第5話:貴方に会って
今回はAIさん視点です。
最近ドッキリが成功したり、評価が(本文の)上がったりと嬉しいです。
《天の声さん(AI)視点》
私は…一体なんなのでしょうか?
生まれた…産み出された時からずっと考えていること。
私は人に作り出されたAI、名は《祝福されし7番目 blessing seventh 》。ゲームのために開発されたAI。私以外にも何体も開発されていて、私は7番目。
日々、上からくる仕事をこなしたり、他のAIと交流したりして過ごしている。最近はゲームの発売が近く、皆ピリピリしていますが…。
ゲームが始まってからが私たちの本番なのだから、今のうちに準備をしておかねば。そう思い今日の作業に取り掛かろうとした時…
ピロンッ♩
軽快な着信音が響く。今日はそんなに緊急の連絡も調整も入っていなかったはずだけど…?
そう考えながら呼ばれたアドレスに飛ぶ。
そこは上のデザイナーチーフである小谷さんが作成した教室だった。
そして…
「やあみんな、久しぶり。さっそくだけど今日なんで呼び出したのかを伝えるぞ」
教壇に立っていたのは私たちの生みの親。AI管理部門のチーフ、荒木光邦。彼は私達の面倒見をしたり、仕事の振り分けや、その他様々な仕事を幅広くやっている。普段色々と騒がしい兄弟達も、彼の前だからおとなしい。
「今日はせっかくだから小谷がデザインした教室に呼んでみた。で、要件だが…今日はゲームが発売されてから始めの大仕事、ズバリチュートリアル説明についての説明をしていきたいと思う」
チュートリアルなんて決まったパターンでやらしときゃいいだろ、とか、そういう意見もあると思う。だけどうちの運営がそんなこと言ったら本当に怒る。「楽しい」や「驚き」、あとは「下らないこと」を身を削ってまでやる人しかいないからだ。このゲームも、全ての基準が、なんか面白そう、とかで作られたのが大部分だ。
だからこそうちの上は、特に開発主任の佐藤柘榴さんは「チュートリアルでウチのAIが凄いってことを見せつけるぞ!」とか意気込んでいた。まだウチほどのAIを開発し、実用化しているところは少ないからだろう。多少の親バカの様な気もしますが。
「チュートリアルの流れについては送信したデータファイルを見ればわかると思うが…そのほかでいくつか注意点がある。それ以外ならお前らの自由にしていい」
ふむ。荒木さんが直接我々に伝えたいこと、ということですか。
重要なことでしょう。荒木さんは道楽に生きる方ではあるが、余計なことで私達の仕事に手を出すことはないですから。
「お前らにはチュートリアルAIとして今回やってくるプレイヤーに色々教えてもらうわけだが…その中でお前らには最も注意すべき事がある。それは誰も彼もがお前らを『人間』として見てくれるわけじゃないってことだ。中にはAIのくせに、なんてお前らを下に見てくる奴もいるだろう。できればそんな奴らにこのゲームをやらせたくはないが…そういう奴もいるって事だ」
ふむ、我々のプレイヤーへの接し方の注意ですか…。確かにそんな奴らもいるでしょう。クレーマーだったり、勝手に理由をつけてこちらを訴えてきたり…。
他の兄弟達もある程度想定してはいるでしょうが、心配なのも何人かいますね…。いくらGM権限が使えても、それを濫用しては、向こうに優位性を与えることになってしまいます。まあ、後で注意の一つでも入れておきますか。
「お前らはもう自立思考もできるし、俺らにゃできん事だってやってくれる。人間と同じだし、それ以上に見られてもいいくらいだ。だから…そういう奴らに関しての処置は任せる。ただ、出来るだけ一旦見逃してやってくれ。せめて最期のチャンスくらいは与えてやってもいいだろう。ただ、その後やらかした場合は容赦なくGM権限で追放して構わん」
そうですね。私達は人間と同じ思考レベルを持っていますので、他の人からAIだからという理由で差別される謂れがありませんし、そんな人と同列に見られたくないです。まあ、何だかんだ言って荒木さんは私達に弱いんですよね。息子さんが反抗期だかららしいとかNo9が言ってましたが…
「そうだな、後は…
その後も人に接するときの注意やコツなど、様々なことを教えて貰い、計一時間ほどの話はおわった。
数日後…
ついに今日がゲームの…real virtual on- lineの発売日である。私はチュートリアルAIとして仕事に出ているが、今のところ結構な人数を同時にさばいているのに、終わる気配が全く無い。
まあ、早くゲームを始めたいからチュートリアルは早めに終わらせる人が多いし、忙しくても真夜中には終わるだろう…そう考えていると…。
「何でこんなクソみたいな長い設定と戦闘しなきゃいけねえんだよ!オレはさっさとフィールドに行って攻略しなきゃなんねえんだ!AIのくせに融通効かねえな!」
私が応対しているチュートリアルフィールドの一つで暴れている男がいる。大方有名になりたいだけのプレイヤーだろうが、有名になるにしても、彼は悪い方で有名になりそうですね。…なぜ怒っていないのか?そんなの怒る価値もないからですよ。
それにしても…AIのくせに、だって?
へえ…このゲームを守る存在である私達にまで喧嘩を売るとは…放っておけませんねえ…
コイツは荒木さんのいう最期のチャンスとやらも与えたくはないのですが…しかしまあ、上からの指示と思って見逃しますか…
…次はありませんけどね。
私達はGM権限の一部として注意すべき観察対象のログや情報を閲覧する権限を持っています。私は彼のログをチェックする設定を終えると、AIの中でもそれぞれを統括する兄弟達にグループチャットで情報を流しておく。
No7:
注意プレイヤー情報
アカウント名:ジャイル
罪状:AIへの差別的言動、暴言。次に何かやった場合はアカウントをBANしても良いかと。
すぐに他の兄弟達からも返信が来る。チャットの履歴を見ると、他の注意プレイヤーの情報もいくつか回っていた。
はあ…やはりこういうのを相手にしていると疲れますね。マナーを守れる人が来てくれるといいですが…
私は次の応対に出るための準備を整える。すると直ぐに入室要請が来ていた。
表れたのは今日何千回と見たアバターを作る前の霊体の様な姿。
「ん?おおおおお…」
聞こえてきたのは女性の声。どうやらこの空間に感嘆しているらしいので、βテスターでは無いようですね。
その後何時もの様に最初の口上を述べると…
「よろしくお願いします?天の声さん?」
「ぶっt…(て、天の声さんって、ネーミングセンス…w)」
ははっ。いやほんと私のことを呼ぶのに名前を付けてくる方もいませんでしたが何より天の声さんって…ダメだ。笑ってはいけないと思いつつ笑ってしまう…!
「今、笑いました?笑いましたよね!?」
まずいまずい。一応チュートリアルAIなのだから礼儀正しく導いていかないと。
「い、いえ…」
幸い彼女はあまり機嫌を悪くした感じでは無いですね。取り敢えずはアバター作成から進めていきますか。
アバター設定時に感想を求められたり(私は女性の褒め方を特に知らないので当たり障りのないこと言いましたが)、キーボード変更をした時に感嘆した様な、と言うか初めてル◯バを見るような目で見られたり、かなり好奇心旺盛だが、分別はつけているし、何より楽しそうなのが運営側としてもとても嬉しいですね。私達の親が褒められた様で嬉しくなる。
次はジョブ設定ですが…
彼女はひたすら熱心にペンを動かし、やたら長い時間マークシートのコメント欄に向かっている。コメント欄に何をそんなに熱心に描いているのですか?
「何って…天の声さんの容姿捏造設定…かな?」
ええ…彼女の中の私のイメージって事ですよね。そんなの描いてどうするんでしょう…?まあ、私がどう見られてるのか、興味がないわけではないですけど。
「はあ、でも、私は一応AIの中でも高性能な方で、自身のアバターくらい作ろうと思えば作れるんですよ?」
「うっそお。だったらなんで作らないの?せっかくいい声してんのにさ…」
声!?私別に人に褒められる様な声ではないと思いますし、今まで兄弟や荒木さんにも言われたことは無かったんですけど…
こっそりと彼女が描いていた私の捏造設定(容姿)をみると…そこには綺麗なイケメンのイラストが一枚。色は一色だが、メガネと綺麗に揃えてある白髪が凄く真面目な感じを出している。前髪の一部が顔の横に伸びており、黒のメッシュが一部に入っている。スーツ姿で綺麗に微笑む姿はどこか優しさを感じさせた。
「今までそういう事が頭に浮かばなかっただけですが…たしかに他の役割をする時に少々必要ですかね…」
半分はそう思ってのことだがもう一つはやっぱり何というか…彼女の期待を裏切ってはいけないと思ってしまうんですよね。
結局彼女が作った通りにアバターを作ってしまいましたが…まあ、趣味で他の兄弟達は作ってましたし、文句は言えないでしょう。
「ふむ、作成者から見てどうですか?この姿」
「いやめっちゃ好みです。ありがとうございます尊いです」
「ふむ、声にあった容姿になってますかね。ならば大丈夫です。考えてくださってありがとうございます」
「おっと、そんなことをしてるうちにあなたの第1ジョブが決定したようです。…さあ、ご覧なさい。これがあなたを写したあなたの力です。」
上を見てください
さて、彼女の力は…
「創造者」ですか。
ふむ、隠しパラメーターでいうとかなり寄ってますね…◯◯系能力に。
ここまで寄るようなアンケート結果になるとは私も驚きですね。
ジョブと種族決定に行きますか。ここも彼女の選択は楽しい結果を出してくれそうですね。珍しく興味が持てますね。
「ふむ、サモナーですか。なぜそのジョブに?」
「クリエイターって名前的に攻撃職じゃないよね。どちらかといえば生産ジョブだと思うんだ。だから、モンスター相手に火力がないと死んでしまいそうなので…サモンモンスターにメイン火力を任せようと思ってる。それに、自由に育てられるってことは、これから創造者に合わせて調整できるってことだと思うし」
「ふむ。なかなか賢い選択かと。」
「ほんと?ありがとお」
「…(本当は私のようなチュートリアルAIがアドバイスや私情を挟むことは無いのですが…面白い方だと思っている、ということでしょうか…)」
次は種族設定ですね。
うわっ!?迷わず魔物ですか!?アレを選べるのは相当なドエ…かへんた…ゲフンゲフン。
β版でも魔物でプレイしている方は50名にも満たないのですが…特に攻略情報なども見ていないようですね。強くなっていた方もかなりいましたが。魔物。
そう、実は初期地点が不明で何になるかわからないというのが、実はとんでもないデメリットで、そもそもセーフティエリアのない所に降ろされたり、そもそも討伐対象であるが故に他のプレイヤーに何度も倒されてしまったりと、かなり鬼畜な種族なのだ。
…その代わり進化を重ねると強くなれるのだが、そこまでたどり着く前に一回だけできるキャラデリをしてしまう方が多かったと魔物を作成した方が嘆いてましたね。
…まあ、なんか心配ですが…彼女の自由ですしね。
次はスキルですか…。魔物を選んでいるので次は何をやるかすごく不安ですね…。
…意外と普通で良かったです。安心しました。
「…長かったキャラクタークリエイトもこれで終了ですかね…。む!?ん!?」
『ピッガッーーーーガッ…………「創造者」の効果発動…
アバターに新たな選択肢が追加されました。ここで変更しない限り、もう変更はできません。アバターを変更しますか?』
………………………っへ?
あと1話年内投稿します!スタックがなくなったので作れ次第週2くらいで投稿していくと思います。来年もどうぞ応援よろしくお願いします!