26. 夏が終わり
夏の終わりを告げる花火を終え、この数日の間に季節は変わり、すっかり秋めいた気候になっていた。
昼食の焼きそばをランバートに渡し、何の気なしに見たカレンダーに書かれた文字に、ゆかりはハッと口を覆った。
「……どうした?」
パソコンの前でもぐもぐと焼きそばを頬張っていたランバートが彼女に尋ねる。
祭の際に見た打ち上げ花火に魅了されたらしい彼は、ここ数日暇さえあればやれ焼きそばだ、やれ箸巻きだ、などと出店で売られているメニューを片手に、パソコンで花火の動画を観ることに勤しんでいた。
最初は扱い方さえ知らなかったというのに、この数日ですっかりマスターしたランバートは、今も話の邪魔にならないように動画を一時停止させている。
花火を見る前はあんなにも悩んでいたはずなのだが、花火と一緒に彼の不安も打ち上げられて消えてしまったのだろうか。
「あー……うん。あのさ、来週――っていうか四日後なんだけど、あたし旅行入れてるんだったわ」
「旅行……」
「毎年夏が終わった頃に行ってるんだけどね。すっかり忘れてた」
海が近いこともあり、夏には何人か新規の客が訪れることもあるが、それが終わるとほぼ近所の常連客ばかりになる。
そのため、毎年秋になると数日の休みをとって慰安旅行へ向かうのだが、今年はバタバタしていたために予約していたことをすっかり忘れてしまっていた。
「旅行……? 友人とか?」
「いや一人で。ご飯どうしようか。二泊したら帰って来るけど、その間一人で生活出来る? あれだったら修司に頼んで泊めてもらうことも出来ると思うけど」
不在の間、彼の食事をどうするかと頭を悩ませるゆかり。
初めに現れた頃と違い、こっちの生活に随分慣れたランバートならば修司の家に預けたとしても何も問題はないだろうと提案するが、当のランバートは複雑そうな面持ちで首を横に振った。
「もし、可能ならば着いて行くことは出来ないだろうか」
「……それは別に構わないけど、山の中だし、温泉入ってのんびりすることくらいしかないよ? 特に目新しいこともないと思うし……」
「いや、ぜひ行かせてくれ!」
(もしかして、温泉も初めてなのかな?)
意外な食い気味の返事に少し驚くが、それも好奇心故だと考えると微笑ましくもある。
旅館に連絡しないとなぁ、とインターネットで電話番号を調べ始めたゆかりはけれどすぐに手を止めた。
「ちょっと待って。次の交信ってそこらへんじゃないっけ? 家にいなくて大丈夫なの?」
「問題ない。まだ日にちもあるし、交信は場所は関係なく届くからな」
「へえ〜、便利だね」
携帯電話なしに電話が出来るような状況に、ゆかりは素直に感心した。
聞く話だとあまり機械が発展していないようだから、それを魔法で補っているのだろう。
「その交信ってあたしも聞くことは出来ないの?」
「……ゆかりの魔力量だと難しいだろうな。あちらの世界でなら魔道具を使えば可能だろうが……」
「え? なにそれ、あたしにも魔力あるの!? うわー、魔法使ってみたいわー」
ランバートの言った可能性に、ゆかりは目を輝かせ――そして同時に肩を落とした。
自分には扱えないものだと割り切っていたのに、違う世界でならそれが可能だと知ってしまったからだ。
(まあでも魔法が使えるのは凄いけど、他に不便なこともいっぱいあるみたいだし仕方ないかあ)
日々の暮らしを便利にする様々な機械のない世界。
その便利さを知ってしまっている以上、それらなしの生活など今更考えられない。
それはランバートだって同じで、両方の世界に一長一短あるはずなのだ。
もしこんな魔法が使えたら――
そんな空想を繰り広げながら、ゆかりはランバートと魔法談義に花を咲かせた。




