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⒍ 砂糖とミルクを


「世話になった。そろそろ退室しようと思うのだが」


 ランバートから唐突に告げられた言葉に、食後の珈琲を淹れていたゆかりはぽかんと口を開けて振り返った。

 退室する、ということはランバートはもう帰るのだろうか。きょろきょろと辺りを見回してみるが、迎えの姿はない。

 それともテレパシーなんかのゆかりには気付けない方法で、仲間からメッセージが送られてきたとでもいうのだろうか。


「何か連絡きた?」

「いや、まだだが……夜に男女が二人きりでいるのは、親御さんが帰って来たとき驚くだろう。だから外で一夜過ごし、また日が明けてから来ようと思うのだが、いいだろうか」

「え、ちょっと待って。そんな格好で外出たら銃刀法違反で速攻ムショ入り。明日どころか身分がはっきりするまで出て来れんから!」

「そ、そうか……?」


 つい素で突っ込んでしまったゆかりの剣幕にランバートはたじたじ。彼の及び腰に気付いたゆかりは取り繕うようにひとつ咳をすると、食器棚から取り出したばかりの珈琲カップを一度テーブルに置いてランバートへと向かい合った。


「あのね、日本には警察っていう……えーっと、悪い人を取り締まる組織があってね。外でそんな刃物持ってたら捕まって檻の中に入れられちゃうの。……ここまで分かる?」

「ああ。自警団のようなものだな」

「外国人が日本に来るにはビザとか何とかカードとか必要で、持ってなかったら不法入国だとかでその人の国に送り返されるわけ。でもそもそもあなたの生まれって地球にはない国だから…………たぶん、地球人じゃないって分かったら研究されて出て来れないと思う」

「む……それは厄介な」


 ゆかり自身詳しく知らないためあやふやな説明しか出来なかったが、このまま外に出たら面倒なことになるということは伝わったようだ。

 ニュースを見てたらランバートの姿が映し出されるだなんてことがあった日には後味が悪すぎる。


「それにお仲間さんはここに現れるんでしょ? 何人で来るのか知らないけど、この世界のこと知らない人にその状況説明するのは勘弁したいんだけど」

「確かに。だが、その――」

「どうせ一日やそこらでしょ? 父の部屋でいいなら泊まってきなよ」

「……すまない。ではお言葉に甘えさせてもらう」

「はい、珈琲。ミルクと砂糖は?」


 話が一段落し、珈琲を彼の前に置いたのだが、ランバートは親子丼を見たときと同様、きょとんとした表情のままそれを見つめるのみ。

 不審に思ったゆかりが「珈琲、知ってる?」と聞くと、ランバートは眉を下げ首を横に振った。


「苦いのは得意?」

「いや、どちらかというと……」

「甘党ね。はい、それじゃあ砂糖とミルク入れまーす」


 言い難そうに切ったランバートの言葉の続きをばっさりと言ってのけ、彼のカップに適量の砂糖とミルクを投入する。

 黒かったそれが白いミルクと混ざり合い、彼の髪の色になる。


「飲んでみて。まだ苦かったら好きなだけ砂糖入れてね」

「だ、だが泊めてもらうだけでなく、砂糖のような高級品をもらうわけにはいかない!」

「はぁ? あ、もしかして蜂蜜派だった? まぁでも今回は砂糖で我慢して」


 それでもなかなか砂糖に手を出そうとしないランバートを放置して、ゆかりは自分の分の砂糖を取ると雑にかき混ぜて一口含んだ。

 それを見て真似るように恐る恐る口に運ぶのを横目で眺めながら、リモコンを手に取りテレビの電源を入れた。

 突如部屋に響く笑い声に、ランバートの肩が跳ねた。


「なっ、なんだ!? 誰か来たのか!?」

「何って、テレビだよ。もしかしてテレビも知らない?」

「あ、ああ。……この世界は俺の知らないことだらけだ」

「ふぅん? あっ、泊まるんだったら乾燥機かけないと!」


 ばたばたと慌ただしく席を立ったゆかりがいなくなったそこには、困惑した表情のランバートを嘲るように、テレビからの笑い声が響いていた。



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