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すぐそこに迫った地獄

授業が終わって放課後。


幻想部部室に部員が集まっているが、珍しく松尾進はいない。

今日は生徒会集会のため、部長の松尾進はそっちに行っているのだ。

当然生徒会長の安西良子も、生徒会集会にでている。


なので、残された部員の3人で静かに座って待っていた。


出っ歯で背が低く、顔もイマイチの庄司信也。

筋肉自慢でシャツの袖がワイルドに破かれている、バンダナ君こと武田健二。

ひょろ長くていつも首が90度曲がている、怨霊系黒髪ロング眼鏡女子の植木政子。


会話もなく、目も合わせず3人は気まずく待つ。


このは3人は、この瞬間にて気づいてしまった。


いつもは松尾進や安西良子が会話の中心に居たので、なんとなくワイワイできていた。

しかし、その二人が抜けるとうまく会話が進まないのだ。


そう、実はこの3人はほとんど話したことが無いのだ。

幻想部として一緒にワイワイやっていたけど、よく考えるとこの3人は松尾進か生徒会長とばかり話をしていた。


近くに居るのにほとんど話したことが無い。

そんな関係の3人だった。


(この沈黙は辛いですぞ。某から話題を振るべきですかな。)


沈黙に耐えられなくなった庄司信也は、気まずさにモゾモゾする。

残りの二人は、そんな庄司信也の挙動不審に気づいているが見て見ぬふりをした。

会話に慣れていないのだ。

ここで普通に会話ができるなら、きっと彼らはとっくに友達が沢山いるだろう。


庄司信也が決死の思いで口を開こうとしたとき、

バタリと部室のドアが開いた。


「お、今日は三人だけか?」


顧問の角刈り体育教師、山田光秀が大股で部室に入ってくる。


気まずかった3人はひそかにホッとした。

庄司信也は緊張のほぐれた顔でかえす。


「生徒会集会ですので、松尾氏と生徒会長は生徒会室ですぞ。」


「あー、そういえばそうだったな。部費争奪戦の日だったな。」


どさりと食べ物が部の机に置かれる。


「おや、その大量の食べ物はもしや貢物ですかな?」

「そうだ。お前たちはいつも俺が来る前に召喚を終わらせてしまうだろ。だから今日こそは間にあうように、いろいろ用意したんだぞ。デルリカ様をお招きするためにな。」


この数日は山田光秀が部室に到着する前に召喚は終わっている。

デルリカと対面できないことを、かなり悔しく思っていたようだ。


「では今日は余裕で間に合いますな。松尾氏が戻ってこないと召喚儀式をするための人数が足りませんからな。」


落ち着いて山田光秀が腰を下ろす。

「今日はいろいろ買ってきたから、どれか一つくらいは気に入ってもらえるはずだ。俺に感謝して召喚しろよ。」


召喚前に到着できて、少し上機嫌な体育教師であった。


そこで武田健司が運命を分ける発言。

「まてよ、山田先生を入れれば今4人いるではないか。この四人で召喚をしてしまっても良いのではないか?」


慌てたのは庄司信也。

「待たれよ武田氏!松尾氏なしでの召喚は危険ですぞ。細かいところで松尾氏の機転に何度も救われているではないですか。」


「しかし、それでは我らは松尾卿がいなければ何もできないようで情けなくはないか?」


植木雅子もヌーと会話に入ってくる。

「ですが・・・松尾さん抜きでやるとしても・・・せめて・・・生徒会長さんは居てほしいです。」


「植木卿、何と弱気な!我らがお荷物ではないことを証明するチャンスであるぞ!試そうではないか!」


そして全員しばし無言になる。


実は幻想部のメンバーは、最近少し『自分は松尾なしでは何もできないのでは』と感じ始めていた。

だからこそ、ここで少し心が動いてしまった。


だが、この時は大事なことを誰も気づいていなかった。

生徒会長は自分の知らないところでデルリカを呼び出したと知れば、めちゃくちゃ激怒しそうなことを。


それに気づかなかったからこそ、話は進んでしまった。

庄司信也は、出っ歯をきらりと輝かせて真剣目になる。


「そうですな。我らも幻想部の一員。そろそろ松尾氏なしでも出来ることを証明したいですな。」


なんとなく後ろ暗い気持ちで幻想部メンバーが話を進める中、山田光秀は止めるかどうか悩みだす。

(なにか変な話になってきたな。松尾なしでの召喚は危険な気もするが。

・・・いや、よく考えたら松尾がいなければデルリカ様は俺とも話をしてくれるかもしれない。うん、可能性はあるな。)


自分の欲望に負けた体育教師は、幻想部員たちの行動に乗る事にした。


そして4人は召喚の儀式の準備を始める。



10分後



体育教師の山田光秀も参加して、召喚儀式のフォーメーション。


ノリノリで武田健司が叫ぶ。

「ミュージック、スタート!」


召喚の音楽が流れる。

同時に4人はいつものダンスを始めた。


山田光秀だけは初めての召喚ダンスに苦戦したが、さすが体育教師。

すこし失敗しながら、何とか踊り切った。


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっと良いとこ見てみたい。」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、おいでませー」」」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。


「「「「いでよ!異世界の神々よ!」」」」


すると魔法陣が光りがあふれだす。


そしてその光の中から・・・・・



ぼろぼろの服を着た一人の少年が現れた。

細い眼鏡に、ドSっぽいイケメン。


少年は、光から現れると少しつんのめるように数歩前に出て周りをキョロキョロした。


「こ、ここは・・・・。もしかして、私は帰ってこれたのか!た、助かったのか!」


叫んで嬉しそうに膝をついて涙を流しだす。


その少年を見て山田光秀は不思議そうに小首をかしげた。


「お前は副生徒会長の斎藤吉郎か?なんで召喚の魔方陣から出てきたんだ?」


「それはこちらが聞きたいです。幼女神のマリー様にぶつかりそうになった瞬間、よくわからないジャングルに飛ばされました。そこで日々を必死に生きていたら、今急にここに戻れたのです。」


全員の頭に「?」が飛んだ。何が起きたかよくわからない。

すると、さらに光が現れて人の形になる。


なんとなく何処にでも居そうな雰囲気の男性。

長道だった。


「ふう、やっと助けることができました。この国の神様のタイヨウキ様が気にしていたから助けられて安心しました。」


庄司信也は一歩前に出た。

「長道神様、何が起きたのですかな?」


「いやー、マリー様が彼を転移魔法で吹き飛ばしちゃったじゃないですか。ですからこの数日、僕と里美とタイヨウキ様で探し回っていたんですよ。やっと見つけたんで召喚の儀式を利用してこっちに転移させたんです。」


そこで4人はハタと思い出した。

副生徒会長が消えたことを今まで忘れていたのだ。

冷たい連中である。


本当なら、ここで副生徒会長が帰ってきたことを喜ぶべきなのだろう。

だが体育教師の山田光秀は、すがるように長道に近寄る。


「きょ、今日はデルリカ様はいらっしゃらないのですか!?」


すると、とてもいい笑顔で返事が返ってきた。

「はい、来ませんよ。タイヨウキ様にマリユカ宇宙のお土産を渡して盛り上がっていましたから。」

「そ、そんな~。デルリカ様にお会いするのを楽しみにしていたのに・・・。」


長道は本当に申し訳なさそうに頭をかく。

「それはスイマセンでした。明日は来ると思いますから。」


山田光秀、32歳にもなって涙目である。

どんだけデルリカに会いたかったというのだ。


(教師ならデルリカに会えなかったことよりも、生徒が返ってきたことを喜ぶべきじゃないかな・・・)

長道の中で、微妙に山田光秀の評価が下がった。


「では僕は帰りますね。デルリカがタイヨウキ様にご迷惑おかけしないように見張らないといけないので。ではでは。」


そして光となって消えていった。


残った4人と副生徒会長。


儀式をした4人は、がっくり膝を落として悲しそうだ。

「こんなの、あんまりですぞ。デルリカ様がいらっしゃらないなら、せめてほかの女神様にご降臨いただきたかったですぞ。」

「我のドキドキを返して欲しいのである。出てきたのが副生徒会長と長道神様だけとか、あんまりである。」

「うううう・・・・女神さまに・・・お会いしたかったのに・・・」

「くそー!なんで自分が参加するときに限ってデルリカ様が現れないんだ。チクショー!」


召喚儀式を行った4人がそれぞれ嘆くなか、副生徒会長の斎藤吉郎は、眼鏡をクイクイしながら動揺していた。

「なんですか、私が帰ってきたのに悲しまれるとは、え、私は嫌われている?え?え?」


そして、みんなと一緒に膝をついてブルーになるのだった。


しかし、彼らは気づていなかった。

30分後に、生徒会集会を終えて松尾進と共に帰ってきた安西良子が、自分抜きで召喚儀式をしたことを知って激怒することを。


さらに斎藤吉郎は、ついでに安西良子の暴力を受けて地獄を見ることを・・・まだ誰もいづいていない。


逃げろ幻想部員たち、タイムリミットは30分だ。

体育教師山田光秀も逃げろ。安西良子は教師だろうと関係ないぞ。

そして斎藤吉郎、ほんと早く逃げてくれ。苦労した君がさらに地獄を見る不条理がすぐそこに迫っているぞ。


しかし誰も逃げない。だって誰も未来が見えないから。

そう、未来は変わらないだ。それがどんな残酷な未来であっても。

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