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美術の闇

その日も松尾進は、いつものように呑気に授業を受けた。

何事もなく午前中が終わり、お昼休みになる。


「こふー。庄司氏、お昼はどこで食べる?」

「そうですな、どこか移動するのも面倒になってきましたゆえ、教室で食べますかな?」

「こふー。お弁当は持ってきているから、そうするか。」


ふたりは座席をつけて食事の準備を始める。

すると、クラスメートの田中君が松尾進に歩いて来た。


「松尾君、なんか先輩女子がたくさん来て松尾君を呼んでほしいって入り口で待ってるけど、どうする?」

「どうするって・・・断ってくれる?」

「無理。先輩だし。」

「だよな。伝言ありがとう。ちょっといってくる。」

「前回も女子の集団に呼ばれていたけど、松尾君てもしかしモテるの?」


すこし考えて、松尾進は首を横に振った。

「モテているんじゃなくて、幻想部の部長だからかな。部長とか面倒だと思ったけど、女子との接点が爆増えしたのは役得だったぶふ。」

「なるほど!僕も来年は自分部活をつくって部長になろうかな。」

「やりたいことを部活にするのは、楽しいからお勧めぶふ。」


そして松尾進は教室の入り口に行った。


顔を出すと、見たことない女子の集団がいた。

「あ、あの。俺が松尾です。」


すると女子の集団の中から、縦ロールの女性が一歩前に出てくる。


「あなたが幻想部の部長さんですね。私は美術部部長の伊集院佳代子と申します。お聞きしたいことがあるので、一緒にお昼でもどうですか?」

「・・・断ったら怒りますか?」

「女子トイレに、あなたの悪口をたくさん書いて、デマの悪い噂を流しても良いのだけれど?」

「うぐぐぐ、友人と一緒に行っていいなら。」

「快く受けていただけて嬉しいです。ではお友達も呼んで美術室に行きましょう。」


言われて松尾進は、振り返って庄司信也を呼ぼうとした。

しかし、、、


庄司信也はすでに居なかった。


(さすが庄司氏、素早い判断だ。こふ)


「いや、やっぱり俺一人で行く。他に聞かれてはいけない話もするかもしれないし。」


そこで美術部の女子たちがピクリと動く。

ヤバイ内容のようだ。


そのあと、6人の女子に囲まれるように美術室に移動。

美術部女子、松尾進を逃がさない気満々であった。


護送されるように美術室につくと、美術部のメンバーは松尾進を座らせてその周りを囲むように座った。

(ヤバイ、これはフルボッコの陣だ。)


小中学校で何度かいじめられた経験のある松尾進は、この陣形の記憶がある。

前にこの陣形を敷かれたときは冤罪を押し付けられたのを思い出す。クラスのリーダーがやった事なのに、無実の罪を擦り付けられたのだ。「俺がやりました、すいません」と言うまでクラス全員から精神をフルボッコにされた。

ゆえに『フルボッコの陣』と松尾進は名付けている。


焦ったがもう逃げられない。


正面には縦ロールの美術部部長、伊集院佳代子が足を組んで座っている。

「さあ、お話でもしながらお昼をいただきましょう。」


女性がスカートで足を組むと、なぜその足を凝視してしまうのか?

これは、男性七不思議に数えていいであろう現象だ。


足を凝視しそうになった松尾進は、慌てて弁当箱を開いて食事を始めた。

なんとも緊張する食事となった。


この後どんな事態が待っているのか?

考えると緊張しかない。


ある程度食事が進むと、伊集院佳代子は真剣な目で松尾を見た。


「松尾部長、じつは美術部と漫画部は仲がいいのです。デッサンの練習を一緒にしたり、背景描きを協力してあげたり、ポスター募集のコンテストとかあると漫画部にも描いてもらったりとかもします。」


そこで松尾進はピンときたので、言葉を遮る。

「幻想部の異世界パワーに目を付けましたね。」


「話が早くて助かります。昨日、漫画部が興奮しながら幻想部での出来事を話してくれました。それに向上した画力も披露してくれました。」


松尾進の眼が鋭くなる。

「美術部も画力向上をしたいと?」


すると、伊集院佳代子は首を横に振った。

「いいえ。私たちもそれをいずれ望むかもしれませんが、今は努力して腕を磨こうと思っています。ですからそれは今お願いするつもりはありません。」

「では何をご希望で?」


一拍置き、伊集院佳代子は妖しく微笑んだ。

「異世界の女神さまは、すごく美しいそうね。私たちは美しいものを見ることも大事な活動です。そして出来たら描かせてもらいたいと思っています。」


松尾進は明らかにホッとした。

(よかった。想像以上に楽な要求だ。)


「わかりましたぶふ。今日の放課後に幻想部に来て貰えるのでしたら、女神様の召喚を見学してもらって良いですよ。」


同時に周りに座っていた6人の女子が「わっ」と歓声を上げた。

自分を囲むように喜びで騒ぐ女子達。


急に居づらくなった松尾進は、下を向いて残ったお弁当をモソモソ食べるのであった。



そして放課後。



幻想部の面々が召喚の準備をしていると、美術部の6人がやってきた。


「松尾部長、今日はよろしくお願いします。」


そういいながら伊集院佳代子は箱に入った大福セットを差し出す。

一応手土産を持ってくる、礼儀正しい美術部であった。


そこに生徒会長の安西良子がくる。


「松尾君、今日はお菓子を用意出来なかったんだけど、そっちで何か用意している?」


いきなり生徒会長が登場して美術部のメンバーは緊張した。

すでに生徒会長が、いくつかの運動部を拳1つで壊滅させた話を聞いていたためだ。


『逆らえば殺される。許してもらっても半殺しにされる』


それが安西良子の評判だ。

ひっつめ髪にしていて目が吊り上がっているので、余計怖く見える。


しかし、松尾に対してフレンドリーに接する生徒会長を見て、少し緊張がとけた。

(怖いうわさが多いけど、所詮は噂ね。)


すると松尾進が伊集院佳代子を指さす。

「こふー。お菓子でしたら美術部さんが大福を持ってきてくれましたから、これをお供えにすれば良いです。」


そこで安西良子は美術部を見る。

「あら、あなたちも試練希望?でも今日は準備していないから後日にしてほしんだけど。」

「いいえ、今日は美しすぎる女神さまを拝見させていただこうと思いまして。美術部ですから、高次元の美に触れておきたいと思いました。」


その言葉に、なぜか安西良子は誇らしげにうなずく。

「デルリカ様の美しさは想像以上で驚くわよ。デルリカ様は絶対に美の女神様ね。デルリカ様を一度も見ないで死ぬなんて、人生の99%を損しているって思うくらいの美しさなのよ。」


そこでバンダナをした武田健二が首をひねる。

「そういえばデルリカ様は、どんな権能を持った女神様なのだ?神は大抵、なにか司るものを持って居るはずだ。」


首を90度に曲げた細長い植木政子もユラリと来る。

「で・・・では、今日・・・聞いてみましょう。ほかの・・・神様の事も・・・。」


松尾進は頷いた。

「こふー。確かにそこは大事だな。マリユカ様が無邪気で無慈悲な創造神であることは分かっているけど、他の神様たちについては知らないものな。よし、今日はそれを聞こう。その内容によって、異世界転生をするためのアプローチも変わるかもしれないし。」


そういって松尾が召喚の準備に入ろうとして仲間を見たら・・・


植木政子が美術部に囲まれていた。

美術部の6人は、ハァハァしながらスケッチを開始している。

「すごい!このモデルはすごい芸術的ね。どこか不安定さを持っていながらバランスの取れたシルエット。さらに他の追随を許さない独創的な見た目。これは筆が進みます!」


『生けるホラー』『テレビから出て来そうな悪霊』『B組の妖怪』等々、不吉な呼び名をたくさん持つ植木政子だが、気弱で秀才で金持ち。だけど女性的に気が利く黒髪ロングの眼鏡女子という詰め込み過ぎキャラ。

見る人が見れば圧倒的な濃いキャラで、魅力的なのだ。

美術部的には、イロイロ刺激されるのだろう。


植木政子がおろおろしながら、松尾進に助けを求める視線を送ってくる。

流石に見捨てるという選択肢はなかった。


「こふー。美術部の皆さん。植木さんをスケッチするなら、別途モデルとしてご依頼ください。今日はこれから女神さまの召喚を行いますのでさがって下さいね。」

「あら、ごめんなさい。ついスイッチが入ってしまいました。では彼女のスケッチはまた後日で。」


美術部が下がったところで、幻想部と生徒会長はいつものポジションにつく。


「では召喚を始める。ミュージックスタート!」


音楽に合わせて蟹股で踊り、クネクネおどり、ささげるような動きをして、激しく両手を左右に突き上げて踊った。


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっと良いとこ見てみたい。」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、おいでませー」」」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。


「「「「いでよ!異世界の神々よ!」」」」


すると魔法陣が光りだし、光があふれると人の形になった。


黄金の光が人の形になり、デルリカが現れる。


「本日も、みなさんごきげんよう」


「「「「「本日もご機嫌麗しゅう。デルリカ様」」」」」


幻想部の背後から「はうぁぁ」とか「うちゅくしぃぃ」のような声が聞こえてきた。

美術部が感嘆の声をあげたのだ。


デルリカは気にせず祭壇の前に座る。

そして目を見開いて、祭壇の上にある大福12個入りの箱を見つめた。


植木政子がお茶を入れると、デルリカは慌てた表情で松尾を見た。


「松尾!このおかしは、もしや大福ではありませんの?」


「はい、本日見学に来た美術部の皆さんが持ってきてくれました。」


するとデルリカは、いきなり立ち上がるとすたすたと美術部に歩み寄る。


いきなり現れたデルリカが近寄ってきて、美術部のメンバーは挙動不審になった。

遠くから見るだけで十分眼福な美人が、目の前に来たらそりゃ焦る。


しかし構わず、デルリカは伊集院佳代子の手をとった。


「あのようなご禁制の品物を用意してくださり感謝いたしますわ。大福はマリユカ宇宙では決して食べる事ができないレア食品ですのよ。」


ニコニコしながら、美術部全員の手を握った。

美術部全員、恋する乙女のような顔になる。

ちゃっかり美術部の最後に並んだ生徒会長も握手してもらう。


デルリカは嬉しそうに祭壇に戻ると、幸せそうに大福にかぶりつく。


じっくり味わうように噛んでから飲み込むと、恍惚とした表情になった。


「100年ぶりに味わう事が出来ましたわ。お父様が大福を大好きでしたのでワタクシも子供の頃はよく食しましたのよ。懐かしい味が食べられて感激ですわ。」


デルリカは次々に大福を平らげ、12個すべて腹に収めてしまった。

そして満足そうにお茶を飲む。


そこで辛抱強く待った松尾進は口を開いた。

「マリユカ宇宙で大福は食べられないのですか?」

「はい、マリユカ様が大福の存在をお許しにならないため、マリユカ宇宙では作成に成功できませんの。それどころか、大福を作ろうとした人は爆発してしまいますのよ。」

「・・・作ろうとしただけで爆発って・・・理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「ええ。実に恐ろしくバカげた理由ですの。マリユカ様の無邪気な悪戯にイラっときたお兄ちゃんが、マリユカ様の口に大福を突っ込んで罰を与えたことが原因ですのよ。その時マリユカ様は大福に八つ当たりをして、すべての大福に呪いをかけましたの。たったそれだけでマリユカ宇宙で大福は存在できなくなりましたわ。最高神を少しでも怒らすと、軽々と存在を消されてしまうという恐ろしい逸話ですわね。」


松尾進は、その話で背筋が寒くなった。

最高神という存在は、下手に触れてはいけないと再確認した。


「そ、そうでしたか。ところで本日は女神様達がどのような事を司っているかお聞きしたかったのですが、こういうことはお聞きしてもよろしい事でしょうか?」


デルリカは微笑みながら頷く。

「よろしくてよ。マリユカ様については説明不要ですわね。」

「はい、創造神にして最高神とおききしております。」


「そうですね。まずお兄ちゃんですが、お兄ちゃんは世界の法則を司っていますわ。お兄ちゃんが法則をきめると、マリユカ様がその法則を宇宙に適用いたしますの。お兄ちゃんが世界の法則をいじるようになってから、他の神様たちの労力が九割以上減ったと好評ですのよ。」

「さすが長道神様ですね。」


「そして里美は娯楽の神ですわ。マリユカ宇宙で初めてアイドルという職業を開発しましたので、世界中の芸事を修行する人から信仰されていますの。」

「たしかに、あのライブは圧巻でした。まさに神ライブ。納得ですぶふ。」


「そしてワタクシですが・・・」

「はい、デルリカ様はどのような事を司っているのでしょうか?」


みな少し緊張して待つと、照れくさそうにデルリカは語った。

「ワタクシは、断罪と殺戮の女神ですの。人間だったころ30代で人類最強の座を手に入れた後、90年ほど人類最強の称号を守り抜き、教皇として多くの悪を壊滅させましたわ。この手で殺した魔王も12体。滅ぼした国家は5つ。斧をふるって殺した人間は9560万7836人。ワタクシ、ジョブがバーサーカーでしたのよ。」

 

みな口を開けて言葉を失う。

さすがの松尾進も、パクパクするばかりで言葉が出なかった。


美の女神かと思っていたら、まさか断罪と殺戮の女神だったとは。

しかも、人間時代は教皇なのにバーサーカーで人類最強。

予想外過ぎて、固まる。


しかし、なまじデルリカと接点が無い伊集院佳代子は再起動が早かった。そして思わずつぶやいた。

「その時のお姿を見てみたかったです。」


するとデルリカは耳ざとく、その言葉をひろう。


「あなたは大福を持ってきたくれましたから特別にワタクシの雄姿を撮った動画を見せてあげますわ。」


すると、いきなり松尾の手を握る。

「松尾、貴方にマリユカ宇宙にある動画サイトの動画閲覧許可を与えました。美術部に後で見せてあげるといいでしょう。」


手を握られた松尾はフリーズした。

斜め後ろの植木政子から「ぎりぎりぎり」という歯ぎしりの音が聞こえたが、そのくらいは気にならない程度に焦る。

(やわらかい手だな・・・。しかもデルリカ様が近い・・・。)


顔が真っ赤になった。


背後から小声で「私もデルリカ様と握手したい」と何度もつぶやく植木政子は、呪文を唱えているようで恐ろしい感じになっている。

デルリカはそんな植木政子を見てクスリと笑った。


「植木も遠慮せずに手を伸ばしなさいな。握手くらい遠慮はいりませんわ。」

手を伸ばすデルリカに、首をシャキンと直立させて植木政子は満面の笑みで手を握る。


「ありがとうございます。デルリカ様は控えめに言っても世界一美しいです。」

「ふふふ、植木も世界一個性的でしてよ。」


こうして、植木政子にもマリユカ宇宙動画サイト『ナガナガ動画』の閲覧権が追加される。


庄司信也と武田健二も手を差し出したが、デルリカには華麗にスルーされた。


「ではワタクシはそろそろ帰りますわ。それではみなさん、ごきげんよう」

「「「「「本日もありがとうございました」」」」」


デルリカは光となって消えた。



デルリカが消えると、美術部がいきなり奇声を上げる。

「ふぉおおおおお!噂以上にお美しい!」

「手を握ってもらっちゃった、もう手を洗わない。」

「美しすぎる!ありえない美しさで鼻血出そう!」

「デルリカ様をお姉さまとお呼びしたい。」

「幻想部凄すぎる!女神が降臨する部活とか凄すぎるよ。」

「私のライフワークが決まったわ!いつかデルリカ様の美しさを再現して見せる!」


美術部はかなり喜んでいる。


そしてデルリカ動画鑑賞会は、土曜にゆっくりやることにして解散した。





ちなみに。

この後美術部は、植木政子とデルリカを描くことに集中し、その不安定と美の共演で全国的なコンテストで優勝。

6人全員は高校卒業は美大に進学。その後に絵画の世界で大成する。


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