大天使と聖なるバンダナ
文芸部編 中編です。
幻想部のメンバーと生徒会長の安西良子は、決死の覚悟で召喚の儀式を始めた。
いつものようにミュージックスタート。
4種類のダンスを音楽に合わせて踊る。
ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。
「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっと良いとこ見てみたい。」
ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。
「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、おいでませー」」」
ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。
そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。
「「「「いでよ!異世界の神々よ!」」」」
すると魔法陣が光りだし、光があふれると人の形になる。
この光景に文芸の5人は身を乗り出す。
「おおおお、マジでマジじゃないの!」
溢れた光が人の形になると、幼女になった。
水色の長い髪の毛が異世界感を醸し出している。
マリユカ宇宙の最高神、マリユカ様。通称マリー様だ。
「わーい、召喚されてきましたよー。お菓子下さいなー。」
「「「「「ご機嫌麗しゅう、マリー様」」」」」
見ると文芸部部員も本能的に膝をついている。
流石最高神。人は本能的に頭を垂れてしまうのだろう。
面々が膝をついてあいさつをすると、安西良子と植木政子が素早く祭壇に歩み寄り、お菓子とお茶を用意した。
急いでお菓子とお茶をセッティングしないと、マリーの機嫌を損ねるかもしれない。
みな緊張している。
マリーはニコニコ出されるお菓子を眺めている。
大丈夫、まだご機嫌だ。
準備ができると、まるでベテランメイドのように綺麗な礼をする安西良子。
「マリー様、本日はクリームスイートポテトをご用意いたしました。暖かいスイートポテト上にバニラアイスを載せて、メイプルシロップを掛けたものです。温かさと冷たさのハーモニーをお楽しみください。」
「わーい、安西ありがとー。いただきまーす。」
マリーはフォークを掴むと、ニコニコしながらクリームスイートポテトを食べ始めた。
子供のような食べ方なので口の周りがアイスで汚れるが、そのたびに植木政子が甲斐甲斐しくきれいにしてあげる。
文芸部1年の立花朝子は、そんなマリーの姿にメロメロになってしまった。
「美幼女女神様、可愛すぎる!可愛い!可愛い!すごく癒されるー。」
これはその場に居る全員の意見だ。
そう、これだけで終わってくれればまさに癒しの幼女なのだが・・・
数分後、マリーはクリームスイートポテトを食べ終わり、満足げにお茶を飲む。
松尾進はそのタイミングまで待って口を開いた。
「マリー様。お菓子の横に置いてあるその漫画は、漫画部がマリー様の為に描いたものとなります。もしも気にいっていただけましたら続きを依頼いたします。まずはその3冊をお納めください。」
「おおお、漫画とか欲しかったのですよー。面白かったら漫画部と松尾にご褒美上げますから、ちょっと待ってくだいねー。」
そういうとマリーは漫画に手を伸ばした。
今回用意した漫画は3種類。
マリーの好みがわからなかったため、あえてジャンルを散らしている。
小学生向けのバカなギャグマンガ。
すぐに人が血みどろで死ぬホラーもの。
相撲を題材にした熱血もの。
マリーは足をパタパタさせながら楽しそうに漫画を読みだした。
まずはギャグものを手に取る。
「あははは、こいつ馬鹿ですねー。長道のカレーウンコ並みに馬鹿ですよー。あはははは。」
(こふー。子供向けギャグマンガの感触は良さそうだ。しかし、時々マリー様が口にする長道神様のカレーウンコとはなんだろうか?)
微妙に新たな謎が浮上したが、それは一旦触れないことにする。
しばらくすると、1冊目を読み終わったマリーは上機嫌に松尾進を見た。
「これは面白かったですよー。馬鹿が出るお話は好きかもでーす。」
「承知いたしました。ではその漫画の続きを依頼しておきましょう。」
みな内心安堵する。
次にマリーは血みどろホラーものを手にした。
「あははは、頭ぱーんってなってますよ。おもしろーい。あははは人間が人間にかみ殺されてるー。あはははは。」
(え?そこ笑う所?ヤバイ、マリー様の笑いのツボが分からない。)
ちなみに、この血みどろホラー漫画は松尾進から見ても怖い漫画だった。
それがギャグ扱い。
さすが神様、人のセンスでは測れないものがある。
その本を読み終わると、最後に3冊目の相撲スポ根モノの漫画を手にした。
「あはは、デブバトルー。デブとデブの競演とか変なのー。あはははは。裸で抱き合ってるって事はデブでホモですかー。あはははは。」
さすがにその言葉には松尾進は反応してしまった。
「マリー様、もしかして相撲を見たことないのですか?」
きょとん
マリーはコテンと首をかしげる。
「このデブホモバトルは相撲というのですか?うちの宇宙にはないモノですねー。」
(しまった!相撲はこっちの宇宙にしかないのか。)
考えてみれば当然かもしれない。
他宇宙どころか、日ノ本の国以外ですら無いモノだった。
題材を失敗したと気づき、おのれの浅はかさに恥ずかしくなった松尾進。
「も、申し訳ありません。確かに相撲を説明なしで見ても理解できませんよね。」
するとマリーは無邪気にほほ笑む。
「(にぱー)これは松尾の国では普通にあるモノなんですね。デブが抱き合う競技ですか?」
「そうですね、相撲は競技です。丸い土俵という所から相手を押し出すか、足の裏以外を地面につけさせたら勝ちです。」
言われてもうまくイメージできないのか、マリーは少し眉を寄せる。
すると再び微笑んだ。
「よくわからないから、やってみて下さいなー。今大天使を一人呼びますから、それと相撲をしてみて下さーい。」
マリーがぱちんと指を鳴らすと、目の前に光が集まりだしその光が人型になった。
全員、新たに表れた大天使に目が釘付けになる。
「おおおお!すごい。すごい・・・胸が大天使だ。」
そう、現れた大天使は爆乳だった。
少したれ目気味のゆるふわ美人で、ブラウンの長い髪に背中から生えた植物的な羽が印象的だ。
「あの、マリユカ様。私はなんで呼ばれたのでしょうか・・・・。」
呼び出された大天使は不安そうに周りを見渡す。
察するに、いきなり無理やり呼び出されて何が起きているか理解していないっぽい。
「大豊姫、そこの松尾からルールを聞いて相撲とかう言うモノをしてみて下さいです。相撲なるモノが見たいのでーす。」
「え、相撲ですか?土俵の上で押しあうアレですよね?構いませんけど・・・そのためだけにマリユカ宇宙から私を呼び出したのですか?」
「そうですよー。相撲やってー。」
一瞬遠い目をした大豊姫と呼ばれた大天使は、深呼吸後にニコリと微笑んだ。
「承知いたしました。マリユカ様のために相撲を奉納いたします。」
出会って数秒なのに、この大天使は絶対苦労していると確信した松尾進。
(頑張れ、爆乳大天使さん)
そっと心の中で応援するのだった。
マリーがスクリと立ち上がる。
「はーい、ちゅうもーく。奉納相撲マリー杯を開催しますよー。もしも一人でも大豊姫に勝てたらご褒美あげまーす(にぱあ)」
ガタリッ
文芸部が身を乗り出した。
部長の羽立凛子が手を上げる。
「わ、私も参加しても良いでしょうか!」
その行動に幻想部部員はぎょっとしたが、すでに後の祭り。
マリーはぴょこりとジャンプして喜ぶ。
「もちろんでーす。どんどん参加してくださいねー。では松尾、ルールの説明をお願いしまーす。」
諦めて悟りの表情の松尾進。
生徒会長の安西良子と少しボソボソ話をしてから、大豊姫や他の皆にも聞こえるように説明を始める。
「ではルール説明をします。今から地面に円を描きますのでその中で素手で戦います。相手を円から押し出すか、投げたり転ばしたりして足の裏以外をつかせれば勝ちです。パンチとキックは禁止ですが張り手と足掛けはありです。あと魔法とか禁止でお願いします。」
そう言ってから床に円を描く。
そして庄司信也と武田健二を呼ぶ寄せた。
「では、まずは見本を見せますので、これで雰囲気をつかんでください。」
そういうと松尾は行司のポジションに立つ。
(よし、さりげなく行司ポジションに立てたぞ。これで俺は安全こふー。)
相変わらずコスイ松尾進であった。
庄司信也と武田健二は、仕方ないので土俵に上がる。
2人は土俵に上がると、腰を低くしてにらみ合う。
なんかスイッチが入ったようだ。なんだかんだでノリがいい。
松尾進は2人が拳を地につけたのを見計らって叫ぶ。
「はっけよい、のこった!」
バコン
勢いよく胸と胸がぶつかる。
庄司信也と武田健二は全力でぶつかり、がっぷり4つに組んだ。
しかし筋肉自慢の武田健二はパワーがある。
庄司信也はそのまま一気に押し切られて土俵の外に押し出されてしまった。
「勝者、武田健二!」
「おっしゃああ!」
力量差こそあったが、真正面からぶつかる気持ちのいい取り組みだった。
松尾はマリーに一礼する。
「マリー様、こんな感じです。」
「なるほどなるほどー。では次は本番ですねー。大豊姫、出番ですよー。」
「はいマリー様。この大豊姫、見事お勤めを果たして御覧に入れます。」
大豊姫は土俵に上がった。
対して羽立凛子も土俵に立つ。
「さ、ついに奉納相撲マリー様杯が始まりました、本日実況は生徒会長の安西良子が務めさせていただきます。」
「そして・・・解説は・・・植木政子で・・・お送りいたします。」
安西良子と植木政子は、マリーの近くに座り解説と実況を始める。
これは松尾進の入れ知恵である。
これで、おそらく安西良子と植木政子も安全になっただろう。
「はい、では実況を始めましょうか。土俵で大豊姫様と羽立部長がにらみ合っております。植木さん、この一番はどう予想されますか。」
「は・・・はい。先ほどの・・・見本相撲が・・・4つに組んでからの押し出しでしたので・・・そのイメージで勝負が始まると・・・思います。」
「なるほど、確かに相撲のイメージをあまり持っていない異世界の大天使様は、先ほどの一番を参考にするでしょうね。」
松尾進が大豊姫と羽立凛子の間に立ち、団扇をふるう。
「はっけよい、のこった!」
大豊姫と羽立凛子は、植木政子の予想通り4つに組んだ。
「植木さんの予想通り4つに組みました。両者土俵中央で足を止めました。さあこの後どう動くのか。」
「おそらく・・・数秒後に・・・大豊姫様が一気に押し切ると・・・思います。」
「なぜそうそう思うのですか?」
「だって・・・羽立部長は・・・大豊姫様の胸に顔が埋もれてしまっています。・・・あれでは呼吸ができませんので・・・。」
そう。いま羽立凛子は大豊姫の胸に顔が埋もれている。
大柄な大豊姫と真正面から4つに組むと、どうしても胸の脂肪に顔が埋もれざるえない。
羽立凛子は真っ赤なお顔をしながらモゾモゾ逃げようとしているが、大豊姫の爆乳がそれを許してない。
胸に挟まれて窒息間際だ。
「耐えるか羽立部長。押し込めるか?踏ん張るか?あー駄目だ息苦しさのあまり体をひねって逃げてしまいました。押される、押される。あー押し出されてしまいました。」
「決まり手は・・・・パイ押し出し・・・と名付けました。」
「パイ押し出し!恐ろしい一手ですね。果たしてこれを敗れる挑戦者はいるのでしょうか?」
「おそらく・・・居ないと思います。女子は・・・背が低いので嫌でも胸の谷間に捕まります。・・・男子は・・・本能が邪魔をして逃げられないでしょう。」
「なるほど、なんと恐ろしい必殺技。いきなり無敵な予感がします。大豊姫様が勝ち越す可能性が高いようです。」
解説の横でマリーがゲラゲラと上機嫌。
楽しんでくれているようで何よりだ。
しかし、笑いながらビシッと羽立凛子を指さした。
「そうそう、今負けた茶髪ちゃんには呪いをかけますねー。どんな呪いにしようかなー。」
その言葉に羽立凛子は青ざめた。
「え、嘘でしょ。やめてください。お願いします、爆乳に苦しめられて、さらに呪いを掛けられるなんて嫌ぁぁ。」
その言葉を聞き、マリーはニコリとする。
「あなたは爆乳が嫌いなようですね・・・。では大豊姫に負けた女の子にはGカップ以上の爆乳になる呪いを掛けまーす。大きいサイズには可愛いブラが少ないですから、下着の選択肢の少なさに苦しむのです。あは。」
文芸分残りの4人はガタリと立ち上がる。
「「「「私たちも挑戦します!」」」」
そして全員、あっけなくパイ押し出しで敗北して呪いを掛けれてしまうのだった。
しかし本人たちは、「残念、呪いかけらうちゃう」「呪いこわーい」とか言っているが、顔は嬉しそうだ。
きっと半年後には、文芸部は爆乳部とか呼ばれるのだろう。
「なんと文芸部は全員敗北です。しかし私としましては爆乳ではなく美乳になる呪いだったら受けたいところです。Eより大きくなるのはさすがにつらいと思うのですが、解説の植木さんはどう思われますか?」
「私は・・・爆乳になったら・・・きっとバラスが悪くて気持ち悪くなってしまいますので・・・Cぐらいになりたいです。」
この二人はなにを解説しているのだろうか。
マリーは楽しそうに武田健二を指さした。
「次はバンダナの番ですよー。負けたら生涯童貞の呪いをかけまーす(にぱあ)」
武田健二、いきなりの宣言に腰が引ける。
「いやいや、『生涯童貞の呪い』って、それはひどすぎるのではないか?もっと軽いのでお願いします。」
マリーは少し考えてニッコリ。
「でも勝ったら好きなジョブの能力を与えますよ。魔法剣士でも聖騎士でも暗黒魔導士でも。」
「なんですと!暗黒魔道剣士とかは可能でありますか!」
「うーん、魔法剣士と暗黒魔導士を与えればいいですかねー。そんなの簡単ですよー。」
「おっしゃ!危険な賭けに乗る価値ありである!」
鼻息荒く武田健二は土俵に上がる。
土俵に上がってから目の前の大豊姫を改めてみた。
なかなかの美人。
そしておっぱいの迫力。
モテない武田健二は照れて目をそらしそうになった。
しかし強い心で構える。
(頑張れ我。無茶を押し通すのだ!これに勝てば夢にまた一歩近づくのである。)
「はっけよい、のこった!」
松尾進の掛け声に合わせて武田健二は突進。
「どりゃあああああ!」
大豊姫はそんな武田健二を包み込むように待ち構えている。
武田健二は、そんな大豊姫の大豊胸を両手で下から持ち上げるようにムニュリと押し込んだ。
「きゃっ」
小さく悲鳴を上げて驚く大豊姫。
しかし、そんなこと気にせず武田健二は大豊姫の胸の谷間の中央に顔を突っ込んだ。
「おーっと、バンダナ君がまさかのエロ攻撃。これはセクハラではないでしょうか。おっぱいを下から揉み上げ、なおかつ胸の谷間に顔を突っ込んでいます。勝負よりも一時の快楽を選んだのか!」
「いえ・・あれはもしや・・・」
「知っているのか、解説!」
「はい、あれは『ハズ押し』という・・相撲の技です。相手の脇を掴むように押し上げ・・・頭を相手の胸につけて押し込む・・・相撲の基本技です。」
「なんと!セクハラ技かと思いきやまさかの正統派の相撲技!これは勝負の行方が分からなくなってきましたね。」
「本来・・あの対格差ですと・・・ハズ押しが決まった段階で勝負が決まります・・・。重心が浮きますので・・・パワーが意味を持たないからです。ですが・・・大天使様に謎のパワーがあれば・・・まだわかりません。」
解説している間にも、大豊姫はズルズル押されている。
武田健二が意外にも優勢。
必死に踏ん張りつつジリジリ押される大豊姫。
あと50センチほど押し込めば勝てるかもしれない武田健二。
観戦側も緊張で手を握り締める。
あと30センチ。
あと10センチ。
土俵際ギリギリ。
武田健二、勝てるのか!
誰もが武田健二の勝利を確信した瞬間。
あと1センチ押し込めば勝てるという所で・・・・
武田健二はがくりと足から力が抜け、土俵に膝をついてしまった。
「え?どうしたのかバンダナ君!勝利が目前なのに何が起きた! これは何が起きたのでしょう、解説の植木さん。」
「はい・・・恐らくですが・・・酸欠です。」
「酸欠ですか?」
「はい・・・胸の谷間に顔を突っ込んだせいで・・・呼吸ができなかったのでしょう。爆乳に顔を挟まれると・・・密着が半端ないので呼吸ができなくなるのです・・・。『パイ落とし』・・・私はこの技にそう・・・名付けました。」
「大豊姫様、まさかの逆転です!決まり手はパイ落とし!さすが異世界の爆乳天使。相撲の常識を軽々と踏み越えてくれます。」
土俵上では、膝をついたまま武田健二が気を失っていた。
真っ白に燃え尽きた感じだが、口元は笑っているようでもある。
松尾進は武田健二をそっとお姫様抱っこで抱き上げる。
「こふー。これで生涯童貞かもしれないが、羨ましい最後だったぞ。」
松尾進に抱き上げられながら土俵を降りる武田健二に、みな目を潤ませながら拍手をするのだった。
強く生きろ武田健二。
孤高の一匹狼として生きるなら、女性に手を出さない言い訳にもなる。
頑張れ武田健二、ゴーゴー我らの武田健二。
清く生きることは尊いことだ。誇りをもって生涯童貞として生きてくれ。
聖なる童貞に乾杯。チン
展開の都合上、行司の掛け声で相撲が始まるように書きましたが、実物とは多少異なります。
実際の相撲は、取り組む者同士が呼吸を合わせてぶつかり合います。




