22. 祖国の近況
夏もそろそろ終盤を迎え、夜になると窓から時折涼しい風が入ってくるようになった。
当初の予定より随分と長引いてしまっているが、ゆかりの「せっかくだから日本での生活を楽しんでもらいたい」という気持ちは健在のようで、たまに連れ出してはランバートに新しい驚きを与えている。
山や川、街など、元の世界にもある場所も巡ったが、山の中を突っ切るように穴を開けたトンネルや、星空を観測するための巨大な望遠鏡、沢山の車が凄い速さで走り抜ける高速道路なんかは山の上から見ただけでも圧巻だった。
つい先日バーベキューをした際には、もれなく修司も着いてきたのだが、二人きりになる時間がなかったため物言いげな視線こそ送られたが前みたいに小言を言われることもなかった。
――そして、明日に控えるのは花火大会。
空だけでなく海面にも映るそれがとても綺麗だとゆかりから聞いていたランバートは、その光景を見るのをとても楽しみにしていた。
浮つく気分を抑え、明日に備えて眠りについていたランバートは、違和感に意識を浮上させた。
(なん、だ? 今のは……?)
誰かが遠くから話しかけてきているような感覚――
すぐに眠気を振り払い意識を集中させると、次第にその声が近付いてきたのか鮮明に聞こえるようになってきた。
「――ぉ……い、聞こえるか?」
「……フォルテか!?」
待ち望んでいた友人の声に、ランバートはガバッと身を起こした。
通信だからその様子は見えないはずだが、声からその勢いが分かったのか、フォルテの苦笑する声が響いた。
「その様子だと無事みたいだな」
「ああ。運良く親切な者と知り合うことが出来てな。その者に世話になっている。そっちはどうだ?」
「こっちはかなり面白いことになってるぜ? お前の部下が第一皇子に食ってかかってな」
「なにっ!? そんなことして無事なわけないだろう!?」
相手は仮にも第二皇子。
ランバートを異世界へ放り出したことを見ても、報復に何をしでかすか分からない。下手したらありもしない罪をでっち上げて死罪だと言われる可能性だってある。
自分のためにそんな危険を冒すことになった部下の処遇を危惧するランバートに、落ち着いた声がかけられた。
「まあ、最後まで聞け。証拠こそまだないが、見つかるのも時間の問題だろう。第三皇子が消え、その容疑が第二皇子にかかっている。流石に事なかれ主義の陛下も動くだろうな」
「だ、だが父上がその部下を切り捨てる可能性だってあるだろう!?」
「なぁに、お前の部下たちはかなり大々的に騒いでな。この件は民衆にも知れ渡っている。そんなことした日にゃあこの国は終わりだな」
「……そんなことが、本当に……」
国が滅ぶ。
何百年も続いてきたサンヴァウム国転覆の危機に自分たちが関わっていると知り、ランバートの顔から血の気が引いていく。
(あ、兄上は――いや父上はちゃんと事の重大性を分かっているのだろうか)
”事なかれ主義”、そうフォルテから評されたランバートの父は政治に疎いところがあった。
その都度周りがフォローに回り、事なきを得ているのだが、今回は派閥の問題が絡んでくる。
口だけは達者の側妃に丸め込まれて有耶無耶に済ませることだって何度もあった。
「ま、それはいいんだよ。そんなことより、お前をこっちに戻す手段なんだが、第二皇子派の俺の部下が二人姿くらましてっからそっち当たってみるわ」
「おい、あまり危険なことはするな」
「国が滅ぶ程の馬鹿はしねぇよ。そんで……あ、やべ。邪魔が入るわ。とりあえず半月後! また連絡するからあと半月待っとけ!」
それだけ言って突然切断された交信に、ランバートは唇を噛み締めた。
部下が、友人が、ランバートを助けるために今まさに危ない橋を渡っている。
(俺は……待っていることしか出来ないのか――!?)
知らぬ間に握り締めていた拳に爪が刺さり血が落ちるのにも気付かず、ランバートはしばらくの間、悔しさに肩を震わせていた。




