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血塗られた漫画道

漫画部。

文化部の中でも、かなり偏見の目で見られることが多い部活だ。

それだけに、彼らは心無い発言もよく耳にして卑屈になっていた。


部員は4人。


部長の針山和樹は原稿を書きながら思わず愚痴る。

「このままじゃ、美術美に合併されることも覚悟しないといけないかな。」


そこに、いきなり太った男が現れた。


「こんにちわー、幻想部でーす。ちょっとお話よろしいでしょうか。」

そういいながら部室の入り口を開けてきた。


原稿的に特に修羅場というわけではないので、全員筆を止めて幻想部部長である松尾進を見る。

代表して部長の針山和樹が対応した。


「あ、どうぞ。陰気でパッとしないところですが入ってください。」


ぞろぞろと5人入ってきた。

幻想部 with 生徒会長。


メンバーに生徒会長が居たので針山は内心冷や汗をかく。

(廃部宣告か?幻想部に合併されるのか?)


針山和樹が聞いた噂では、幻想部という所は異世界転生などについて研究する場所だという。

生徒会長みたいなサブカルに興味のない人にとっては、同じようなものと思われているかもしれない。


そう考えて身を固くして客人の言葉を待った。


しかし、松尾進の言葉は針山和樹の予想とは大きく違うものだった。


「実は、剣と魔法の世界の神様に漫画をお供えしたいと考えているんです。もしそういう依頼を出したら、漫画部さんはこちらの希望の作品を書いてくれたりするのでしょうか?」

「えっと、もしもちゃんと希望があるのでしたらやってみても良いのですが、いかんせんうちは部費が少なくて・・・。」


すると後ろの方から生徒会長が鶴の一声。

「幻想部の希望を聞いてくれるなら、部費を去年の10倍に増やすわ。」


漫画部部員がザワリといろめき立つ。

去年は8千円だったから。10倍ということは8万円。

それだけあれば、もう自費でペン先やトーンを買わなくても済む。


ごくりと唾をのむ。


「それはすごい申し出ですが、なぜ?」


松尾進は真っすぐに針山和樹を見た。

「異世界の女神さまに、賄賂として漫画を持っていきたいからですぶふ。俺たちは真剣に異世界へ行くことを模索しています。ですので真剣に賄賂が欲しいんです。」


言っている意味は分かる。だから本気の彼らを否定することはしない。

漫画に身をささげる者であれば、異世界へ生まれ変わりを夢見たことは何度かある。


しかし、納得は出来ない。

「漫画が賄賂になるんですか?」

「もちろんです。女神さまにはお金とか財宝は意味がありません。向こうの世界で発達していない面白いモノが一番有効なんです。漫画はその意味で最適です。」


成程と思った。

しかし、OKとは言えなかった。


「その申し出に応えてあげたいのは山々なんですが、この原稿を見てください。」


渡された原稿を見て松尾進はうなずいた。

「なるほど、プロレベルには遠いですね。」

「はっはっは、ハッキリ言われるとむしろすっきりしますよ。そうなんです、我々は他人の依頼で原稿を納品できるほど上手くないんです。」


他の漫画部のメンバーも、つらそうに視線を落とす。


針山和樹は、これで松尾進がガッカリして帰っていくと思った。

しかし松尾進は真剣な目で見つめ返してくる。


「じつは俺たち、異世界のパワーを呼び込むことまでは成功しているんですぶふ。もしも命を懸けて危険に向かっていく熱意があるのでしたら、1日でプロ並みの画力をスキルとしてあげることができます。試してみませんか?」


その時、針山和樹はどうかしていたと思う。

他の皆が言う通り、漫画の見過ぎで頭がおかしくなっていたのではとさえ思った。

だが、その非常識な申し出に興味がわいた。


「詳しく!」


ーーー


次の日の放課後。

漫画部の4人は、幻想部の部室に来た。

幻想部の部室は異様だった。


床に書かれた大きな魔法陣。

さらにその手前に小さな魔法陣が4つある。


その奥で幻想部メンバーが、手にボウガンを持っている。


その姿に引き返したくなる。

(思ったよりもヤバイ。逃げなきゃ。)


しかし、無情に幻想部部室のドアは閉められた。

振り返ると、ドアを閉めたのは生徒会長、安西良子だった。

その手には日本刀が握られている。


引き返せない。進むしかなかった。


すると幻想部メンバーは手に持っていたボウガンを一瞬で消し去りこっちに歩いてくる。

振り返ると、安西良子の手から日本刀も消えている。


(え?あの大きなボウガンや日本刀が消えた?どうやって?もしかしてこれが異世界パワーかな。)


漫画部の一同が混乱してるのに、松尾進は構わず説明を始めた。


「では試練召喚の儀式をするぶふ。昨日説明した通り、戦いが始まったらどちらかが死ぬまで終わらないから覚悟をしてほしい。でもやり遂げれば画力の向上は約束するぶふ。」


場の空気の飲まれた漫画部4人は、言われるまま小さな魔法陣の上に乗る。


そして召喚儀式が始まった。


「ではミュージックスタートぶふ!」


音楽が流れると試練召喚のダンスが始まる。

今回は生徒会長、安西良子もダンスに参加している。


Aパートでは、Z状に動かしながら手を叩く。

Bパートでは、パン、パパンと手を打って「ひゅー」と飛び上がるのを繰り返す。

Cパートでは、バレーのようにつま先立ちになり、くるくる回り始めた。

そしてDパート。4人は逆立ちをすると、足で反動をつけて頭でくるくる回るのを繰り返す。


安西良子も難なくこのダンスを終える。やはりただモノではない。


曲が終わると同時に、膝立ちで両腕を広げて止まる。


そして手をたたき出した。


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっとお願い良いですか~。」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、アーンド、困ったときの長道様。おいでませー」」」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。


「「「「異世界の神々よ、欲するものに七難八苦を与えたまえ!」」」」



すると魔法陣が光りだし、溢れた光が2人の人の形になる。

1人は金髪の美しい女性、デルリカ。

もう一人は、いかにも普通の日本人という風貌の長道だ。


目の前の女神召喚に固まる漫画部。

だがデルリカは今日もマイペースだった。


「みなさん、ごきげんよう」

「「「「「ご機嫌麗しゅう、デルリカ様。」」」」」


長道が漫画部の4人に近づく。

「では試練の儀式を始めます。どのようなスキルを望みますか?」


針山和樹は我に返り返事を返した。


「我々は漫画部です。漫画が上手くなるスキルが欲しいです。スキルをもらえましたら、異世界神様の為に一生懸命漫画を描きます。」

「わかりました。でもこちらの為に漫画を描くのは適当でいいですよ。それよりも身に着けたスキルを使って有意義に過ごしてください。」

「はい、ありがとうございます。」

「足元の魔法陣を出たら敵が現れて襲ってきます。相手は本気で殺しに来ますので気を付けてくださいね。助っ人は何人いても構いません。では頑張ってください。」


長道は空中に光の魔法陣を作ると、漫画部の4人にその魔法陣を投げつけて、祭壇前に戻っていく。


デルリカはすでに用意された握り寿司を食べ始めていた。

「お兄ちゃん、お寿司は二人分ありますから一緒に食べましょう。」

「お寿司かー。マリユカ宇宙でもこれはお目にかかれなかったからな。ありがたいなー。」


植木政子がお寿司を食べ始めた二人にお茶を入れると、安西良子がタスキから日本刀を出して針山和樹に歩み寄ってきた。


「いい?一人ずつ片付けるから私が呼んだ人以外は絶対魔法陣から出ては駄目よ。」


漫画部4人は緊張の面持ちでうなずいた。

松尾進たちも準備を始める。ボウガンを植木政子かから受け取った四人は、扇形にポジショニングする。

幻想部員分のボウガンを一晩で用意した植木政子の資金力、相変わらずすごい。


「こふー。ボウガン用意OK!ボウガン隊は最初の一射をしたら接近戦で。突撃開始のタイミングは生徒会長に任せます。ではお願いします。」


安西良子は、針山和樹にミニボウガンを渡す。

「わかったわ。ではまずは部長が出てきて。」

「は、はい。」


ミニボウガンを持って、恐る恐る針山和樹が魔法陣から踏み出した。

すると、針山和樹の胸からペンが飛び出して、小学生くらいのロリメイドになる。


「あ、可愛い・・・」


針山和樹は一瞬見とれたが、その時すぐに松尾進が叫んだ。

「撃て!」


バシュ、バシュ、バシュ、バシュ


ロリメイドに4本の矢が付き刺さった。

「ぐああああ!おのれ、でも、あたちのご主人たまにふさわしいか試してやるですよ!」


ロリメイドは包丁を取り出し、腰だめに構えって針山和樹に飛び込んでくる。

そのロリメイドを、安西良子が迎え撃った。


「ガキがイキッてんじゃねーぞ!返り討ちだボケェ!」


ロリメイドの胸を前蹴りで蹴って動きを止めると、迷わず日本刀で袈裟斬りに振りぬく。

血を吹き出してよろめくロリメイド。


そのロリメイドを松尾進と武田健二が腕を掴んで抑えつけた。

「今ぶふ!漫画部部長さん、接近してそのボウガンでトドメをーー!」

「う、うわああああ」


頭が真っ白になった針山和樹は、走りこむと30cmくらいの距離でロリメイドの顔を撃ちぬいた。


バシュ!


衝撃で、ロリメイドの頭がカクンと後ろに反る。


そして、ゆっくり頭の位置を戻すとニヤリと笑った。

「なかなかやりますね、ご主人たま。あなたをご主人たまと認めるです。」

ロリメイドは光となってペンに戻り、地面に転がった。


パンパンパンパンパン


拍手の音が鳴る。

拍手しているのはデルリカだった。

「よく頑張りましたわね。さあ、そのペンを拾うのです。そのペンがあなたと精霊の依り代となりますから大事してくださいね。これであなたの画力と描写速度はぐんと上がりましたわ。」


放心しつつもペンを拾う針山和樹。


そこに長道が紙を持ってきた。

「試しに、そこのデルリカをモデルに四コマでも書いてみてください。今なら一瞬で出来るはずですから。」


紙を手にしてみつめると、急に思考が加速する。

頭の中で、今まで見た作品たちが駆け巡る。それらがバラバラの断片になり再び一つになる。

あっけなくストーリーができた。

それを描いてみた。


しゅしゅしゅしゅ


定規も使っていないのに、フリーハンドでコマ割りの直線が書ける。

そして下書きもなしで、ペンがさらさらと動き、イメージ通りに絵を描き上げる。


紙を渡されてから、四コマ漫画ができるまで1分ほど。

それで、完璧なデルリカ四コマ漫画が出来上がっていた。

漫画的ではありながら、特徴がつかめている美しいデルリカの絵が見事に描かれたている。


針山和樹は自分が書き上げた原稿を見て驚愕する。

「凄い!一瞬で構成が決まって、こんなに早く描けるなんて。しかも自分でも惚れそうになるほどうまい!」


部長はその原稿をもって、まだ魔法陣から出られない部員たちに駆け寄る。

部員たちは目を見開いた。


「これを今の一分程度で!」

「ラッキーマン級だった部長の画力が、ブリーチ級になってるですって!」

「しかも面白い!キャラの個性をよく掴んでいて、それでいてコミカルな展開をしている。しかも可愛らしい性格も表現されているだと。これを一瞬で思いついたんですか?」


驚愕する残りの3人に松尾進が歩み寄った。

「次は皆さんの番でぶふ。俺たちが一緒に戦うから、この漫画的な試練を乗り越えて、一流の漫画描きになってほしいぶふ。」


すると漫画部の部員たちの目が燃え始めた。


「はは、たしかにこの漫画的な展開は漫画部の僕らにはお似合いだな。いいぜ、Gペンなんか捨ててかかって来いよ。」

「面白くなってきたじゃないの。どうやら私の真の力を暴れさせる時が来たみたいね。」

「所詮漫画は血塗られた道ということか。ならば自ら進んでやろうじゃないか、殺戮の漫画道をな。」


さすが漫画部、スイッチが入ったらノリノリである。


そのあと、見事に3人も精霊を倒してスキルを得た。


針山和樹も遅れてノリノリになっている。

「美しき女神デルリカ様よ。この僕の漫画力まんがちからで、必ずやお役に立ちましょうぞ。」

「期待していますよ。」


武田健二は。漫画部を不思議そうに見つめる。

「連中は、どんなスキルを手に入れたのだ?」


すると長道は、軽く武田健二の肩を叩いた。

「気になるのでしたら、収納タスキについている機能「鑑定」を使うといいですよ。相手のステータス画面が見えますから。」


それを聞いて、武田健二は目から鱗が落ちた表情になりガックリと両手を床につく。

「しまった・・・。せっかく手に入れた異世界アイテムの機能を全然使いこなしていなかった・・・不覚。」


松尾進は、騒ぐ武田健二を無視して収納タスキの「鑑定」を使ってみる。



針山和樹 17歳

<イメージ出力(描画)><描画速度向上><情報観察力向上><情報再構成>



(なるほど、ストーリーを素早くつくれたのは<情報再構成>だな。)


漫画描きにとってネタの絞り出しは大変だ。

だが<情報再構成>のスキルにより、今まで見てきたストーリーをバラバラにして再構成することで楽々ネタを作っていたのだ。

上手なパクリ能力である。

今まで大量の漫画やアニメを見ている漫画部だからこそ、このスキルで新たに漫画が描けるのである。


一息つくとデルリカは立ち上がった。

「それでは、ワタクシはソロソロかえりますわ。みなさん、ごきげんよう。」

光となって消えて行った。


「あ、デルリカ帰るの?じゃあ僕も帰ります。」

長道も光となって消えた。


ちなみに

このあと、漫画部は急激に活躍を始める。

校内の注意文書やチラシ、それに入学説明用のパンフレットにまで、分かりやすい説明漫画を描くことで他の部活からも一目置かれる存在となるのだ。

さらに、漫画部の描いた漫画は図書室にも置かれるようになり、確実にファンを増やす。


半年後には、この4人はプロとしてデビューしてメジャー誌でも人気を得るのだが、それはここで語ることはやめよう。

ただ、そのために安田高校の図書室にある漫画部の自費出版本は、漫画オタクには『お宝』扱いされる程になった。



しかし一般生徒たちは知らない。

これほど活躍する漫画部に、実は部外秘の作品があることを。

その漫画は、定期的に女神様に捧げられているのだ。

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