24. 話し合い
毎年この日は花火を観に人が他県からも訪れるため、いつもより客足が多い。
最後の客を見送り、喫茶店を閉めたゆかりはどうしたものかと悩んでいた。
昼過ぎに一度様子を見に上がったときはランバートは静かな寝息を立てていて、起こすのも忍びなくてそのまま下りて来たのだが、朝から何も食べてないのだ。
パンを置いて来てはいるが、そろそろお腹も空いた頃だろう。
出店なんかはとうに開いている時間だが、肝心の花火まではまだ時間がある。
体調が悪そうだったし、そもそも行けるだろうかとも考えるが、花火を随分と楽しみにしていたしせっかくだから見せてあげたい。
(うーん……ちょっと見てみて、起きてなかったらギリギリまで待ってみようかな)
足音を殺して二階へと上がる。
普段は気にならない扉を開く音が、こういうときはやけに耳につく。
玄関の扉を開いて中を見ると、リビングにランバートの姿はなかった。
(……まだ起きていないのかも)
起こさないように慎重に足を進め、ゆかりは自室へと向かう。
けれど、彼女がリビングに差し掛かったとき、後ろから扉が開く音が聞こえてきた。
「ごめん。起こした?」
「いや、充分休むことが出来た。ありがとう」
そう言って微笑むランバートは、今朝の顔色とは比べものにならない程よくなっていて、ゆかりはホッと息を吐いた。
「お腹減ってない? 何か作ろうか?」
「む……だが今食べたら出店とやらが楽しめなくなるんじゃないか?」
「まあ、そうだけど」
「なら我慢する」
どうやらパンは食べたようだし、むざむざ彼の楽しみを取り上げることもないだろう。
お茶を沸かして、二つのカップに注ぐ。
熱いお茶は夏に飲むには向かないけれど、お腹の中から温めてくれるのを期待して敢えて熱いままにした。
「体調よくなったならよかった。花火はまだだけど、出店はもう開いてるから早めに会場向かってもいいけど」
「そうなのか? なら、少し早めに出たい。…………ゆかり、」
「んー?」
「それまで少し……話せるか?」
ホッとしたような、けれどどこか切羽詰まった真剣な瞳に見つめられ、ゆかりは無言で頷いた。
昨夜、友人のフォルテから交信があったこと、自分がこの世界に飛ばされたことで国が滅ぶ危機になっていること、友人たちが奔走してくれていること――
ランバートが全て話し終えるまで、ゆかりは口を挟まず真剣に聞いた。
そしてそれが終わると、一つずつ確認するように口を開いた。
「えーっと、友達がランバートが向こうに戻れるように奔走していて、半月後にまた連絡するって言ってたんだよね?」
「ああ、そうだ」
「よかったじゃん。そりゃあ心配にもなるけど」
何を悩むことがあるのかと、至極不思議そうに首を傾げるゆかりに、ランバートはぐっと歯を食いしばり「だが、」と言い募った。
「……国が、滅ぶかもしれないんだ」
今まで暮らしてきたサンヴァウム国が亡くなる。
当然のようにこのまま続くと思っていた未来が揺るがされる不安。
怒鳴ることなく絞り出すように呟かれたそれは、彼のその心痛さを如実に表していた。
「うん。……そんな大事に自分が関わっているってので悩むのは分かるよ? けど、ランバートは巻き込まれた側で、責任を感じる必要はないじゃん? 王族のなんの、って言われたらあたしには分かんないけど」
それに――
そう言葉を切って思案すると、ゆかりは少し言い難そうに切り出した。
「勝手な想像だけど、その友達とか部下の人たちだって、そうなるかもってこと分かってたんじゃないかな。それでもランバートを助けたいって、そう思ったから行動したんだと思うけど……」
「…………」
「いや、あたしの想像だからね? 違うなら違うでいいんだけど、いい友達に恵まれていいなーって。ただ待機してるのが心苦しいって言うなら、戻ってからあれこれお礼したりしたらいい話だし――ってまあこっちでは何も出来ないんだし、大人しく楽しめばいいよ! はい、行くよ!?」
珍しく真面目に持論を話して恥ずかしくなったゆかりは話を早々に切り上げると、ランバートに準備するよう急かした。
顔を手で扇ぎながら化粧を直しに洗面所へと向かうゆかりの顔は真っ赤に染まっていて、ランバートはそんな彼女の様子に呆気にとられながらも、その表情は次第に柔らかさを増していった。




