高橋さんのリレー
一時間目の授業は4×100mリレーで、五つレーンがあり高橋さんは三レーンの第四走者目で僕と孝志と同じチームだった。
「孝志、高橋さんって運動できると思う?」
「さあな。まぁ両目目隠ししてるんだから、できないんじゃね?」
孝志は第一走者を見ながらそう答えた。
「位置について、よーいどん!」
スターターピストルの音が鳴り響くのと同時に第一走者が一斉にスタートした。
三レーンの第一走者が転び、あれよあれよと抜かれていった。
「俺らのチームは最下位スタートか」
「まずいね」
そして第二走者は誰も抜けず、第三走者がやっと四位のチームとの距離を縮めただけだった。
「今思ったけどさ、高橋さんの運動能力って未知数だけどなんか『闇の帝王の力がこの足に宿る』とかいってめっちゃ足がはやくなりそうじゃね」
「はは。そうなったら面白いね」
そして第三走者が第四走者である高橋さんへとバトンを渡す。
僕は瞬きを一回した。一人抜いている。
僕は瞬きをもう一回した。また一人抜いている。
僕はこれが現実かどうか確かめるために目を擦った。
それは夢ではなく、また一人抜いていた。
この尋常一様ではないこの状況に全員が驚きを隠せない様子だった。
それはもちろん僕と孝志も例外ではない。
驚嘆している間にも高橋さんはもう一人抜いた。これで一位である。
ぎりぎりではあったものの一位との差が50mもあったのだからありえない程に早い。さらにそれが、両目に眼帯を付けている状態なのだから凄すぎる。
そして、高橋さんは一位でゴールした。
そこでさらに驚いたことが起きたのである。
なんと高橋さんは息切れをしておらず、それどころか飄々としていたのである。
そのときの三レーンのチームは、同じチームが一位でゴールしたのにも関わらず、ただただ口をあんぐりと開けて驚嘆しているだけで、歓声や驚きの喧騒さえもなかったのである。そんな異様な雰囲気が五秒間ぐらいは続いた後に高橋さんが帰ってきた。まるで遠くで家や車などが巻き込まれているのを傍観していた竜巻が僕たちを襲ってきたみたいな感覚だった。
ふと後ろを見ると、高橋さんは三レーンの列の一番後ろに堂々たる態度で座っていた。
「京也……あいつヤバイな」
喉から声を絞り出したような声で孝志は話してきた。
「うん。ヤバイね」
僕も同じように声を出し、そのあまりの驚きに裏声になってしまった。
「お前今、驚き過ぎて裏声になっただろう」
「うん」
そんな感じで驚愕のリレーの授業は幕を閉じたのであった。