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チート会議

顧問の山田光秀は不機嫌だった。

「昨日は結局、自分が買ってきたケーキについて何も言わなかったよな。約束破りはいかんと思うぞ。」


幻想部部長の松尾進は、太った顔なのに涼しい表情を崩さない。

「ぶふふ、昨日はデルリカ様が来なかったので、約束は反故です。次回のデルリカ様にご期待ください。」

「お前っ、それは屁理屈だろう。」


部室で2人がそんな話をしている横で、植木政子は首を90度に曲げたまま、せっせと撮影機材を設置していた。

本日の召喚の準備中である。


ビデオカメラだけで5台。

かなり良い録音機材が2台。

さらに、自動で相手を追尾してシャッターを切るカメラが2台。


かなりのやる気である。


庄司信也も、そろそろ植木政子に慣れてきたのか、恐る恐る話しかける。

「植木嬢よ、すごい機材ですな。」

その言葉に、植木政子はゆらりと庄司信也を見た。

悲鳴を飲み込んだ庄司信也は、かなり強くなったと言えるだろう。


「これ・・・ですか?美女や美少女や美幼女が現れても・・・余すところなく記録するために・・・昨晩急いで・・・購入いたしました。」

「昨日急に買ったですと!でも、お高いのでしょ?」

「いいえ・・・たったの298万円です・・・・。ニッキュッパという奴です。」

「まあ・・・お安い?いやいや、お高いですぞ。すごい財力ですな。」

「パパに頼んだら・・・すぐに買ってくれました・・・。」


庄司信也は、これ以上このことに踏み込んではいけない気がしたので言葉を止めた。

資本主義の現実。

それによって惨めな気持ちになる前に、会話を止めた庄司信也は良い判断をしたと言えるだろう。


松尾進は植木政子が機材の設置するのを眺めながら、山田秀光をみる。


「ぶふふ、ところで先生。お菓子以外のおいしいものとかも試そうと思うんですがどう思います?」

「なんでそれを自分に相談する。でもまあ、物は試しだからいいんじゃないのか?」

「で、少々ご相談なのですが、」

「断る。」

「・・・まだ何も言ってませんよ。」

「聞かないでもわかる。自分に金を出させる気だろう。」

「では、お金を出すかどうかを決める前に少し想像してくださいぶふ。」

「何をだ?」

「麺類。それを吸い込むデルリカ様の唇とか興味ありませんか。まるでキスするような形の唇にヌルヌルと白いあれが吸い込まれるとか、合法エロだと思うのですよ。」

「わかった!うまいと評判の駅前にある喫茶店のパスタを買って来る。待っていろ!」


山田光秀は走り出した。


「飲み物は紅茶ですおーーー。」


そのやり取りを壁に寄りかかりながら聞いていた、武田健二はニヒルに笑う。

「さすが松尾卿だ。今日も山田を上手く利用したようだな。さすが前世で我と共に戦った盟友よ。」

「ぶふふ、利用とは人聞きが悪いですな。これは交渉ですよ、武田氏。」


そして二人で不気味に笑いあうのだった。


20分後、植木政子の機材設置を完了したころに、山田光秀も帰ってきた。


「ぜぇはぁ、買ってきたぞ。ここのタラコパスタは絶品だから、きっと満足してくれるだろう。」

「ではそのパスタを、祭壇に設置をお願いしますぶふ。」


当然のように教師を顎で使い、松尾進は魔法陣の前に立つ。


「では召喚の儀式を始める。ミュージックスタート」


音楽が流れると、幻想部の4人は踊りだす。

10分ほどの踊りが終わると、きっちり立って手を叩く。



ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっと良いとこ見てみたい。」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、おいでませー」」」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。


「「「「いでよ!異世界の神々よ!」」」」


すると魔法陣が光りがあふれだす


光は金色に輝き、人の形なる。

そして、長くユルイウェーブのかかった金髪を揺らし、デルリカが現れた。


「ふふふ、本日も召喚ご苦労ですわね。まずは用意してくださったものを食してもよろしいかしら」

5人は膝をつき頭を下げる。


「どうぞお食べくださいぶふ。」


「ふふふ、では頂きましょう。今日はパスタですのね。」


祭壇の横に置かれた椅子に座ると、デルリカは空のティーカップを持つ。

その動作は、誰かが当然注いでくれることを前提にした動きだった。

そこに慌てて植木政子が近づき、ポットに入った紅茶を注いだ。


「植木、今日もありがとう。」

「ひっ、も、も、もったいないお言葉、いたみ入ります。」


エビのように腰を折って植木政子が下がると、デルリカは一口お茶を飲み、パスタに手を伸ばした。


フォークでパスタを丸めとった後、瑞々しい唇にチュルンとパスタが吸い込まれる。

全員がその唇に集中した。

(山田先生をそそのかすために適当に言ったけど、美女の唇って思ったよりエロいな。)


なんとも言えない気持ちでデルリカの食事が終わるのを見守った。

デルリカの食事が終わり、お茶を飲み始めたところで松尾進が代表して口を開く。


「本日も異世界にかかわるお話をお聞かせください。」


するとデルリカはにっこり微笑みカップを置いた。

「その前に、あなた達は考える事が有るのではありませんか?」

「考える事・・・ですか?」


「そうです。異世界に行くと最初に何があるか知っていまして?」


松尾進は数秒考える。

「神様からチートをもらう事でしょうか。」

「ふふふ、正解ですわ。」


満足そうに微笑むデルリカはさらに言葉を続ける。

「では、あなた方はそのチートに何をもらうか決まっていまして?行ってから考えるのでは時間が足りなくなるかもしれませんわね。」


松尾の後ろで聞いていた武田健二は、目から鱗が落ちた表情になりガックリと両手を床につく。

「たしかに・・・そこの準備を怠れば、せっかくの異世界生活が地獄になる事さえあり得る。これは迂闊であった。」


「そこのバンダナは事の重大さに気づいたようですわね。異世界に行くのでしたら、そこを最低限決めたほうがよろしいですわ。」


松尾進も、歯をギリギリとかみしめる。

「確かに・・・。その最初の一手の準備をまだしていなかったというのは、我ながら迂闊でした。」


デルリカは立ち上がる。

植木政子が設置した自動撮影のカメラが、バシャバシャとフラッシュをたくがデルリカは気にしない。


「では、そこを決めたらまた相談してください。望むチートについてある程度のアドバイスもできると思いますので。では今日は失礼させていただきますわね。」


光に包まれ、デルリカは消えた。


同時に松尾進は立ち上がる。

「こふー。よし、第2回、幻想部会議を始める。お題は『手に入れるチートについて』だ。」


後ろで山田光秀が「また俺が買ってきたって言ってくれなかっただろ」とか言っているが、幻想部のメンバーにとってはそれどころではない。

植木政子がデルリカの使った食器を回収して、そっと自分のカバンにしまうのも気づかないほど幻想部内には危機感が募ったのである。


席に着くなり、武田健二は腕を組む。

「我が思うに、ベストは他人の能力を奪う系のスキルを手に入れることである。ラノベでもこの能力こそ最強なのは疑う余地もない。」


だがその意見に待ったをかけたのは庄司信也。

「いやいや、初期設定で弱かったら能力を奪う前に死ぬこともありえますぞ。やはり強力な回復魔法系を持つのが大事ですな。」


そこで、いつの間にか席に座っている生徒会長が鼻で笑う。

「わかってないわね。生産系チートが万能で最強でしょ。街中で力を蓄えることができるし、戦士系と商人系のどちらにでも行ける進路の自由さも良いじゃない。」


(いつの間に居たんだ生徒会長)


少し焦りつつも松尾進は一呼吸置く。

まだ発言していない植木政子を見た。

「植木さんはどんなチートが必要だと思う。」


首を90度に曲げた妖怪のようなたたずまいから、気弱な声が漏れる。

「えっと・・・バリューパックみたいのは・・・ないのでしょうか。自動翻訳、アイテムボックス、鑑定や探査みたいな便利機能セット・・・」


武田健二は腕を組んで少し考える。

「なるほど・・・植木卿の言う事ももっともである。チートが何個許されるかも考慮する必要があるな。」



そのあと、喧々囂々と話しあいが続く。



そんな中、松尾進だけは静かだった。

その異変に気付いた生徒会長の安西良子は、松尾進に水を向ける。


「松尾君、珍しく静かじゃない。君はどんなチートが重要だと思っているの?」


すると、両手の指を組んで肘をつき、顔の半分を隠すお気に入りのポーズから返事が返ってきた。

「ぶふふふ。みんな間違えている。どんな能力が欲しいかで考えるなど笑止。まずは目的を決めるのが先だ。そもそも飛んだ先の異世界の制限でどのようなチートが手に入るかは賭けになる。ならばまず目的を決めておき、それに沿ったチートを手に入れるように考えるべきでしょう。」


庄司信也は大きくうなずく。

「たしかにその通りですな。欲しいといった能力を神様が再現できる保証はないですからな。で、松尾氏はどのような目的のためにチートを選ぶのですかな?」


松尾進は眼をクワっと見開き、迫力を吹き出す。

「目的は一つ!ハーレム!エロいハーレムこそ至高。それが叶わないならば力も金も意味はなし!俺が異世界に望むのはハーレムのみだ!」


その時、全員の目には松尾進の後ろにドラゴンのような強力な気配が幻覚として見えたという。

それほどの迫力があった。魂のこもった言葉だった。


すると植木政子は90度に曲がった首をピンと正す。

「それでしたら・・・私はアイドルに囲まれるPになれるチートが欲しいです。何十人も可愛いアイドルに囲まれて・・・自分好みのアイドルを育てる立場になれるような・・・・チートが欲しいです。」

ある意味、エロいハーレムを望むよりも業が深い言葉だ。


すると庄司信也の眼にも力がこもる。

「でしたら某は、とにかく人に尊敬されるチートが欲しいですな。聖人のように慕われて尊敬される、そんなチートが。」

だから庄司信也は最初に回復魔法おしだったのだろう。クラスの皆に馬鹿にされて過ごすコンプレックスの現れかもしれない。


武田健二は静かに目を開く。

「我はとにかく強い力が良い。すべてを力で押し切れるほどの強さ。それが異世界の醍醐味ゆえな。」

この男は、深いこと考えていないので力を求めているのだろう。飛んだ先の異世界が平和である可能を全く考えていない。


最後に、なぜかいつのまにか会議に参加している生徒会長である安西良子が勝ち誇った顔になる。

「みんな考えが浅いわね。最後はお金よ。お金があれば奴隷をたくさん買ってきてハーレムも簡単に作れるし、遊びでアイドル育成もできる。施しをたくさん与えて尊敬もされることもできるし、軍を作って力を誇示することもできる。つまり大量のお金を稼ぐことが最高なのよ。」

さすが生徒会長、考え方が世知辛い。


端っこで寂しく座っていた顧問の山田光秀が顔を突っ込んできた。


「だったら自分は女神そのものを「よし、方向性は決まってきたな。」」


山田光秀の声にかぶせるように、松尾進の進行が入る。

「では、それぞれ目的に合わせてチートをもらう優先順を考えよう。1個しかもらえない場合もあれば10個もらえることもあるだろう。だから目的に沿ったほしいチートの優先順を決めておくんだ。そうすれば慌てずに最善の恩恵を授かれる。」


武田健二は椅子から崩れるように落ち、目から鱗が落ちた表情になりガックリと両手を床につく。

「たしかに・・・優先順をつけておば、あらゆる場面い対応できる。さすがは我が魂の盟友だ。天才か。」


その後、この馬鹿な話し合いは延々と続き、部活の活動記録にはそれぞれの欲しいチートランキングが記録される。


その話し合いをデルリカは楽しそうにずっと眺めていた。

帰ったふりをして透明になり、祭壇に頬杖をしながら。


(ふふふ、真剣なお馬鹿を見るのって楽しいですわね)


これからも、からかって遊んでやろうと心に決めるデルリカであった。

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