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23. ホットミルク


 結局それから一睡も出来なかったランバートは、ゆかりの起きる時間を見計らって部屋を出た。

 交信が切れてから四時間程あったが、何一つ解決の糸口は見つかっていない。

 フォルテが慌てて切ったこともあり再びランバートから交信するのははばかられ、一人で悶々と考え込んでいたのだが、考えれば考える程暗い未来ばかり想像されて時間ばかりが過ぎていった。

 彼女に心配をかけまいと普段通りの態度を演じていたが、顔色の悪さまでは隠しきれなかったようだ。

 朝食は何がいいかを尋ねようと見たゆかりが、ぎょっとその目を見開いた。


「ちょっと、顔色やばいよ? 花火始まる前に起こすから休んでなよ」

「だが仕事が」

「馬鹿。それで倒れられた方が迷惑だわ。ほら、部屋行くよ」


 渋るランバートの手を引いて部屋へと引きずって行く。

 部屋に押し込め、自分は退室しようと足を踏み出したとき、真っ白なシーツに滲む赤を見つけた。


「え、これ血? なにランバート怪我してんの? 病気? 病院――は行けないか。どこか痛いところはない?」


 矢継ぎ早に問いかけるゆかりの表情は心配に歪んでいて、自身に向けられる純粋な瞳にランバートはなんだか無性に泣きたくなった。


「ぁ……だ、大丈夫。ただ少し引っ掻いただけだ」

「本当に……? シーツ変えるからちょっとそこに座ってて」


 奥歯を噛み締めて堪えるランバートに気付かず、ゆかりは手早くシーツを交換していく。


「何か食べられそうなら持ってくるけど」

「いや、……それじゃあホットミルクだけもらおうか」

「りょーかい。すぐ持ってくるからちゃんと寝ててよ」


 パタパタと慌ただしく台所へと駆けて行ったゆかりを見送って、ランバートは頭を抱えてベッドの縁へ座った。


「……くそっ」


 結局心配をかけてしまっている現況に思わず悪態をつく。

 そうしないと、涙が零れてしまいそうだった。


(ゆかりに話すか……? いや、だが……)


 話せば、ああ見えて心優しいゆかりにもっと心配させることになるだろう。

 だが黙っていたとして、前のように険悪な関係になるのは避けたい。

 そう頭を悩ませる間に、ゆかりがお盆片手に戻って来て、ランバートは一時考えるのを止めざるを得なかった。

 

「一応風邪薬も持って来たから、きつかったらパン食べてから飲んで。どうしてもやばいときは電話――あー……床をドンドン叩いてくれたら分かるから」

「分かった」


 サイドテーブルにマグカップやパンの乗ったお盆を置くと、ゆかりは最後までランバートの様子を気にしながら部屋を出て行った。

 しばらく扉の向こうからゆかりがバタバタ準備する音が聞こえていたが、下の喫茶店に下りたのかその音も聞こえなくなった。


「俺は何をしているんだ……」


 巻き込まれた側とはいえ国の転覆に関与し、友人たちの手を煩わせた。

 そのうえ恩人である彼女にさえこうして心配をかけ、あまつさえ自分の言い出した仕事に穴を開ける……

 自分に対する怒りや悔しさが心の中を渦巻くようにして駆け抜けていく。

 それを抑えるようにゆかりの作ってくれたホットミルクを一気に煽り、ベッドに横になった。

 蜂蜜の入ったそれはいつもより甘く、ランバートの傷付いた心に染みていった。



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