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惑いの峠

 天城越えの秋は、九十九折を登るにつれて深まっていった。

 紅や黄の木葉に彩られた山道は、西陣織の帯のようだった。


 水無瀬愛里紗(みなせありさ)は、重い足を引きずるように坂道を登っていた。

 目の前には、愛里紗の娘の手を引いて歩く、渋沢章仁(しぶさわあきひと)の背中があった。


 それは、手を伸ばせばすぐに届きそうな、いや、すくなくとも一度は、手が届いたと思ったものだった。

 なのに今は、そのわずかの距離が、永遠に縮まらないもののように思えた。


 木間ごしに見上げる空は、昨夜の雨の名残りで、薄墨を流したように重かった。木枯らしが寒々しく枝を鳴らし、結城紬の裾でわずかにわだかまって消えた。

 山が泣いているような風の音は、愛里紗の脳裏に、昨夜の章仁の声を呼び覚ました。


「すまなかった」


 その言葉は、甦るたびに、硝子のかけらのように愛里紗の心を傷つけた。

 それが、だれにむけられた謝罪なのか。愛里紗には、わかりすぎるくらいに、わかっていた。

 そして、それだけが章仁との絆であり、それこそが章仁との障壁であることも。

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