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生徒会長の戦い

5月2日

休みの会社もあれば、出勤の会社もある。

そいう微妙な日にち。


本来、安田高校も休みであるが、生徒会は活動していた。

毎年この日に行われる生徒会集会のために。


一応、各部の代表も任意参加で参加を呼びかけられている。


こんなゴールデンウィーク中で、各部の代表が集まるのか?

運動部の部長は結構な人数があつまる。

休み中も活動している運動部は多いのだ。


だが文化部は参加人数が少ない。

GW中は休みにしている文化部多いため。


だが、彼らはそのせいで文化部の部費割り当てが少額なことを知らない。

そう、このGW中の生徒会集会こそ、部費の割り当てで最も重要なイベントなのだ。


このGW中の生徒会集会は、各部の活動目標や抱負をアピールする場になっている。

このアピール内容は記録に残され、それを元に生徒会と教頭が相談して部費の大まかな割り振りが決まるのだ。


この方式がとられている理由として、GW中に活動していないような部活は、部費も少なくていいだろうという校長の意向である。

その秘密を知る生徒は生徒会だけであり、基本は生徒会内の極秘事項だ。


そのためこの集会は参加している部活のほとんどが運動部。

文化部で参加しているのは、吹奏楽部と園芸部、そして幻想部だけだ。


幻想部は、この部費分配システムの秘密を生徒会長の安西良子よりリークされていたから、当然のように参加した。


すでに生徒会長と幻想部は、後ろ暗い癒着状態にある。


開始の時間になると生徒会長の安西良子が参加者を見まわした。


「では5月第1週目の生徒会集会を始めます。本日は各部の活動予定や今年の抱負、もしくは学校全体への意見などを聞かせてもらえればと思います。」


すると運動部が、順番に部の予定を発表しだした。

5月第2週目の生徒会集会では部費の分配が話あわれるので、各部は他の部活を牽制するためか微妙に『金がかかりそう』なことをアピールしてくる。

特に遠征などがある部は、『うちの部活は超大変そうだ』と主張していた。


今回の集会で部費の大まかな方向性が決まるという秘密は知らなくても、次回の為に必死に印象操作をしてきている。


そんな中、運動部の主張が終わると文化部の番が来た。

園芸部はそれほど強い主張はしなかったが、吹奏楽部は滅茶苦茶アピールしてきた。


「今年は地区大会突破を目指して練習量を増やしていますので楽器のメンテナンスやリードの買い替えなどで出費が大変です。5回以上コンテスト参加も予定していますので遠征も決まっています。遠征費も馬鹿にできませんので、費用的には運動部より大変です。」


吹奏楽部の部長は熱く語っていた。


そして最後に幻想部の番が来た。

部長の松尾進は、ここに来る前に行った召喚儀式の事を思い出しながら立ち上がる。

今回の召喚儀式でデルリカは楽しそうに言っていた。


『でしたら、他の部活の悩み事も松尾が解決すればよろしいですわ。大抵の問題はお兄ちゃんに相談すればなんでも解決しますのよ。それならば部費の獲得も容易いのではなくて?』


一呼吸して松尾進は堂々と声を発した。


「今年できたばかりの幻想部です。幻想部は異世界の事や、チートについて研究する部活です。一見しますとラノベや漫画を研究する部活に思われるかもしれませんが、我々の異世界パワーを使えば、どんな無理難題でもそこそこ解決できますのでみなさんも必要でしたら頼ってください。その皆さんからの相談解決の事も含めて部費は大目に頂きたいです。」


場はどっと笑いで包まれた。

まあ普通は笑うわな。

ウケ狙いの演説だと思われても仕方ない。


松尾進はさらに言葉を続ける。

「それと学校の事についても意見があれば言ってもいいという事でしたが、言ってもいいでしょうか?」


副会長の斎藤吉郎はイケメンをしかめて何かを言おうとしたが、安西良子がそれをサっと制した。

「学校への意見は大歓迎です。生徒会集会は本来学校をよくするための集会です。ですから続けてください。」


松尾進に先を言うように促した。

これは、事前に松尾進と安西良子が打ち合わせした事。茶番である。


だが松尾進は、そんな茶番を感じさせることなく堂々と演説を始めた。


「では言わせていただきます。俺は一年生でしたので、まず4月に部活を決まる時にどんな部活があるか把握するのが難しかったです。できれば各部の部長さんにはタスキでもつけて分かりやすくしてほしかった。そうすれば相談もしやすかったと思います。」


参加している部長たちが「なるほど、言われてみれば」とうなずいている。

さらに松尾は続ける。


「あと、生徒会の人は生徒会が活発に動いている事を生徒に知らしめたほうがいいと思うんです。ですので生徒会の人も役職をタスキに書いてかけてほしいです。それに先生方も名前と教科をタスキにしてかけてくれると覚えやすくていいと思います。」


そこまで言うと、安西良子は我が意を得たり大きく頷いた。

「それは中々大胆な意見ですね。ですが面白い。いっそ生徒全員にタスキを付けて貰うのもありかもしれませんね。各教科の先生は毎回違うクラスに行くので生徒の名前を把握するのは難しいでしょう。ですが生徒がタスキをしていれば注意するときもやりやすいでしょうし。」


そこに副生徒会長の斎藤吉郎が渋い顔で話に入ってくる。

「タスキを義務化ですか?生徒たちからは面倒だという不満が出ないでしょうか?」


そこで松尾進が話を引き受ける。

「今の生徒会長の意見を肯定的に考えるのでしたら、タスキへのデコレーションは自由ということにしてはどうでしょうか?必要な文字が読めればデコレーションは自由とすれば、制服の乱れを防ぐ効果があるのではと思います。デコレーションしていい場所があるなら、無理して怒られる制服への改造をするの人は減るのではと。」


後ろで黙って成り行きを見守っていた教頭先生が、今日初めて声を出す。

「面白い意見ですね。確かに服装の中で自由にできる場所を作るのは試したことがありませんでした。一度テストケースとして導入してみてもいいかもしれませんね。」


そこで安西良子は眼をきらりと光らせて松尾進を見る。


「幻想部さん、そういう貴重なご意見は大歓迎です。他の部活は自分の部についてしか言わなかったのに、幻想部はなにかと学校改善の事も考えているようですね。そういう心持の部は少ないので大変うれしく思います。そういう善良な部活には部費に関しても考慮いたしましょう。」


ここまでは、松尾進と安西良子のシナリオ通りに進んでいる。

ここに来る前に、打ち合わせしたとおりに。


だがここから二人にとって予想外の展開になる。


生徒会長の意見に、他の部が騒ぎ出したのだ。

「そんな部活に部費なんていらないだろう。」

「俺たちだって、学校の事くらい考えてるっていうの。」

「いい成績を残しているうちの部活にも、部費の確約をくれよ。」

「タスキとかダサすぎるアイディアだろ。」

「委員長の狐顔。」


いきなり立ち上がり安西良子はキレた。


「ゴラアア!いま狐顔っていった奴誰だ!ぶっ殺してやるから出てこいや!貴様の部は今から私が行って全員殴り殺してやるぞゴラァ!」


ひっつめ髪で吊り上がった眼が、怒りでさらに吊り上がっている。

手に強く握られたボールペンが凶器にしか見えない。


騒いでいた連中は一斉に静かになった。

安西良子は怒りの目で全員をねめつけ怒鳴る。


「おい!誰が言ったって聞いてるだろうが!誰だ、私を狐顔とか言いやがった奴は!今すぐ私に殺されに出てきやがれ!出てこないならここに居る全員をぶち殺すぞ!」


名乗り出たら、絶対に手に持ったボールペンで刺される。

そう思わせるキレ方だった。

だから犯人は必死に黙って身を縮める。

だが黙っていても危険そうだ。

全員が必死に言い訳を考えだす。


すると副会長の斎藤吉郎は恐る恐る声をかける。

「せ、生徒会長、落ち着いてください。気休めかもしれませんがそれを言ったのは男性のようでした。せめて女性の参加者は生きてここから逃がしてください。」


肩で荒く息をしていた安西良子は、深呼吸をしてゆっくり冷静になる。

そして殺し屋のような目になった。


「わかったわ。でも犯人がわからなかったから、ここにいいる男子は全員クロとして判断するわ。」


「えー」とか「横暴だー」とかいう声が聞こえたが、安西良子が殺意のこもった眼で睨んだら全員静かになった。

のちに副会長は語った「あれは高校生が発していい殺気ではなかった。小便が少しちびりました。」と。


そんな中、松尾進は手を挙げた。

この空気の中で手を上げる松尾進に、全員驚愕したのは言うまでもない。

副会長の斎藤吉郎は、驚きつつも「どうぞ」とだけ返した。


松尾進は立ち上がるなり真面目な声で言う。

「こふー。俺は生徒会長は美人だと思います。狐顔というよりはキリっとした系の美人です。」


それだけ言うと、すっと座った。


その言葉に、安西良子の殺気が消える。

まんざらでもなかったらしい。


何とも言えないプレッシャーに押しつぶされそうになっていた各部の代表は、少しホッとした。


少しだけ冷静になった安西良子は、怒りを押さえ込むようにゆっくり口を開く。

「そういえば話が途中だったわね。で、全校生徒にタスキをつけるって案だけど・・・」


すると各部の代表が一斉に絶賛しだす。

「タスキ、良いじゃん。」

「俺も部長ってタスキをつけて歩きたいな。」

「デコれるタスキとかナイスアイディアじゃないかな。」

「俺も早くタスキ欲しいなー。」

「おれ、卒業式で後輩の女子にタスキを上げるのとかやってみたいわー。」


急に全員が大絶賛の嵐。

各部長が総イエスマン。

もう、生徒会長の怒りを沈めることに必死である。


周りがイエスマンになったことで、少し機嫌が直る安西良子。

「ではタスキに関しては、生徒会集会において全員から賛成をもらったって事でいいかしら。」


「「「「「「「異議なーし」」」」」」」


こうして、このあと何とか生徒会集会は終わった。

ただし部の代表として来ていた男子は、松尾進以外の全員が出口で安西良子に殴られたのだが。


こうして、このあと安田高校では各自の名前や役職が書かれたタスキの着用が義務付けられる。

最初の1週間は賛否両論があったが、デコレーションが自由なのと思ったよりも便利だったため、すぐに受け入れられた。


タスキには小さいポケットがついており、スマホやハンカチを入れるのに適しているなど工夫もされた。

さらに、タスキを使った救急対応法の講習や、緊急時にタスキを繋げてロープにして脱出する方法なども説明され、生徒のテンションが少し上がった。

高校生にとって、テロリストが攻めてきたときに対する備えは大好物なのだ。


さらに部によってはタスキに共通のデコレーションを施すことで一体感を高めたり・・・

クラスの中では派閥が一目でわかるような友達バッジを取り付けたり・・・

だんだん生徒たちも凝った使い方を始めた。


結果的にひと月もしないで大好評になる。

3年後にタスキを廃止しようとした学校側に、生徒達から大クレームが出るほどに。


これは安田高校の歴史に残る、生徒会の残した偉業といえる。

しかし、なぜ安西良子がタスキの着用を推し進めたかの本当の理由は、幻想部のメンバーと教頭先生しか知らない。


そう、安西良子がタスキを推し進めた本当の理由。

デルリカからもらったタスキを、学校でも肌身離さず持ち歩きたいからという理由でしかないという事を。


そして運動部の間では、サッカー部が迫害されるようになった。

後に「文化部革命」と呼ばれる事件きっかけを作った犯人として。


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※文化部大革命:

運動部より文化部に部費が多く分配されるという快挙が行われた事件。

のちにその原因がサッカー部の部長が生徒会長に「狐顔」という失言を吐いたのが切っ掛けだったいう事がバレ、運動部内でサッカー部に対して風当たりが強くなる。

ちなみにこの革命のあった年に、吹奏楽部、漫画部、美術部、文芸部、手芸部、園芸部、科学部などが驚くほどの功績を残し、手話部やボランティア部の活動に感謝状がたくさん学校に届くことになる。

これにより、今まで低く見られていた文化部の活動も大きく見直されることになった。

これもまた、伝説の生徒会長である安西良子の功績として長く語り継がれるのだが、その理由がくだらないことは学校史の闇に葬り去られた。

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