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「まあいいや、とにかく私は復讐をする。この腐った世界にね」
魔王は私を試すような目で見つめてくる。
「そんな、幸乃さんに手を出すというなら私は」
シアは気丈にも、私をかばうために前に出ようとする。
が、魔王はそれを言葉で制する。
「いや、別に私は救世主さんと戦いたい訳ではないよ。私はただ傍観していて欲しいだけ。そしたら別に危害を加えることもない。だからあなたには彼女を止めておいて欲しいんだけど」
「幸乃さん……」
シアは困惑してこちらを見る。彼女自身、ここでどうしていいかよく分かっていないようだった。魔王に直接の恨みはないが、命の恩人である私は魔王を止めようとしている。一体どうすればいいのか、と。
全く、何で私がこんなことをしなければいけないのか。
そう思いつつも私は色んなことを思い出す。すごく楽しかった訳ではないけどなんだかんだ平和だったし好きな物もあった現代日本。
いきなり襲い掛かってくる魔物も多かったし悪い奴も多かったけど、単に変なだけでいい人もいた魔王領。どちらなら切り捨てていいとかそういうものではなかった。
何で中身はただの女子高生の私がそんな決断を迫られているのか。それでも、平凡だからこそ他人に優先順位なんてつけられなくて(別に全員高くはないけど)、自分が大層な人間ではないから色んな相手に同情が出来る。そう思えばこの場に私がいるのは適切に思えた。
もう少し魔法を使い過ぎていたら魔王の言うがままにしていたかもしれないけど、そうじゃなかった自分が少しだけ誇らしい。
「さあどうする? 救世主さん?」
魔王は挑発的な笑みを浮かべる。
ただ、私の気持ちは決まっている。
私は自分の決断を言葉にして伝えるため、口を開くのだった。