27. ある日の珈琲
ある日の午後のことである。
喫茶店『おしばな』では息苦しい空気が流れていた。
カウンターを挟み顔を合わせるのはランバートと修司。
ゆかりは常連の木村にどうしてもと頼まれて、二つ隣の家へケーキを届けているため先程から不在だ。
これまでも修司は頻繁に『おしばな』を訪れていたが、対応するのはゆかりが主で、二人きりになるのは海水浴のとき以来だった。
「……もう一杯、いかがですか?」
「んー……じゃ、貰おうかな」
気まずい沈黙に耐えかねたランバートが切り出すと、修司もそれに頷いた。
馴れた調子で珈琲を炒り彼の前に置くと、修司は一口含み、何を考えているのか分からない笑みを浮かべた。
「凄いな、ランバート。これ美味いって。自分の国に帰って店開けんじゃね?」
「そ、そうか?」
「そうだって! 俺が言うんだから絶対イケるわ」
珍しく手放しで褒められ、ランバートの強ばっていた表情が少し緩む。
その隙をついてか、修司は「そういやさぁ」とスプーンで砂糖を掻き混ぜながら徐ろに切り出した。
「もしかして、アイツ国に連れて行こうとか考えてねぇよな?」
「は……? な、……」
「なーんかアイツ元気ねぇじゃん、最近。んで、もしかしてそろそろアンタが国に帰るのかなーなんて、思ったり」
ランバートにとってはゆかりに元気がないというのも初耳で。
一緒に生活しているランバートより、たまに喫茶店で会う修司が先に気付いた観察力。そしてそこからランバートの帰国までを導き出したという修司の言葉に、ランバートは目を見張った。
「いやさ、なんつーか……何て言えばいいかよく分かんねぇけど、アイツあれで抜けてるとこあんじゃん? 俺の勝手な希望だが、アイツには手の届く場所に居て欲しいっつーか」
「それは好きだから、なのか?」
「……さぁな。長く一緒に居すぎて分かんねぇや。ただ中途半端なヤツには渡したくねぇとは思うけど」
「……俺が中途半端だと?」
「別にお前がどうのって訳じゃねえよ。それに俺がどうこう言ったって決めるのはアイツだからな。ま、変なヤツに引っかからねぇよう目は光らせるつもりだけどな。――……お、帰って来たか。俺も仕事あっし、そろそろ帰るかな」
反論しようと口を開いたランバートに修司は目配せすると、カウンターに代金を置いてゆかりと入れ違いに店を出て行き、ゆかりは首を傾げた。
「え、なに? なんかあった?」
「……いや」
外から帰って来たばかりで状況が飲み込めないゆかりが問いかけるが、ランバートは話す気はないらしく、何かを考え込むように黙りこくってしまった。
ひとまず片付けようと手を伸ばしたカップには、ランバートの入れた珈琲がほぼ手付かずのまま残っていた。




