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サバ折り

お姫様抱っこで武田健二が退場すると、マリーは庄司信也を見てニコリとする。


「最後は出っ歯ですねー。出っ歯にはどんな呪いをかけようかなー。楽しみだなー。もう『一生彼女が出来ない呪い』をかけてあるから悩んじゃうなー。マリー悩んじゃうなー。」

「すでに呪いをかける前提なのはおかしいですぞ!まだ某は負けていないですぞー。」

「えー、でもチビで不細工な出っ歯では、お相撲で勝てないですよねー。さっきもバンダナに負けてましたし。大丈夫、良い呪いにしますからねー。」

「良い呪いなんてありませんぞー。」


楽しそうなマリー。

必死に叫ぶ庄司信也。


松尾進はそっと目をそらした。

(ヤバイ、庄司氏の為に急いで何か考えなくては・・・。)


松尾進はグルグルと考える速度を加速させる。

受験の時よりもよほど真剣に脳みそ使用中。


ぴかりーん


松尾進は庄司信也にそっと近づいた。


「こふ。庄司氏、俺を信じるなら全力でサバ折をしかけるんだ。あの大豊姫様の胸の谷間に全力で顔から突っ込むかんじで。」

「ちょ、ちょ、松尾氏!それは破廉恥すぎはしませんかな!」

「照れを捨てるんだ。勢いよく行かないと失敗するかもしれないからね。そうすれば50%くらいの確率で勝てると思う。こふ。」

「50%でありますか・・・」


同級生の女子と話をするだけで手が震える庄司信也には、ちょっとハードルが高い要求。

しかし松尾進は真剣な目で訴える。


「いまはエッチな気持ちを捨てるんだ。少しでも勢いが弱ければ一生後悔する結果になるかもしれない。俺を信じて顔から突っ込むんだ庄司氏!」

「・・・・わかりましたぞ。今は策士である松尾氏を信じますぞ。」


庄司信也の情けない目が、少しだけ決意で鋭くなった。

出っ歯もキリリ。


友を信じる。

それは簡単なようでいて難しい。


だが庄司信也は松尾進を信じることにした。

おのれの未来を賭けて。


パーンと勢いよく腰を叩いて土俵に上がった。


そんな庄司信也を大豊姫は優しい瞳で見る。


「大丈夫ですよ、恐ろしい呪いを掛けられたとしても生きてさえいれば良いこともありますから。」

「うおおおお、大天使様まで某が負けて呪われる前提なのは酷いですぞー!」


大豊姫だけではない。この場で庄司信也が勝利できると思っているのは居ない。・・・松尾以外は。


(こふ。庄司氏、俺の考えが正しければ勝算は半々だ。運命を・・・掴みとってくれ!)


祈るように松尾進は行司としての位置に立つ。

大天使・大豊姫と庄司信也も土俵に両手をついて構えた。


「はっけよい、のこった!」


松尾進の声に弾かれるように庄司進は顔から突っ込む。

大豊姫は今まで通り、突っ込んでくる庄司信也を真正面から受け止める。横綱相撲。


がっぷり四つに組むと見せて、庄司信也は大豊姫の背中を抱いてサバ折りに入った。

(松尾氏、信じてますぞ)


サバ折が決まった瞬間、なんと大豊姫が思いっきりのけ反ったのだ。

「痛たたたたたたた!ひー、胸に刺さるうううう!」


涙目で悲鳴を上げる大豊姫。

その光景に、誰もが目を見張った。

なぜ大豊姫が悲鳴を上げているか理解が追い付かないのだから仕方ない。


だが松尾進だけはニヤリとした。


実況の安西良子も慌てる。


「こ、これはどうした事でしょう。大天使様がのけぞって苦しんでいます!出っ歯君にそんな腕力があったのか!何が起きているか分かりますか?解説の植木さん。」

「は・・・はい。これは庄司さんだから・・・できた必殺技です。恐らく・・・大天使様の胸の中心に・・・庄司さんの出っ歯が・・・刺さっているのだと思います。」

「そ、それは反則ではないのですか?」

「噛みつきではありませんので・・・OKです。この技名・・・出っ歯サバ折り・・・私はそう・・名付けました。」

「反則ギリギリのラフファイト、出っ歯サバ折り!ここにきて出っ歯君がまさかの大番狂わせだ!」


庄司信也のコンプレックスである出っ歯。

それが今、最大の武器なっている。


抱き着いて、必死で顔を押し付けてサバ折をする庄司信也。

胸の中央に刺さる出っ歯の痛みから逃げるため、90度以上のけ反っている大豊姫。


庄司信也は勝利できると確信した。

(松尾氏、某は勝てそうですぞ!)


しかし

ここで大豊姫が反撃に出た。


のけ反りながら、庄司信也を持ち上げたのだ。

ぐいっと

その光景はあまりに衝撃だった。


いかに庄司信也が小柄だとは言え、のけ反った状態で大豊姫は腕の力だけで持ち上げた。


「え?え?え?」


持ち上げられた庄司信也は、そのままポイと横に投げられてあっけなく背中から落ちてしまった。


「ぐはっ!」

地面に転がる庄司信也。


「おーっと、まさかの力技!出っ歯君はチビで痩せているますが、それでもこれはひどい負け方だ。途中まで有利だっただけに辛い。」

「はい・・・確かに・・・庄司さんが勝つためには・・・これ以外に手はなかったでしょう。・・・ですが1歩及びませんでした。・・・彼は軽過ぎました・・・」


松尾進は土俵に転がったまま起き上がらない庄司信也にそっと手を差し出す。

「俺の作戦を信じてくれたのに、・・・ごめん。」


庄司信也は松尾進に肩を借りて立ち上がりつつ、首を横に振った。

「それは違いますぞ。勝率0%が50%くらいには跳ね上がったようなもの。むしろ勝ちきれなかった某の方が申し訳ないのである。」


しんみりとした空気になった。


が、そこでマリーが大爆笑。


「あはははは、出っ歯がぐさってして、ポイッってされた。あはははははは。」


庄司信也は青い顔でマリーを見た。

「あの、マリー様。やっぱり某に呪いをかけるのでありますか?」


にぱー

無邪気な笑顔が返ってきた。


「もちろんですよー。どんな呪いにしようかなー。そうだ『生涯大福を食べられない呪い』にしましょう。」


「え?大福を食べられないのですかな?」


「そうでーす。大福禁止です。あれは悪魔の食べ物ですから出っ歯にも禁止にしまーす。あははは」


しょぼい呪いだった。

庄司信也、イロイロ覚悟していただけに呆気にとられる。


静まり返った部室なかにマリーの笑い声だけが響いた。

ひとしきり笑ったマリーは椅子から立ち上がり、大豊姫の手を掴む。


「あー楽しかった。では私は漫画をもらって帰りますねー。漫画の続き待ってますからねー。バイバーイ。」


そういうと唐突に大豊姫と一緒に光となって消えて行った。




ーーーー



そのあと、幻想部の面々は文芸部の部室に呼ばれた。


理由は「呪いの検証」。

呪いをかけると言われたが、それとわかるエフェクトが無かったので、本当に呪いがかかってるか確認したかったから。


庄司信也に、文芸部部長の羽立凛子が大福をもってにじり寄ってくる。


「じゃあ出っ歯君、この大福を食べてみて。」


羽立凛子が手に持った大福を『食べろ』と突き出してくる。

ギャルっぽい先輩が身を乗り出して大福を食べさせてくれる状況にドギマギ庄司信也。


意を決して『あーん』して羽立凛子の持つ大福に食いつこうとした時、



パーン



大福は破裂した。

『生涯大福を食べられない呪い』は間違えなく発動していることが確認できてしまったのだ。


その光景に全員息をのむ。

そして文芸部から歓声が上がった。


「やったー、呪いは本物だ!」

「これで爆乳!貧乳生活とはおさらばだ―」

「私は約束されしダイナマイト。」

「ブラジャー新調しなくちゃー。」

「おっしゃー!美幼女女神様、サイコー。」


反対に幻想部の武田健二は、崩れ落ちるように両手を床につく。


「うおおお!呪いは真実だったか!我は生涯童貞が確定なのか!嫌だぁぁぁ、童貞のまま死にたくなぁぁぁい!」


悲喜交々(ひきこもごも)


一歩離れた位置から、呪いに一喜一憂する人たちを見つめる、安西良子と松尾進。

部室に差し込む夕日に照らされ2人はシリアスな顔をしている。


「松尾君、神様って怖いものなのね。」

「こふ。そうですな。ですがそれでも俺たちは進むしかないのです。この異世界道ってやつをね。」


2人は窓の外を見る。

沈みゆく夕日が、今日の激戦が無事終わったことを実感させてくれた。


背後で「爆乳ぅ」とか「童貞のまま死にたくないぃ」とか、魂の絶叫が聞こえるがあえて気にしない。


なぜなら明日も戦いは続くのだから。


頑張れ負けるな幻想部!

明日も修羅場だ幻想部!


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