目覚め
「大丈夫ですか?」
「う、うう……」
体がひどく重い。このまま目をつぶればおそらくもう一度眠れることだろう。私はもう十分頑張ったはずだしもう少し寝ていても許されるはずだ。あれ、そう言えばそもそも私はどうしてこうなってるんだっけ。
そこで私は思い出す。そう言えば魔王城に侵入して魔石を奪い取ろうとして大爆発したんだった。あれ、じゃあこんなところで寝ている場合ではないのでは?
「あれ、私は……」
私はがばっと体を起こす。とりあえずベッドに寝かされている。ベッドがあるのは知らない場所だった。粗末な小屋の中だろうか。
「良かった、目が覚めて」
声には聞き覚えがある。傍らを見ると白髪の少女が座っている。
「あなたまさか……シア?」
「はい!」
言われてみれば外見や声は変わっていないのだが、雰囲気が全然違う。前に会った時は虐げられている儚そうな少女という感じだったが、今では力強さと自信を感じる。それでも優し気な雰囲気と私への好意だけは変わらずに感じられた。
「良かったです、無事で」
私が無事なことに心底ほっとしてくれているようである。
「ありがと……でもなぜ私を?」
「それはですね……」
そう言ってシアはその後のことを語り始めた。
私とセラの提案でドルヴァルゴアの力に目覚めたシアだったが、力を手に入れてもどう生きていいか途方に暮れた。もちろん野生動物などを狩っていれば食べるのには困らないのだが、何をして生きていけばいいのかが分からなかったのだ。これまで自分を虐げてきた魔物たちと今更仲良くしたいとも思わなかったし、かといって人間界では邪教とされている信仰である。
そう思ったシアはとりあえず幸乃とセラを追うことにした。シアの力が覚醒する前であれば足手まといにしかならなかっただろうが、今ならどこででも生きていける。そう思ったシアは道々強そうな魔物と手合わせしながら魔王城を目指した。
「ああ、思考がドルヴァルゴアに染まってる……」
普通の人間は魔物との戦闘を手合わせとは言わない。
「最近強そうな魔物と会うとテンション上がるんですよ」
そんなことを真顔で言われても。やはり邪教は邪教だ。
その後シアは魔王城で大爆発が起こったのを見て私を探してくれたらしい。そのときの私は黒い魔力に覆われて魔王城から少し離れたところで眠っていたらしい。おそらく、暴走したとはいえ元は私の魔力だったので助けてくれたのだろう。
「なるほどね」
「でも幸乃さんすごいですよ、今魔王軍は上へ下への大騒ぎですから」
「そうなの?」
あれくらいで大騒ぎするくらいならもっと警備をちゃんとした方がいい気がするが。
「だって考えてみてください、魔王軍七人衆うち一人が行方不明で一人が精神崩壊。その上魔王軍の切り札的な存在であった魔石は消滅、さらに魔王城は半壊。しばらく人間との戦争なんて出来ないんじゃないでしょうか」
「まあそうか」
ガルーザもあの魔石を使えば教会を壊滅させられると言っていた。もしかしたら魔王か他の幹部も何かすごい魔法に使う宛てがあったのかもしれない。七人衆も私が四天王の下部組織か何かと思っていただけで、実は最強集団だった可能性もある。
「そう言えば幸乃さんは何で魔王城を目指していたんですか? そもそも一体何者なんです? 魔王陣営とも人間陣営とも違った雰囲気がしますが」
「うーん……」
私は少し考えた。どこまで自分の状況を話すべきか。とはいえ現状私は現代に帰る方法を何も持たない。シアは弱かったとはいえ魔物領で生きてきた。何か手がかりを知っているかもしれない。それにシアは人間とも魔物とも敵対していないのだから、私の正体を知っても敵にも味方にもならないだろう。
「分かった、話すね」
私は異世界から召喚されたくだりからここに至るまでの経緯をざっくり話した。思いもよらない事実にシアは目を丸くしていたが、私の微妙にこの世界から浮いた雰囲気について納得したらしい。
「なるほど、そういうことがあったんですね。あそこで私を助けるというのは人間でも魔物でもしないと思っていたので」
「はは、でも一体どうしようこれから」
「うーん、私も噂レベルでしか聞いたことがないですが、先代救世主の時代から異世界との繋がりについて研究している魔術師がいるらしいです」
「本当に!?」
私は思わず食いついてしまう。シアは苦笑した。
「まあ、噂ですけど。ただ、魔物は人間より長寿な個体が多いのでこちらでは先代の方はそこまで伝説という感じではないですね」
「他に当てもないし、是非その人を探したい」
「はい。私もすることがないのでとりあえず幸乃さんを無事送り返すことを目標にしようと思います」
シアは邪気のない笑顔でほほ笑む。あの野蛮でガサツな氷雪野郎と天使のようなシアが同じ神を信じているとは到底信じられなかった。
陰キャは他人との距離をある程度保とうとするので素直に自分の秘密を打ち明けられないことが多い




