方なのかすら分からずに当惑している。
「何で? だって魔王を倒してそのまま帰ったらせっかくこの魔法の力を失うかもしれない。それは困るからもう少しこの世界に留まることにしたってだけ」
「いや、留まるだけで魔王にはならなくてもいいでしょ!」
「本当にそう思う? ねえ当代さん、ちょっと想像してみて欲しいんだけど。もしあなたが私を倒してあなたがそのまま元の世界に帰ったらその後どうなると思う?」
「そりゃ人間が魔王の残党を倒して平和に……そうか」
私はシアと目が合った。これまで魔王領にいた者たちは皆人間社会にはいられない者たちだった。やむをえない事情があるものからただの悪者まで様々な者たちがいた。しかし人間が勝てばそれらの者たちは皆滅ぼされてしまうのだ。
「そ、そういうこと。だから私は人間が魔王領に侵略しようとしたタイミングで新しく現れた魔王という体で魔王領に君臨した。別に私はこの世界の人間には恨みはなかったから人間領を攻めることもしなかった。ただ別に人間を好きでもなかったから部下が勝手に人間を襲うのを止めもしなかったけど」
「……」
言われてみれば魔王領の者たちは自由であまり魔王が強権的な統治をしているようには見えなかった。だが彼女の言葉を聞けば納得がいく。魔王は単に人間に対する抑止力としてのみ存在し、別に魔王を束ねたり人間を滅ぼしたりする意志はなかったのだ。
「言うなれば私は人格としてではなくただの力としてのみ存在した。でももうそれも終わり。私はついてくる者たちだけを従えて現代に戻り、現代に国を作る。もちろん、こちらの世界で人間に討伐されそうな者も現代の方で受け入れる。どう? なかなかいい計画だと思わない?」
魔王の野望は一般的なそれとは少しだけ異なっていた。普通元の世界の住民を滅ぼすところ、何で私たちの世界を襲うのか。さすがに私も呆然とした。しかし私の意志は一つである。問題はそれを貫き通せるか、その一点に尽きた。
そうは言ってもドルヴァルゴア神官が人間社会にいるのは嫌ですよね。




