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女神さまは気まぐれ

ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっと良いとこ見てみたい。」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、おいでませー」」」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。


「「「「いでよ!異世界の神々よ!」」」」


すると魔法陣が光りがあふれだす


そろそろ手慣れてきた召喚の儀式。

幻想部の4人は迷いなく踊りきった。


5月の1日でGWど真ん中であるが、今日も幻想部は張り切って部活をしている。


魔法陣から溢れた黄金の光が人の形になると、金髪美人のデルリカになった。

「皆さん、ごきげんよう。」


その場に居た5人は自然と膝をつく。

代表して、部長の松尾進が返事を返した。


「デルリカ様におかれました、本日もご機嫌麗しゅうことと存じます。」

「よろしくてよ、松尾。それで本日のお供えは何を用意してくださいましたの?」

「ぶふ、本日は評判のスウィーツのお店より、アイスを3種ご用意いたしました。右からバニラ、チョコ、ストロべりーとなっております。」

「なるほど大儀です。では植木、ティーを。」


祭壇の前に座りながら、デルリカはティーカップを差し出しつつ植木政子を指名した。

植木政子は、嬉しそうに駆け寄る。

指名されたことがよほど嬉しかったのか、普段は90度曲がっている首がちゃんと起き上がった。

デルリカにしてみれば、いつもお茶を入れるのが植木政子だから、植木政子がお茶を注ぐ係だと思っていただけなのだが。


お茶が注がれると、そのお茶を一口含みアイスに手を付け始める。

松尾達は、ただただデルリカの唇を見つめた。

一口アイスを口にれるたびに、舐めるように引き抜かれるスプーン。

その瑞々しい唇になんともいえぬエロスを感じていた。


(いかん、いつの間にか唇フェチになっているかもしれない)


精神力を振り絞り、松尾進はデルリカの唇から目を離し、胸に視線を移す。

そして、胸を見る視線に女性が敏感だという言葉を思い出し、ハッとして足まで視線を落とした。

神官のような服装ではあるが、座ると脹脛ぎから踝までの生足があらわになっている。

その白い肌ときれいなラインを見つめてしまい、松尾進は再度ハッとした。

(いかんいかん、脚フェチに目覚めてしまいそうだ。体のどこを見ても美しいとは、デルリカ様はなんと恐ろしいんだ。)


アイスを食べ終わり、デルリカが一息ついたところで松尾進は視線を上げてデルリカの顔を見た。

「デルリカ様、ではそろそろ本日の知恵をお授けください。」


優雅にティーカップをおろすと、デルリカは体を松尾に向けて座りなおす。


「よろしいでしょう。ではワタクシが見た異世界転移の例を一つお話いたいしましょう。もちろんこれは我らのマリユカ宇宙の出来事になります。一度だけマリユカ様の手違いでノープランで転移させれてしまった人が居ましたの。」

「ほほー、詳しくお願いします。」


「その男はお笑い芸人でしたが、不細工でまったく面白くない人でしたわ。その不遇な男は一つもチートを持たずに来てしまいましたの。この不遇で不細工な男がノープランで異世界転移したのがあまりに不憫だとお兄ちゃんが同情して、最上級の魔道の奥技を授けたのです。」

「それはそれでアリですね。」


「はい、天才大魔導士であるお兄ちゃんへの弟子入りは、世界中がうらやむ優遇と言えます。お兄ちゃんから学べば、20年は修業が居る魔法でも数十分で習得できるのですから。」

「なるほど、チートですね。」


「それだけでも優遇ですのに、お兄ちゃんはなんとその不細工なお笑い芸人に、女子高生型ゴーレムまで授けたのです。」


ガタリと全員が半歩前に出る。

「そ、それはどのくらいリアルな形状なのでしょうか?」

「売れないお笑い芸人が元の世界に戻る時にそのゴーレムも連れて帰ったのですが、誰もそのゴーレムが人間ではないと見抜けなかった程度には人間そっくりでしたわ。」


庄司信也が恐る恐る口を開く。

「そのお方は元の世界に帰ることができたということですが、帰った後はどうなったのですかな?まさかまた辛い人生を送ったのでしょうか。」

「いいえ、出っ歯の想像以上の人生だと思いますわ。元の世界に帰っても魔道の業は残っておりましたので、世界一のイリュージョニストとして名を残しましたのよ。美人女子高生型ゴーレムのアシスタンと共に。」

「おおおー、マリユカ宇宙はチートを持ち帰れるパターンなのですな。」


そこまで話を聞いて、なぜかこの場に居た生徒会長の安西安子がさらに一歩でる。


「デルリカ様、その芸人が元の世界に戻っても魔法が使えたということは、もしかしてチートは異世界転移をしなくても手に入れることが可能なのでしょうか?ちなみに今日のアイスは私が買ってきました。」


その場に居た全員が生徒会長を見た。

(生徒会長!じつは結構ファンタジーに積極的だな!そして自己アピールを忘れないのはさすが生徒会長。)


みなは生徒会長が野心を持ってここに来ているのだと思った。

だがじつは、きれいなお姉さまタイプのデルリカと、なんでもいいからお話がしたかっただけなのだが、そのことは幻想部のメンバーが生涯知る事のない秘密である。


そんな全員の心の動きを無視するようにデルリカは、ごそごそとタスキのようなものを懐から出した。

「可能ですわ。たとえばこのタスキは、馬車20台分の物を異次元に収納出来て、ステータス画面を表示でき、通話機能、鑑定、レーダー、栄養管理、撮影機能に、動画や静止画を撮影してメールで送る機能までついた優れものですのよ。自動修復機能に自動洗浄機能もついておりますので半永久的に使えます。」


それを生徒会長に手渡す。

「触って良いんですか?」

「どうぞ。手にしている時に目をつぶって手を見てください。右掌を見るとステータス画面が現れます。左掌を見るとスマホ画面が現れますよ。」


生徒会長は恐る恐る受け取り、目をつぶり自分の右手を見る。同時にステータス画面が現れ驚いた。

「わ、これがステータス画面ですか!すごいものですね。」


生徒会長は試しに、持っていたメモ帳をステータス画面に突っ込む。

するとするりとメモ帳は消えた。


デルリカは立ち上がると光になり始める。

「このアイスは良いものでした。貴女の事は気に入りましたわ。それは差し上げますわね。お兄ちゃんが片手間に作ったものですから、対価的には十分でしょう。あなたお名前は?」

「は、はい。安田高校生徒会長の安西良子と言います。」


デルリカの輪郭がぼやけだす。

「安西良子、覚えておきますわ・・・」


そしてデルリカは消えて行った。


デルリカが消えるとしばらくして、獣のような目で幻想部の4人は生徒会長を見る。


最初に動いたのは植木政子だった。

首を90度に曲げたまま、髪をたらしつつ地面を這うように生徒会長ににじり寄る。


「せ、生徒会長・・・それを・・・それを私に譲ってください。・・・お金ならいくらでも出しますから・・・。」


細長い手をのばす植木政子から逃げるように、安西良子は部室のすっみこに飛びのいた。

「これは私がデルリカ様から頂いたものよ。悪いけどいくらお金をつまれても譲れないわ。」


しかし、逃げた場所が悪かった。

すぐに幻想部の4人に囲まれてしまう。


だが安西良子は、必死にタスキを抱きしめる。

「なによ、私が頂いたんだからね。絶対渡さないから。」


庄司信也は泣きながら叫ぶ。

「ズルイですぞ!幻想部でもないのに、最初に神器をもらうとかズルイですぞ!しかも部外者なのに名前まで覚えていただくなんて!某なんて言葉を交えたこともないのに!」


武田健二にいたっては、血の涙を流していた。

「生徒会長!そのアイテムは我が前世から探し求めていたモノぞ!それをなぜ部外者の生徒会長が手にいれるのだ!しかも名前まで覚えていただいて!我は『バンダナ』と呼ばれているのに。」


この会話の中、なぜか植木政子が優越感のある視線を2人に送る。

なんせ植木政子はデルリカに名指しで『お茶を入れろ』と命令されたことがある。

このザコ供とは違うのだ。


混乱の中、生徒会長はこの4人を殺してでも逃げ切る事を考えていた。

憧れるほどの美しい女神様からもらったモノを、生涯手放さない覚悟で。

生徒会長、結構過激である。


すると殺気立った雰囲気の中で、一人だけ落ち着いている松尾進が一歩出る。

「こふー。生徒会長、冷静になってほしい。召喚の儀式をしたのは我々なわけですよ。生徒会長は部外者で召喚の儀式に参加していないから民の不満が爆発しているのです。」

「だからなによ!アイスを用意したのは私よ。いつもケチって自分で供物を用意しないあなた達が悪いんでしょ!」


すると、優しい笑顔で松尾進は首を横に振る。

「ぶふふ、俺は仁義の話をしているのですよ。たとえばその神器をもらっておいて、まだ部外者のままでいるのですか?それは仁義にかけるでしょう。」

「・・・何が言いたいの?」

「感謝を・・・そう、圧倒的な感謝をデルリカ様に示したいとは思いませんか?」

「それはもちろん、これからも感謝をしていきたいけど・・・」

「では、もうわかりますね。」


そこまで言われて、安西良子は気づいてしまった。

松尾進のたくらみが。


そして、心の中で松尾進の評価を10段階ほど上げる。

(こいつ、まだまだ立場が不安定な幻想部に、生徒会長である私を引き込む事で立場を盤石にする気だ!そして安定した活動さえ続ければ、このアイテムくらいなら、いつか自分も手に入れるチャンスがあると判断したのか。)


高校生とは思えない冷静な男。

見た目のコミカルな不細工さに騙されていた。

この時、安西良子は松尾進を自分と対等な相手と認めた。



しかし、生徒会長である自分がどこかの部活に所属するのははばかられる。

5月には部費の振り分けを行う会議も行われる。

だから生徒会長は公平でなくてはならない。


(しかし。デルリカ様が自ら懐から出して授けてくださった、この神器を手放すのは我慢できない。)


目をつぶり数秒悩む。

そして安西良子は折れた。

敗北したことを感じる。この男が自分の本質に気づいていると感じつつ。


そう、折れるしかないのだ。

生徒会長としての公平性など、デルリカから頂いたアイテムと比べればゴミ同然なのだから。

そんな心を見透かされたのだ。



「わかったわ。幻想部には入れないけど召喚の儀式には参加する。それでいいかしら?」


松尾進は悪い笑みを浮かべる。

「で、5月の部費割り当てについてですが・・・」


くっ、殺せと言い出しそうな表情の生徒会長。

「そ、それはもちろん考慮しよう。この部は実績はないが幽霊部員を含めると20名以上の大所帯だ。文化部としては最大の部費を約束しよう。」

「さすが生徒会長。わかっていらっしゃる。」


後ろ暗い交渉が成立した。

そして松尾進は、いつの間にか用意されていた召喚本のコピーを安西良子に手渡す。


諦めるように安西良子が、差し出された資料にの左手を伸ばそうとしたとき、その手の甲がブルルブルルと震えだす。

ちょうど、片方目をつぶって『くっ、殺せ』と言いたげな表情をしていた時だったので、偶然左手にうつるスマホ画面がコール状態だと気づいた。

安西良子は、目をつぶったまま左手の手のひらに現れたスマホ画面を操作する。


『もしもし、今あなたの念話スマホに直接話しかけていますわ。これは安西にしか聞こえていません。聞こえまして?』


画面に現れたのはデルリカだった。


「はい、気こえます、デルリカ様。」


初着信がデルリカであることに頬を赤くしながら喜ぶ安西良子。

幻想部のメンバーは、何が起きたかうっすら理解したのでおとなしく様子をうかがう。


『そういえば、ワタクシ達が初めて召喚されたときにチーズケーキとムースを用意したのは誰でしょうか?』


「あれは教頭先生です。わざわざ校長先生から奪い取ってきてくれたんです。」


『そうでしたか。あのお菓子にマリユカ様が大変喜んでおられましたの。ですのでお礼にその収納タスキと同じものをその人に贈りたいと思いますわ。渡していただけまして?』


「はい、喜んで!」


『では安西の収納タスキに転送しておきますわね。』


「わかりました。あの・・・幻想部の人たちには神器を与えないのですか?」


『なぜ彼らに与える必要が?ワタクシが一方的に知恵を与えていますが、彼らからは何も貰っていませんのよ。これ以上ワタクシから彼らに何かを与える理由がありませんわね。』


「たしかに・・言われてみれば、かなり図々しい話ですね。」


『ですがコレは彼らには秘密にしておいてくださいね。自分たちの至らなさに気づかず悔しがる姿を見るのも楽しいものですから。』


「は、はあ。わかりました」


『では用件は以上ですわ。それではごきげんよう』


ブチっと通信が切れた。


幻想部の面々は、安西良子の説明を待ってじっとしている。

少し思案して、幻想部に対して口を開いた。


「えっと、デルリカ様からだったのだけれど、このアイテムは貴方たちに渡す必要が無いと言うものだったわ。あと、同じものを教頭先生に与えるそうよ。」


武田健二は、目から血の涙を流しながらガックリと両手を床につく。

「ばかな!な、なぜ部外者ばかりが優遇されるのだ。我にも、我にも異世界の神器をお与えください・・・。」





そんな様子を、デルリカは姿を消して楽しそうに見つめていた。

(思った通り、部外者を優遇したら悔しがっていますわね。まだまだ遊び甲斐がありそうですわ。)


そうやって楽しそうに微笑むデルリカを、兄の長道は微妙な表情で眺めていた。

(デルリカは女神って言うより邪神だな。被害が出ないようにこれからも見守らないと行けなさそうです。)


幻想部の皆が、デルリカの悪ふざけで被害にあわないように、気を付けて見守ろうと心に誓う長道であった。


人物説明


幻想部

そこで彼らは日夜異世界に行くための研究をしている。


部長 松尾進

1年生。太っているが運動はそこそこできる。

眼鏡であばた面。


庄司信也

一年生 痩せて出っ歯で背が低い。

理屈屋で、とりあえず反論する癖がある。

通称バランサー。


武田健二

一年 中肉中背で髪が長い。

バンダナがトレードマーク。制服の袖は荒々しく引きちぎってある。

顔はだらしない不細工だが、筋トレが趣味。

ロリコン


植木政子

一年生 背がひょろ長い。首をいつも90度まげて髪で顔が隠れているので、妖怪と陰口を叩けれている。

当然クラスに友達はいない。

眼鏡で気弱。

しかし、学力は一番優秀。財力もすごい。

アイドルが好き。



デルリカ・ユリスク

長い金髪の美女。見るものすべてを魅了する美しさと言われている。

それが幻想部発足の発端となる。

義理の兄の故郷そっくりな世界にに興味を持ち、しばらく滞在することにした。

幻想部の面々からは「異世界転生の女神」として扱われているので、呼び出されるたびに適当なことを答えて混乱を呼ぶ。


長道・ユリスク

世界渡航中に迷子になったデルリカを心配して日本に似た世界に迎えに来た。

しかしデルリカが帰らないと言いだしたので、仕方なくこの世界にとどまり、幻想部を見守っている。


マリー

マリユカ宇宙の最高神。気まぐれで長道についてきた。

人の命なんてなんとも思っていないので、時々平気で幻想部の人間を殺そうとする。


北条安子

57歳

教頭先生。柔和なおば様という印象だが、昔は三角眼鏡で定規を片手にビシビシ生徒をしごいた数学教師。

話してみると、結構暴れん坊。


安西良子

生徒会長。ひっつめ髪で三つ編みにしているため、目が吊り上がっている。

あまり融通が利かないで、各部長とはよくケンカになる。

可愛いものや、きれいなお姉様が大好きな一面があるが、自分のキャラに会わないと自覚しているので隠している。

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