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高橋さんは色が嫌い  作者: ゆきんこ
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初めての相談者

 雑用役を全うして部活届けを提出し、顧問は近藤先生にお願いした。


 そしてまあ良かったのか悪かったのか分からないが、部活届は受理され部活は結成できた。そして部室は、去年廃部になったアニメ研究部の部室が空いていたのでそこを使わさせてもらった。


 そして俺は今、部室の椅子に腰掛け他の部活メンバーを待っていた。


「誰も来ないな……」


 そう思ったとき扉が勢いよく開いた。そしてそこに立っていたのは高橋さんだった。


「あれ? 京也一人?」


 俺は「うん」と頷き、高橋さんは唇を下から右の人差し指で押し上げた。


「うーん。もしかして逃げたのかなー」


 そう言ったとき、高橋さんの後ろから二つの声が聞こえた。


「遅れてごめんな」


「遅れてごめんなさい……」


 隆司と、昨日入部した大人しそうで控えめな、舞川さんだった。







 結局あれから十分たってもギャルっぽい感じの水瀬さんは来ず、四人で課題でもしていると、ドアがこんこんとノックの音がした。


「どうぞー」


 水瀬さんが来たのかなと思っていたがドアを開けた先にたっていたのは彼女ではなく、僕の隣の席の小鳥遊香子たかなしきょうこさんだった。


「ここに何の用で?」


「えっと、落ちていたビラを見て、相談したいなーと思ってここに来ました」


 まさか本当に相談者が来るなんて思っても見なかった。


「おっ! あなたは始めての相談者だよ。それで、どんな過去を変えたいの?」


「えっと、まず……」


 小鳥遊さんが変えたい過去は、今付き合っている伊藤史也にここ一ヶ月ぐらい全ての約束を断られ、LIMEでもスルーされているという話だった。


「それでようするに、伊藤の浮気を疑っているという話なんだねー」


 高橋さんは頷きながらそう言った。


「それはないです! だって史也がそんなことをするわけない!」


 小鳥遊さんは声を荒らげて強く言った。いつも大人しいのに声を荒らげたということは本当に史也のことが好きなんだなと僕は思った。そして彼女は「すいません……」と一言謝ったあとまた話し出した。


「史也のことだから何かいけないことに巻き込まれてるんじゃないかと思っています。でも信じたくはないですが……浮気も疑ってはいます」


「そうなんだ……でもまあ、なんとかなりそうだから期待しといてね!」


 どこからそんな自信が湧いてくるんだろうか。割と難しいような相談だと思ったんだが。


「ホントですか! できる限りのことはしますのでよろしくお願いします!!」


 そして小鳥遊さんはドアを開けて帰っていった。


「それでさ高橋。どうやって過去を変えるんだ?」


 さっきまで黙って話を聞いていた京也が話し出した。


「え? そんなの簡単だよ。時空の裂け目に入ればいいんだよ」


 時空の裂け目? そんなのは本とか映画だけの話だと思っていたのだがまさか現実にそんなものが本当にあるのか? 分からない。


「えっと……その時空の裂け目とかいうやつにはどうやって入るんだ?」


「うーんと。言葉に表すのはちょっと難しいかな。でも私が時空の裂け目を開くから私以外の人は目を瞑って過去に行きたいーって願ってれば大丈夫」


 それより高橋さんはなんなんだ? 確かに眼帯を両目に着けていて、それなのに視界はつけていない人と同じように見えていて、足は異常なぐらいに速いのだ。でもただそれだけだ。いや、それだけではないのか。そんなにだ。こんなに高橋さんは超人的な能力をもっているのだから時空の裂け目がーとか言い出しても高橋さんだったら可笑しくはない。


「まあだから心配しないでも二日後の土曜日にはいくから大丈夫大丈夫」


「そこは心配してねーよ」


「あはは。まあそうだね」


「そうなのかよ!」


「あはははは」


 そして、さっきまで黙っていた水瀬さんがなにか話したそうにこちらを見ていた。


「何か話したいことでもあるの? 水瀬さん」


「あっえっと、そろそろ帰らないと塾に間に合わないので帰ってもいいですか?


 厚かましくてすいません」


 部室の時計を見るともう六時になっていた。


「あっそうだね。帰っても大丈夫だよ」


「ありがとうございます。ではお先に……」


 そういって水瀬さんは早々に帰っていった。


「じゃあ俺たちも帰るか」


「そうだね。じゃあ今日は解散!」


 そうして今日は終わった。そして二日後の土曜日は過去に行くことになった。うまく解決してくれると嬉しいんだけどな。さてどうなることやら。









「あのさあ、高橋さん。色が嫌いってことで何か不便だったこととかってなんかある?」


 次の日の下校時、隆司が委員会だったので高橋さんと二人で帰っていた。


「うーん。不便だったことっていうか、生まれたときに色が嫌いだったせいで生死を彷徨ったことぐらいかな」


 色が嫌いなのはさぞかし苦労が多い人生を送ってきたのかと思っていたが、実は眼帯をつければなんの問題がないのだから、そんなに大そうな問題はなかったのだろう。


「じゃあ逆に得したことは?」


「まあいろんな特殊能力が使えるんだけど、その中には言えないものもやっぱりあってね、でも言えるものの中だったら、時間遡行したときにパラドックスをパラドックスじゃなくすることかな」


 そんなことが本当に可能なのだろうか。もしそれが本当に可能ならばいろいろなことを自分の思い通りにすることができるだろう。例えば自分の意中の相手を自分を好きにさせることだって工夫すれば可能だろうし、テストだって百点を取ることも容易いだろうし、競馬だって、親に買ってもらえば必ず的中させることだって可能だろう。


「でもそれって悪用すれば自分の思い通りに出来ると思うんだけど、それをしないのは何故?」


「まあいろいろあってさ……それで気づいたんだよね。人生って苦労したほうが面白いってことにね」


 そういったときの高橋さんの表情はどこか愁いを帯びた瞳でどこか遠くを見つめていた。



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