トラックは異世界への片道切符
女神召喚後、興奮冷めやらぬ状態になり、松尾進はなぜこのようなことが起きたか皆に問い詰められる。
だが、松尾進は呆れたように答えた。
「こふー。俺は最初っから本当のこと言ってたでしょ。偶然に女神降臨の場に居たから召喚法を教えてもらい、異世界転生や異世界転移の秘密を少しずつ教えてもらえる約束をしたって。ずっと言っていたのに。ぶふー。」
そういわれて、みな初めて理解した。
松尾進は初めから、本当の事しか言っていなかったと。
そのあと、松尾進は副会長から無理やりビデオカメラを奪い返し、その場はおひらきになった。
ダビングしてくれとせがまれたが、この日は無視した。
最初は高飛車にバカにしていた奴に、ダビングしてやる義理はない。
家に帰ってからも、松尾進は興奮が収まらない。
やっと異世界とのつながりを手に入れた自分に実感が出てきたから。
あの『お兄ちゃん』神様からもらった本を再度見る。
内容はたくさん入っているけど、今試したのはその一部だけ。
これからは、もっとこの本に書かれた内容を試していこうと決意する。
結局寝付けたのは夜中の3時を回ってからになった。
次の日、世はゴールデンウィーク。学校には部活の生徒しかいない。
松尾進が学校に着くと、すでに来ていた庄司信也がハイテンションに寄ってくる。
「松尾氏、昨日はすごかったですな。」
「庄司氏もこれでやっとわかっただろ。異世界の女神様の存在が。ぶふふ。」
「理解しましたぞ。しかもあそこまで美しいとは・・・。異世界に行けなくてもあの女神さまのご尊顔を拝することができるだけで幸せというものですな。」
「ぶふふ。まあ、喜んでもらえたなら誘った甲斐がある。」
しばらくすると、武田健二と植木政子も来たので、ビデをカメラをテレビにつなぐ。
「ぶふふ。では、昨日の映像を確認しようと思う。」
「「「さんせーい」」」
四人は席に座り、ビデオを再生した。
画面には昨日の自分たちが映る。
音楽をかけて踊る。
カッコ悪い踊りだ。
特に松尾進の踊りは贅肉が揺れて滑稽ですらある。
早送りしたい衝動をぐっとこらえて先を見る。
踊りが終わると、魔法陣が光りだし女神2人が現れた。
こうしてビデオで見ると、儀式が終わってから魔法陣が光りだすまですぐだ。
でもあの時はこの2~3秒が長かったと思い出す。
そして同時に松尾は安堵した。
(よかった、女神様達は幽霊みたいにビデオに映らないかもと思ったけど、普通に映っていた。ぶふふ。)
ケーキを食べだす2人の女神。
ここで異変が起きていることに気づいた。
ビデオにはマリーのアップばかり映っていたのだ。
「おいおい、これはどういう事ですかな?」
庄司信也が不満を口にする。
だが武田健二は満足そうだ。
「庄司卿、これのどこに不服があるのだ?むしろ我としては副会長に好感を持ったぞ。」
植木政子は首を90度曲げたまま、困った顔で苦笑い。
「たしかに・・・マリー様は可愛らしいけど・・・マリー様ばかり映っていて・・・・デルリカ様がほとんど映っていないですね・・・。」
松尾は確信をもってつぶやいた。
「こふー。副会長の闇がここに映っている。まちがいない、彼はロリコンだ。」
知りたくない秘密を知ってしまった4人だった。
ビデオをチェックし終わった頃に、顧問の山田光秀が来た。
「おいお前たち、俺にも昨日のビデオを見せてくれよ。」
「これから俺たちは会議をしますから、好きに見てください。ぶふ。」
しばらくして山田光秀が叫ぶ。
「おいおい、デルリカ様が映ってないってどういうことだよ。普通はあの美しさを録画するだろ!」
みな内心で少しホッとするのだった。教師がロリコンでなかったことを。
そんな顧問を無視するように、四人はテーブルに座り会議を始める。
部長である松尾進は、両手の指を組んでテーブルに肘をつき、その手で顔の半分を隠すように座る。
「では、第1回、幻想部の活動会議を始める。」
黙ってノートとペンを植木政子の前にすっと出す。
「あの・・・これは・・?」
「ぶふ。書記をお願いしたい。入部届の文字を見た限り、読める文字を書くのは植木さんだけだとわかったので。大雑把な内容を書いてくれればいいから。」
「あ、はい・・・わかりました。」
場の空気に押されて植木政子が書記になる。
部活である以上、活動記録を残さないといけないという義務があるので、無理やり記録係に任命してみた。
松尾進の思った通り植木政子は押しに弱いようで、面倒な記録係を押し付けることができ作戦成功というところだ。
だが実は、植木政子本人は普段妖怪扱いされることが多いため、きちんと頼られることは少ない。これはこれで少し喜んでいる。
そんなWIN-WINな状態になったところで、松尾進は本題に入った。
「我らの女神様であるデルリカ様から『トラックに飛び込めばいいんじゃない』というアドバイスをいただいた。これに対して意見のある者はいるか?」
腕を組んで目をつぶっていた武田健二が太い腕を小さく上げる。
「我としてもデルリカ様の意見は理にかなっていると思う。ラノベの世界ではトラックにぶつかるのは定番中の定番。間違いないと思う。」
庄司信也は出っ歯の顔をしかめる。
「いやいや、無茶苦茶な話ですぞ。トラックにひかれるとか危険すぎますな。」
だが、松尾進は眉一つ動かさず言い切った。
「こふー。では、デルリカ様の言葉に従う者だけで実施しよう。つまり俺と武田氏と植木さんだ。」
そこで植木政子は慌てた。
「わ、わ、わ、私もですか!む、む、む、無理です。私は・・・異世界の女神様に興味はありますが、痛いのはちょっと・・・。それに記録係ですし。」
「ふむ、まあ無理強いはしないぶふ。」
そして松尾進と武田健二でトラックへの挑戦を行うことになった。